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7発目 戦闘

 互いに剣を構える。


「いくでござるッ!」

「来い」


 キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!


 むっ、さすがは〈剣王流・厚木派〉だ。

 僕の素振りとは、剣速も重さも比べ物にならない。


 キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!


 ギャルが跳び退って間合いを取った。


「そ、想定外なんですけど!?」

「・・・・・・?」

「何で〈剣王流・厚木派〉のあーしが、〈異世界人〉に意外と苦戦してるかイミフ的な!?」


───


 どうやら、穂乃果は自分の想定よりも秋葉琢郎が強いことに驚いているらしい。


「何でと訊かれてもな。」

「ダイ吉には言ってないってwどしたんw」


それでも僕の言葉に反応してツッコミを入れる余裕はあるみたいだ。

 素人の僕からしても、穂乃果の剣捌きは僕の素振りとは比較にならないほど洗練されている。太刀筋は力強く、基本に忠実であり、達人が最終的に行き着く先はああいった形なのだろう。

 かたや秋葉はどうだろう。ハッキリ言ってしまえば、人が剣に振り回されているようにさえ見えてしまう。それでも穂乃果を少し焦らせることが出来るということは、彼の握る剣に秘密があるとしか思えない。

「てかさ、ダイ吉も剣貰ったんじゃないの?お願~い。助けて~。」

穂乃果も剣が怪しいという考えに至ったのか、秋葉と同じく剣を賜った僕を頼ってくれる。これは惚れさせるチャンスだ!


 僕は腰に手を当て、剣を鞘から取り出す───。

取り出そうとしたところで僕の手は空を切る。逃げた異世界人を探すだけだと思って置いてきたんだった。

「ごめん!忘れちゃった!」

「すみませんけどそれは笑えないです。次からは気を付けてくださいね。」

敬語で怒られてしまった。

 今のやり取りを聞いていたのか、秋葉は狙いを僕に定めた。

「デュフフ、剣を持たなかったのが運の尽きンゴねぇ。」

秋葉が大げさに剣を振るう。その無駄だらけな動作の隙に、穂乃果が間合いに割り込み、僕を庇う。

 再びの鍔迫り合い。秋葉が体重をかけ、穂乃果を威圧する。しかし、すんでのところで彼女は間合いを取って鍔迫り合いを終わらせる。体重のかけ先を失った男はというと、根本的な経験不足もあるのか、バランスを崩し、盛大に転げ、剣を手から放してしまう。秋葉の手を離れた剣は僕のところに転がった。僕はそれを掴み、前の持主の首元にチラつかせる。


 さすがに秋葉も戦意喪失したのか、抵抗することもなく、穂乃果に縄で縛られる。亀甲縛りだ、今夜僕もやってもらいたいものである。

 最後に僕がおいしいところをいただく、というあっけない形ではあるが、脱走した異世界人探しはこれにて一件落着───。



───とはならなかった。


 

 秋葉を縛り終え、僕らが辺りを見渡すと、そこには人だかりができていた。いや、この状況は人だかりと言うのだろうか?

 僕らを囲んでいる者たちは、おそらく魔族と呼ばれる者たちであろう。角の生えている者、尻尾のある者、紫の肌を持つ者などなど。

 葵から話には聞いていたが、実際に目にするのは初めてである。その魔族だかりのうちの一人が口を開く。

「おいおい、塀際が騒がしいから来てみたら、人間様がこんなスラムに何の用があるんだよ。よく見たらそこの女、四天王じゃねえか。役人様がパトロールってわけですか?」

「おいよせ!そんなこと言ったら殺されるぞ。俺たちは魔族なんだ。わきまえなきゃ。」

血気盛んな若者をなだめる者。

「人間、怖い・・・。」

人間を恐れる少女。

「兄ちゃん冴えないくせに偉い美人な彼女とデートしてるんやなぁ。ウイー、ヒック。あー、違うか、お店か。悪い悪い。」

あとは空気が読めない酔っ払い。いくら僕が冴えないからといって、そういうお店で遊んでると思われるのは心外である。てか、これに関しては穂乃果にも失礼だろ。

 反応はそれぞれだったが、みな一様に人間に良い印象は持っていないようである。それとアル中じじい。


 ほどなくして、騒ぎを聞きつけた兵がやってきたことで、野次馬達は各々どこかへ散っていった。



───



「さっきの人たちが魔族?」

魔族に違いないとは思うが、確認のため穂乃果に質問する。

「んー、まあね。ここって町の端っこじゃん?だからスラムになってて、魔族が多いんだよね。」

「町の中心部では、全然見かけなかったから気になって。」

素朴な疑問を投げかけただけのつもりだったが、彼女は少し答えにくそうだ。

「んー、言いづらいなぁ。まあでも、ダイ吉も知っといた方が良いかもね。魔族はね、許可証がないと本当は城下町に入れないんだよ。」

答えた後も、穂乃果はバツが悪そうだ。普段の軽いノリもこの話題の時は鳴りを潜めていた。

 それぐらい、グランデバイド城下町では、魔族の話題には触れてはいけないらしい。


 ギャルが暗い顔をしているのは僕の心も痛むから、僕はわざとらしく話題をそらし、スラムをあとにした───。



───



 スラムを後にした僕たちは、秋葉の身柄を刑務官に引き渡す。刑務官の口ぶりから察するに、秋葉は国家への反逆者として裁かれるそうだ。この罪状に対する刑罰を僕は知らないが、彼の予後については、想像したいものではなかった。


 刑務所からの帰り道、彼の処遇について、穂乃果が遠い目をしてポツリとつぶやく。

「あーし、秋葉がかわいそうでしょうがないよ。突然異世界に連れてかれて、剣渡されて戦えって言われてさ。誰だって戦いなんてしたくないのに、選ぶ権利もなく強要されてさ。おまけに逃げたら牢屋行きだなんて。あーしが兵士になったのも無理やりだったけど、大人になるまで長い時間があって、家の事情だって自分に言い聞かせる時間が十分にとれたから的な。」

つぶやきにしては長く重いその言葉は、僕にもあてはまることで、一歩間違えば僕も秋葉のようになっていたことを暗に示してる。

 過去の人生で一番、女性と長く触れ合えたことで舞い上がっていたが、自分は自分が思っている以上に危うい綱渡りを強いられていることに、今更気づく。


 その後僕は昨日のように、これからの平凡な毎日になるであろう夕方と夜を過ごしたが、秋葉のことが気になり、ずっと上の空だった───。

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