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28発目 適合した変化の剣と覚醒する真実の剣

 何度も警告している、耀司はそう言うと振り返り、僕らがいる茂みに視線をやる。

「バレていないとでも思っているのか?それとも、警告に心当たりがないのかな?」

そう言って、耀司は剣を強く握り、変身した。


仮面の女だ。異世界生活初日に出会った、あの女がそこにはいた。

「異界人。貴様はこれから先、厚遇を受けるだろう。だが、貴様グランデバイドには手を貸すな。これは警告だ。」

あのときの言葉が思い出される。


「ようやく思い出したか、異界人。先ほども言ったが、私は無関係な異世界人は巻き込みたくない。」

あのときの口調で耀司がこちらに詰め寄る。

「だが、もう一匹のネズミはどうするかな?」

彼?彼女?の言葉に背筋が凍る。

「翔太!逃げろ!そして、今の話を春香に伝えるんだ!」

僕は翔太に逃げるよう指示をだし、茂みから飛びだす。僕が茂みから飛びだしたのを確認し、翔太は反対方向に走り出す。


 翔太を逃がすため、剣を構え、二人と対峙する。勝てる見込みは皆無だが、一瞬でもいいから足止めしなければ、この情報を誰が伝えるというのだろう。

「あはは~。あんたみたいなのが足止めできるとでも~?」

「こうなってしまえば、もう隠すこともあるまい。」

二人はリラックスしたままだが、僕の額には緊張の汗が垂れる。

 牽制する意味も込め、僕は耀司に斬りかかる。しかし、僕の剣を耀司が『変化の剣』で弾く。


 その刹那、猛烈な頭痛に襲われる──────。

「ぐわあ、う、あ、あ、あ・・・。」

何かがなだれ込んでくるかのような違和感が痛みとなり、やがて叫ぶことすら出来ないぐらいの激痛になる。

「ほう、どうやら真実の剣が覚醒し始めているようだな。」

耀司は、僕に何が起きているのかを理解している様子だ。

「折角だ、お前にも見せてやろう。この世界の真実を。」

そう言って、耀司は僕に再び剣を握らせる。


 そして、僕の握る『真実の剣』に『変化の剣』を再び触れさせる。

「あ、あ、あぁ、あ・・・。」

再び激痛に襲われる。僕は痛みで身動きが取れなくなり、剣を全く動かすことが出来ず、耀司の攻撃(?)を受け続けることしかできない。

動けなくなった僕の頭に、何かが再びなだれ込む──────。


──────これは、誰かの記憶みたいだ。


──────



  俺達家族は、人間でありながらスラムに居を構えていた。いや、純粋な人間なのは俺と母親だけだった。魔族だらけのスラムの中にありながら人間で、特に救いようのない奴らとして評判だった。近所では『ヒューマントラッシュ』なんて呼ばれていた。

 弟や妹達は俺とは父親が違って半分魔族だった。もちろん、弟たちの父親は一人じゃなくて全員が別の奴だった。

 父親が何人もいる、と言ってもそれは血縁上の話で、俺たちには父親なんて一人としていなかった。母親は一人だけど、俺達兄弟以外が見たら、とても親とは思えないような人間なんだろうな。

 

 そういう事情があって、弟妹の食い扶持は実質的に俺が支えていた。支えていたと言っても、それは合法的な手段ではなかった。盗みを働いたり、時には薬物を中心部へ卸したり、またある時は売春を斡旋したり。


 俺が軍人になる日は唐突に訪れた。いつものように、エステ店に来た軍人の荷物を盗もうとしたときだった。

 嬢と客がシャワーに入ったのを確認し、俺は施術室に向かう。普段、こういうことをするときは小銭しか盗まない。何故なら、札や貴重品がなくなっていれば、そいつはもう二度と来店しないからだ。

 だけど、この時来た客の剣が、俺の目を奪ったんだ。その剣はとても美しく、まるで工芸品のようだった。鞘や鍔はもちろんのこと、まばゆく光る刀身もまた、武具としての力強さというより、芸術的な何かを感じさせるものだった。


 何を思ったのか、俺はその剣を持って鏡の前に立ち、剣士のように構えてみせた。瞬間、俺の周りに竜巻のような旋風が巻き上がり、光を放つ。その旋風はトタンの置屋をバラバラにし、剣を持った俺が白日の下にさらされる。

 すると、シャワーを浴びていた男が戻ってきて、俺にこう言った。

「あんた、オルタランド人なのに、剣と適合したってのか?」

何が起きたのかわからなかった。

「おい、どうしたんだ!?急に建物が吹っ飛ぶなんて、ただ事ではない様子だが・・・。」

騒ぎを聞きつけやってきた、客の上官と思しい男。男は俺を見て、ニヤリと笑った。

「こいつは狙ってもいない収穫だ。このガキを城まで連れていけ。」

そういって、俺は無理やりに城へと連れていかれた。



──────



 剣と適合したらしい俺は、城へ連れていかれると、今までの人生で一度も見たことがないような食事にありつけた。布団にも感動した、ダニに噛まれることのない寝床は初めてだった。それに、他人でありながら俺を甲斐甲斐しく世話してくれるメイド、肉親からもこんなに優しくされたことはなかった。俺の生活は180度好転した。

 大半の異世界人に適合する『変化の剣』に適合しただけの俺が、何故こんな厚遇を受けられたかというと、当時の異世界人召喚技術は今ほどの精度がなく、失敗に終わることも多々あった。

 また、元からのオルタランド人でも剣に適合するケースはまれにあるが、それらは剣王流などの血脈など、遺伝的な要素が多く含まれると考えられていた。実際、その一族か異世界人にしか扱えない剣も存在するが、今まで候補から外されていた者にも、剣の才があるかもしれないというのは、軍にとっての希望になった。


それまでは考えられていなかった、剣に選ばれる平民──────。


 それが俺だった。それからは素晴らしい日々だった。お育ちのいい坊ちゃんでは思いつかないような卑怯な戦術で、俺はどんどん成り上がった。この時はすべてを手に入れられるような気がしていた。


 だが、それはとんだ勘違いだった。調子に乗った俺は足元を掬われた。ある時、俺の実家が放火され、家族全員が死んだ。目撃者によると、紅い月が美しい夜に、子供たちの悲鳴が響き渡っていたそうだ。子供たちの絶叫が今でも耳から離れない、10年近くたっても、そういう人がまだいるそうだ。ごみ溜めのようなスラムにあっても、悲惨な事件だった。


 連絡を受けて俺が家に着いたときには、既に家は焼け焦げていた。炭化した家の中からは煤のようになった小さな体が、いくつか。母親は我先に逃げようとしたのか、扉があったところに死体が転がっていた。その足にはまだ幼い妹だったものが縋り付くように手を伸ばして横たわっていた。スラムの火事は誰も消火しない。自治体はもちろん知らんぷり、近所の奴らも、家主が死んで火事場泥棒をするために、それを遠くから眺めるだけ。それぐらい、俺の故郷は死んでいた。いや、殺されていた。


 実行犯はスラムの魔族だった。原因は彼の嫉妬と諦観だった。結局のところスラム育ちであっても、人間であれば報われる、魔族に救いはない、そんな絶望感が彼を突き動かしたのだろう。だが、いくら彼が無力感にさいなまれていても、それだけで人の家を放火するとは考えにくかった。

 しかし、答え合わせは簡単だった。スラム生まれの俺が出世するのが気に入らない奴が、例の魔族に金を渡したらしい。その男が渡した額は、兵士の給料からすれば大した金額ではなかった。しかし、魔族の男にとって、それは大金だった。


 俺は、自分だけが救われようとした結果、最愛の兄弟を失ってしまった。だが、彼らを救うのは、当時の俺にはできることではなかった。やっと手に入れた成り上がりの贅沢な生活。それを、魔族の弟妹がいるという理由だけで手放したくなかった。

 だけど、俺を慕ってくれていた皆を失ってから、本当の幸せが贅沢をすることではないと気づけた。

 だから俺は変えなければならない。誰しもが正当に評価される世の中を作る。俺には、無力感や妬みと無縁な世界を創造する義務がある。その為には、旧態依然とした連中、利己的極まりない連中を排除する必要がある、これは楽園を築くためには、仕方のない犠牲だ。


 俺はグランデバイドを潰す──────。



──────



 激しい頭痛と記憶の流入はやがて収まる。しかし、ほんのひと瞬きの間に、凄まじい量の記憶がなだれ込んだためか、僕の脳はそれらを処理しきれず、意識が朦朧とし、手足の感覚は鈍く、視界もぼやけている。


薄れゆく意識の中、耀司と女の声がする。

「これでわかっただろ。だから、今すぐこの国を出ろ。俺が殺したいのはグランデバイド人、否オルタランド人だ。お前のような異界人は、できれば巻き込みたくない。」

「あはは~。でも、この様子じゃ、今のことは覚えてられそうもないね~。ていうか、さっきの逃げた奴追わなきゃみたいな。」


「耀司、君は・・・。」

言いかけたところで僕の意識は深い眠りへ沈んでいく──────。

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