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9発目 仮面

 息を切らし、やっとの思いで件のスラムの外れにたどり着く。そこには、一人の女の影。例の仮面の女だ!背中に緊張が走り、脂汗が滲み、怖気で身が震える。


 仮面の女は僕の気配に気づいたのか、おもむろに振り帰り、目的を見透かしように話しかける。

「お前の目的はこの剣だな?だが、渡すことはできない。」

初日の裏口での記憶がよみがえり、僕は震えるばかりでこの場から一歩も動けない。女の問いかけに返事をすることなど、もってのほかだ。


「以前にも警告したはずだ。グランデバイドに味方するな、と。」

動けない僕の喉元に、秋葉の剣を突き付ける。今度こそ本当に殺される───。そう思った瞬間、彼女の喉元にも剣が!

 女は即座に反応し、後退して間合いをとり、来訪者と向き直る。

「追いかけてきて正解だったな。怪我は無いか?大輝よ。」

震える僕はうなずくことしかできない。。



 仮面の女と剣王鶴ヶ島春香が相対する。



「誰かと思えば・・・。」

仮面が呟く。

呟いたかと思えば、女は春香に飛び掛かり、身体をねじりながら突進するように斬りかかる!

避けきれなかったのか、春香の前髪の何本かが切られ、地面に落ちる。


二人の女は、再び正面を向き合い、互いを睨む。


「剣王流と異世界人相手ではさすがに分が悪いか。この剣は返そう。」

緊張が走ったかと思えば、仮面の女はあっさりと秋葉の剣を手放した。

剣が地面に投げ捨てられる。


「何者なんだ貴様!」

春香が叫ぶが、仮面の女はもういない。




───



 剣を拾い上げ、任務完了の発煙筒を焚いたのち、僕らは城へ戻る。すると、昨日の野次馬集団にもいたアル中じじいが話しかけてくる。

「お、昨日の兄ちゃん、今日は別の女とデートか。プレイボーイやのう。けっけっけっ。童貞かと思っとったわ。」

いいえ、昨日のは勘違いではないです。今の状態の方が勘違いです。

酔っ払いに絡むのは時間の無駄なので、適当にあしらう。


 「ほう、大輝はプレイボーイなのだな。見かけによらないな。」

見かけによらないとは何だ。残念ながら見かけそのままの童貞ですけど?じじいがいらんことを言うものだから、春香まで勘違いしてしまった。


 「何なんだ、さっきの仮面と酔っ払いは?」

帰り道、春香が聞いてくる。

「仮面の女は僕が異世界に来た初日、5日前にも僕の前に現れて、グランデバイドに手を貸さないよう警告してきたんだ。酔っ払いは僕もよくわからない。」

知っていることはほとんどないが、知っていることはすべて話した。

「なるほど、奴が例の襲撃者ということか。難儀だな、ただでさえ『奴ら』との戦いで手が回らないというのに・・・。」

春香が呟く。


 どうやらグランデバイドの戦いの相手と、仮面の女の勢力は別みたいだ。そうなると、『戦い』の詳細が気になってくる。

 「その戦いっていうのは、国王補佐大臣が集会の時に最終局面って言ってたやつのこと?」

「ああ、そうだ。最終局面ではあるものの、奴らもしぶとくてな。膠着状態になっているというのかな。もう数年、最終局面と言い続けているよ。」

数年も膠着状態が続くとは、グランデバイドはオルタランドにて最強、といってもそこまでの超大国ではないということなのだろうか。

「へぇ。グランデバイド軍をもってしてもなかなか倒せないなんて、よほどの大国なんだね。」

「いや、国同士の戦いではないんだ。相手は単なる反政府勢力に過ぎないんだが、攻略しきれていないんだ。我ながら情けない話だろう。無能な武将と笑ってくれ。」

春香は自嘲気味に笑う。その顔は、自分の責任を痛感しているが、どうすればわからないという苦悩とで、板挟みになっているようで痛々しくて見ていられなかった。


 「そんなに自分のせいだと思わない方が良いんじゃない?あとはまあ、成り行きとはいえ、僕もグランデバイドの兵士だし、戦況が良くなるよう頑張るよ。」


 辛そうな大人の女性は見ていてこっちも辛くなってしまうので、僕は少しカッコつけて彼女を励まそうとしてしまった。

春香は拍子抜けしたように口を開けてしばらく静止したかと思うと、突然笑い出した。

「ハハハハハ!傑作だ!まともに素振りもできない奴が戦況を良くすると言うか!」

笑われちった。

「はぁ~、笑い過ぎて腹が痛い。さすがはプレイボーイ、痛々しいセリフをこうも真顔で言えるのだな。プークスクス。しかしその心意気、しっかりと受け取ったぞ。」


《HYPER コミュニケーション RUSH》 『継続!!!』 


笑われてはいるが、僕の意図は伝わったみたいだ。

『さすがはプレイボーイ』というのはじじいの言葉を真に受けたのか、プレイボーイ(笑)という皮肉なのか。聞きたかったけど、気が晴れた様子の春香に今聞くのは野暮だ。また今度にしよ。

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