6発目 任務
「はいよろこんで!」
爆美女ギャルと二人で任務に行けると聞いて、内容を聞く前に返事してしまった。だが、後悔はしていない。これはもしかすると、人生2回目のチャンスが訪れるかもしれないのだから。
僕があまりにも勢いよく返事をしたものだから、剣王シスターズはポカンとして固まっていた。
「まだ内容聞いてないのに引き受けるとか、ウケるんですけど(爆笑)でも、時には深く考えないで行動することも大事だったり的な。」
「引き受けてくれるのはありがたいが、そうも食い気味に来られると、少し困るな。断っておくが、思っているほどの任務ではないぞ?」
言い回しは異なるものの、二人ともがちゃんと内容を聞くように、と諭してくる。
「頼みたい任務というのがだな。脱走した異世界人の捜索だ。」
なるほど、合点がいった。異世界人の僕であれば、脱走した異世界人がどこに行くかを元からのオルタランド人よりも予想することが出来る。
だけど思ったことがある。つまんなそう。
「おい!つまらなそうな任務だと思っても顔に出すな!」
バレた。危険なのはごめんだが、もっと派手なのを期待していた。
「あははwwwハルにバレるほど表情に出るとか(爆笑)」
どうやら春香は鈍感らしい。鈍感な春香にもバレバレなぐらいの表情になっていたみたいだ。
「そんな奴、伝手が無いんだからほっといてもそのうち戻って来るんじゃないの?」
「中には戻ってこないのもいるんよねー。0からたくましく生きてるか惨めに野垂死んでるかの二択的な。」
死なれたら一大事だ。そう聞くと、地味だけど大事な任務に思えてきた。
「せっかく召喚した異世界人が人目に付くところで死んでしまえば、王宮の信用問題にもなりかねないからな。」
───
中庭で任務の概要を説明された俺は、明日に備えて自室(になってるらしい客間)に戻っていた。任務は明日の11時ぐらいに開始で、詳細はその時に穂乃果から聞かされるらしい。うまく二人きりになれば、もしかしたら卒業できるかもしれないなんて淡い期待を胸に抱きながら、明日のことを考える。
ウキウキしたいが、引っかかることがある。『中には戻ってこないのもいる』『せっかく召喚した異世界人』という言葉だ。思い返してみれば、初日の集会の時に、昨日来たばかりなら異世界人だの、異世界人がいれば百人力だの、この世界の住民は異世界からの人間に慣れているように見える。
「異世界人ってたくさんいるの?」
昨日の今日だけど、ちゃんと働いてくれる葵に聞いてみる。
「たくさんの基準がわからないので、何とも言えませんが大輝さま以外にもいらっしゃいますよ。」
一介のメイドでも異世界人の存在を知っている、というか一介のメイドに世話を任せても良い、と判断されるぐらいに異世界人がいることの現れだろう。
「じゃあ、異世界人がオルタランドに来る理由とか方法も知ってるの?」
「メイドに過ぎない私には、そこまでのことはわかりかねます。」
何でも聞くことを教えてくれそうな葵チャンでも、何でもは知らないし、知っていることだけみたいだ。
単純に知らないのか、知っているけど隠しているのかは僕には判断できなかった。
───
昨日の晩は、一昨日のようなことは何も起こらなかった。僕が風呂に入っても、葵は脱衣所に着替えを置くだけで、浴室に入ってくることはついぞなかった。泣きました、僕は早漏で包茎で童貞です。
昨日は一昨日と比べて何もなさ過ぎたせいで、悶々としてしまい、ちゃんと寝られなかった。というのもあり、僕はまだ6時だというのに、待ち合わせ場所である城の入り口にたたずんでる。
何故眠れなかったか?昨日の消化不良ももちろん原因だし、消化不良なのに抜かなかったことも原因としての割合は大きい。しかし、一番の理由は、僕にはまだ希望が残っているということだ。
《HYPER コミュニケーション RUSH》 『継続!!!』
今日は剣王厚木穂乃果チャンとの任務の日なのだから!
───
・・・。11時になったが、穂乃果はやってこない。まあ、11時ぐらいという言い方で待ち合わせをしたわけだから、その内やって来るだろう。
───
・・・。11時が終わりを告げ、12時になる。もう11時ぐらいとは言えない時間になったが、彼女はまだこない。こちとら6時間以上待っているというのに、やはりギャルという奴はけしからん。もう帰ろうと思ったタイミングで呑気な声をかけられる。
「お待た~www」
今日の穂乃果はビキニアーマーではなく、この世界では一般的な感じの服を着て、やっと到着した。
「遅い!」
ビキニアーマーを拝めなかったので、間髪入れずに僕は強めにツッコミを入れる。
「ごめんて~w寝坊したけど化粧は譲れない的な。」
女性には色々あるみたいだ。でも、早く起きればよかったんじゃないかな。世の非童貞たちは女性のこんな行動を許しているのだろうか?
「んじゃ、行きますかぁ。」
僕のことなどお構いなしといった感じで、穂乃果は城と城下町を隔てる橋を渡る。あと、任務の説明は?
───
僕は穂乃果の後ろを歩き、二人で城下町を散策する。仲睦まじい親子の笑い声、野菜や果物が並ぶ露店の呼び込み、昼間から飲酒を進めてくるキャッチ、小さい金属製の玉を弾く娯楽の音、その店の前でうなだれる客。さすがはオルタランド最大の国の城下町、たくさんの人がいて、様々な店があり、活気にあふれている。
歩き始めてしばらくすると、穂乃果は歩くペースを落とし、僕の横に並ぶ。横に並んだかと思えば、彼女は出し抜けに腕を組んできた。
「な、なななな何を!?」
「こうやったらデートっぽくね?」
《HYPER コミュニケーション RUSH》 『継続!!!』
リーチがかかっている気がする。
「あはは、ダイ吉って下心丸出しなくせにやっぱどーてーだwww好きな食べ物は最後に食べる派的な。」
僕のあだ名はダイ吉らしい。
「な、なにがいけないんだよう・・・。」
大通りでこんなことを言われると恥ずかしいし、言われっぱなしだと体裁的にもよくないので、(弱弱しい声で)言い返してみる。現に何人かこっち見てるし。
「いやー、葵っちの日報の通りだな、って。」
そんなプライベートなこと書くなよな。やっぱりバカピンクだったか、あの場面で押し倒していれば、こんなこと書かれなかったのにな、と後悔する。
一転、真面目な顔をして穂乃果が僕に言い聞かす。
「でもこれも、隠密行動の一環だからね。あーしらの仕事は逃げた異世界人を連れ戻すこと。怪しまれないようバカップル演じるのも仕事のうちだから、頑張って経験者の振りして。」
最後の一言は余計な気がするが、彼女の言うことに異論を挟む余地はない。役人(一応)と異世界人の二人が目を光らせて歩いていたら、僕らの正体を知らない人が見てもおそらく怪しむだろう。これは怪しまれないためには必要なことなのだ。
「MY HONEY、今日はどこで休憩にしよっか?」
出来る限り最大限に、経験者を演じてみる。
「うーん、不合格。下心は見せすぎも見せなすぎも女子的には減点だから。やり直し。」
厳しい!でも、これはギャルからモテ男の秘訣を聞き出すチャンスだ。めげずに僕はもう一度演技する。
「月が綺麗ですね。」
「テンプレすぎるし婉曲的すぎ。バカな子は気付かないよ。ゼロ点。まぁ、どーてーだしゼロ点なのは当たり前か。でも、これ以上の減点は無いから上だけ見てれば良い的な。」
誰かの受け売りというのはやはり心がこもっていないと思われるのは、どの世界でも共通のことらしい。モテない僕だからこそわかることだ。
「厳しいっすよMY HONEY。」
「ウケるーwww早く自身つけて欲しいから、あえて甘口にしてみたけどそれを下回ったから為す術が無い的なwww」
辛口評価かと思ってました。だから僕は童貞なんですね。
でも正直に言うと、からかわれるのも密着されるのも割と楽しいのでずっとこのままでいたい。頼むからいさせてほしい。
だからお願いだ逃げた異世界人。なるべく長く、見つからないところにいてくれ。
「あっーーー!逃げた異世界人!」
僕の願いは一瞬で砕け散った。穂乃果が指をさす先には一人の男。自分が追われていることを自覚しているのか、穂乃果が僕の腕を解き走り出すより先に、逃げ始めていた。
僕も走る二人についていく。ていうかこんな簡単に見つかるなら、僕いらなくない、て思ったけどここで迷子になったら帰れないので、ギャルの尻を必死で追いかける。
隠密行動はどこへやら、ド派手なパルクールのごとく、地形を利用して逃亡者を追いかける。それ故に、群衆の注目も浴びてしまう。
「待てー!まだ間に合うから大人しくしろー!捕まらないなら逆賊とみなし死罪とするー!元の世界の父母兄弟も悲しんでいるから無駄な抵抗はやめろ的な。」
追跡者が恐ろしいことを口走ったような気がする。彼女が言うように男の行動は無駄である。無駄どころか、逃げることが逆賊認定の根拠になりかねないので、早く諦めるべきだ。
地の利は穂乃果にあり、逃亡者と僕らの距離は見る見る縮まる。
───
だが、男も頑張った。オタク風の外見でありながら城下町の端の端、要塞都市の壁の淵に追い込まれるまで、逃げ続けてみせたのだから。
「秋葉琢郎、もう堪忍するしかなくなくなくね?大したことはしてないから死罪はなさげだけど、縞々シャツ確定的な。」
穂乃果が諦めるよう、男・秋葉琢郎を諭す。
「デュフフ、そうはいかないでござるなぁ。ぽまいらの持論には共感できない故、もちろん拙者は抵抗するでござるよ。剣で!」
穂乃果の提案を拒否し、男は剣を構え、戦うことを選択する。
「うーわ、剣持って脱走した系ね。だるみ~。あーしは家の事情でやらされてるだけでこういうの本望じゃない的な。」
相手が脅しの道具ではないモノを手にしたからか、先ほどまでの穂乃果とは雰囲気が変わる。
ギャル、否、剣王流厚木派の使い手も剣を手に取り、戦闘態勢に入る───。




