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4発目 入浴

 シャワアァァァァァァァァ───


僕はシャワーを浴びていた。というのも、さきほど仮面の女と相対した際に、あまりの恐怖に失禁してしまったためだ。

葵に部屋まで連れ戻された時も腰を抜かしたままだったことが幸いしてか、なんと入浴介助にこぎつけました!

 恐怖で放心状態の僕を運び込んだMY ANGELは、僕が失禁していることに気づき、声をかけたそうだが、上の空な返事で目の焦点も合っていなかったことから、入浴介助をしてベッドに寝かせようと決心してくれたようだ。


 さて、みなさんここで疑問に思ったことがあるでしょう?

何故僕がこんなにも饒舌な独白を繰り出すことが出来ているのか?

 答えは簡単です。回復したからです。

え?何故回復したかって?ああ、それは葵チャンの裸体を見たからですよ。


 介護用風呂椅子に座った僕の正面には、片膝をつきしゃがみ向かい合う一人の美しい女性。透き通るような白い肌は手入れが行き届いており、一切の毛穴を見つけることができない。小ぶりではあるもののハリがあり若々しさを感じさせる乳房、その先端にはピンク色の花がツン!コークスクリューを思わせる美しいくびれ、瑞々しく咲き誇る芳醇な桃!

彼女の身体が目に入った途端、刺激に慣れていない僕の心は再び息を吹き返した。ああ、あの時死ななくてよかった。僕は生を実感する。すると自然と僕も元気を取り戻す。

 僕と共に、葵の視線も上向く。

「元気になったのですねお客さま。それでは私は失礼します。後は自分でやってくださいね。」


え、待って行かないで!


彼女は浴室からそそくさと出て行ってしまった。

普通に考えればわかることだ。出会って一日の人間と自由恋愛するなどありえないことなど。金銭の授受が発生していなければなおのことである。WEB小説のメイドさんなら問答無用で男に尽くしてくれそうなのだが、現実は世知辛い。


あ゛あ゛、お客さまに逆戻りしてしまった───。


 だけど僕は生殺しにされたまま終わる男ではない。葵の気配が脱衣所から消えた後、彼女のことを思い出しながら、激しく自分に問いかけた。


───


 悟りを開いた僕は上半身をシャツッと着替え、下半身をズボンッと着替え、新しい衣服に身を包み、水回りを後にする。


 客間に戻ると葵ともう一人、人の影があった。高島平耀司だ。

「まったく、やれやれだよ。葵から聞いたよ。君はもしかしてアレなのかい?」

童貞って言いたいのかこのやろー!馬鹿にしやがってー!だけど事実だ!教えてください世の非童貞たち、みんなはあのシチュエーションで無反応を決め込むことが出来るというのですか?

「君は庶民なのか?」

もっと失礼じゃないか。中世っぽいからしょうがないとは思うが、この世界の住民は身分があることを当然と思っているようだ。

「いや、失礼。人を出自で判断するのはよくないネ。僕が悪かったよ★」

失礼な奴だと思ったが、すぐに訂正し謝れるあたり、きちんと教育を受けているのだろう。これは僕の推察に過ぎないが、高島平耀司という男はおそらくオルタランドの中ではリベラルな部類だと思う。


「君、童貞なだけだな。」

はい、やっぱこいつ超失礼。


「ハッハッハッ、冗談だよ。見たところ20代半ばのようだが、その年齢の童貞なんているわけがないものナ★」

フォローのつもりらしいが追い打ちであり決定打だ。

『異世界生活一日目 僕は死んだ。』

ナルシ野郎になぜ風呂場での出来事を言うのか。アホピンクも同罪だ。


「あ゛あ゛~、何で言っちゃうんだよぉ~、葵ちゃん~。」

「日報はしっかり書くように、と教育されていますので。」

文字にも残っているらしい。死のうかな。


 「だいぶ回復したようで安心したよ★」

うなだれる僕に、耀司が真面目な感じで話しかけてくる。

「ワタシが他の兵を運んでいるとき、葵が魂が抜けたみたいになっている君を運んでいるのを見つけてね、ただ事じゃないと思ってサ★急いでここまで走ったのサ★」

耀司は失礼な男ではなかった。さっきの軽口は僕を気遣ってのことだったことに気づく。

「なんの訓練も積んでいない君に突然戦うよう言ってしまって悪かったネ★突然の出来事でワタシも余裕が無かったんだ、許してほしい★」

「緊急事態だったなら、謝らなくていいよ。」

握手を交わす。朝食前の社交辞令の握手ではなく、この握手は俺達がBROTHERになった証明だ、チェケラ!


 冗談めいた話は終わり、話は真面目な内容になる。ちなみに、童貞の下りは僕にとっては冗談ではない。

「だがしかし転生者、いや、ダイキ。あそこまでおびえた理由を教えてくれないか?いくら素人が不意打ちを食らったとしても、あそこまでになるとは考え難い。」

葵からの評価が『お客さま』に戻ってしまった代わりに、耀司からは『ダイキ』にランクアップした。

「不気味な仮面の女に襲われたんだ。手をかたどったような仮面をしていて、僕に斬りかかってきたけど、最後は何もせず、どこかへ行ったんだ。」

「仮面の女か。そんな話は誰もしていなかったな。中庭に侵入してきた襲撃者で仮面をしている者は一人もいなかった。謎は深まるばかりだな。」



 この後も、襲撃時のことについて事細かに聞かれ、検証したが何かの手がかりになるようなことは一つとしてなかった───



───



 夜も更けたから今日は寝るように、そう言い残して耀司は自分の家(?)部屋(?)へと帰っていった。


 僕と葵が部屋に残され、気まずい沈黙が流れる。

「さっきはごめん。回復したばかりで調子にのってしまったというか・・・。」

高島平耀司は自らの非礼を詫びた。BROTHERとして、僕もそうするべきだと思い、僕は葵に謝ることを決めた。


「謝らないでください。私の方こそ出過ぎた真似をしてしまって。そのうえ、自分が始めたことなのに、途中で投げ出してしまって。」

「そんなことないよ。助けてくれたのが君じゃなければ、僕は今も茫然自失としていたと思う。」

カッコつけて言ってみるけど、漏らしたし立たせたりでダサかったな僕。

「私、異性の方からああいった反応をされたのが初めてで、戸惑ってしまったと言いますか・・・。ずっと城の中で育ってきて、皆が私を子供のように扱うから、その、大人として扱われたことが初めてだったからというか・・・。」

戸惑いながらも葵は答えてくれる。その気持ちだけでありがたい。初物っぽいのも良き、って思ったのは僕の心の中に留めておきます、はい。

「そうだったんだ、こんな素敵な女性を子ども扱いなんて、この城の奴らはわかってないな。」

柄にもないことを言ってしまい、すぐ後悔した。童貞が最大限カッコつけてひねり出した言葉で、彼女は少し照れてくれた。

「童貞のくせに。」

赤面しながら彼女がつぶやく。うっわ、バレてたわ。


そうなると気になることが出てくるので、恐る恐る聞いてみる。

「あのさ、日報にはどんなことを書いたの・・・?」


葵がつぶやく瞬間、いたずらっぽい笑顔を浮かべながら体を軽く傾ける。彼女のポニーテールがふわりと揺れる。

「内緒です。」

「ど、童貞って思った、とか・・・書いてない・・・?」

人差し指を唇にそっと添え、秘密の共有を楽しんでいる小悪魔のような仕草で一瞬静止する。

「安心してください。包茎のことは書いてないですからね♪」

「なっ・・・!?」

童貞の件についてははぐらかされてしまった。


《HYPER コミュニケーション RUSH》 『突入!!!』


「おやすみなさい、大輝さま♪」

去り際、軽快なステップでくるりと振り返り茶目っ気たっぷりの笑みで僕に別れを告げる。その動きはまるでそよ風のように自由で、希望を予感させる余韻を残した。

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