26発目 グランデバイド兵のゲットーパトロール
デモの暴徒化から一夜明けた。僕はというと、スラム監視の特別チームに配属されてしまったため、今日も魔族たちが住むスラム街に赴いていた。幸い、僕が警備にあたっている場所は昨日の事件があった場所からはそれなりに離れていた。
というのもあって、僕から見える範囲内に限った話ではあるけど、町の様子は平穏そのものだった。中にはじろじろと睨みつけてくる人もいるけど、ほとんどの人は僕らがいることなんかお構いなしというか、気にも留めないで素通りしていく。
「これって僕たちいる意味あります?」
当然、普段と変わらない人々の営みを目にすれば、こういった疑問が出てくるのも当然である。
「ショウタよ、思っても口に出すことではないゾ★それに、我々がここにいるだけでも犯罪抑止という意味では十分有意義ダ★」
翔太の疑問に耀司が答える。
「スラムの犯罪放置は社会問題になってますもんね。良い試みだと思います。」
耀司の返答を、翔太は良い風にとらえる。だけど僕はそうは思わない。
「といっても、それは表向きの理由に過ぎないがナ★」
耀司はきれいごとを言わないみたいだ。翔太の言うようにスラムの犯罪など普段は取り締まっていないことを暗に肯定し、さらにもっと裏の意味があることも否定しない。
「まあ、僕としては突っ立ってるだけで一日終わるならそれで良いけどね。」
僕はあくびをしながら適当なことを言う。
──────
いや~、本当に何も起こらない。はっきり言って暇すぎて時間が過ぎない。
「暇ですね~。」
翔太が呟き、耀司が、
「だナ★」
とうなずく。
暇なのは二人だって同じみたいだ。少し遠くを見てみても、他の警備兵もみんな暇そうだ。だって何も起こらないんだもん。昨日問題を起こした人たちはすでに警察に身柄を拘束されているし、昨日の今日でスラムのマッサージ屋に行く人間はそういないだろう。魔族側も人間側も血の気が多い人はいない、そんな状況だった。
「おーい、早番はもうあがりだ~。」
遅番らしい坂戸さんが声をかけてくる。どうやら、僕らの出番はここまでのようだ。
「ここまでお疲れ様です。異常ありませんか?」
「ああ★何もなさすぎたぐらいサ★」
耀司と坂戸さんが引き継ぎ作業を行うのを僕と翔太は横目に見る。でも、特に言うこともないのか、引継ぎは一瞬で済んだみたいだ。
「それじゃあ、坂戸さんたちもご安全に~。」
僕は適当に挨拶して持ち場を後にし、帰宅の準備に取り掛かる。
「さぁ、帰りましょう!こんなところ、長居する場所じゃないですし。」
住民たちはいないからまだいいとして、翔太は時々ひやひやする物言いをする。さすがに注意するべきかと迷っていると、耀司が話題を変える。
「まあそう言うナ★そんなことより、馴染みの店があるんダ★時間があるなら、二人も来ないか?」
耀司は行きつけの店があるらしく、僕らを誘ってくれた。
──────
「三名だ★入れるかナ?」
耀司は慣れた様子で戸を開け、店主に声をかける。
「お、耀司じゃねえか。ずいぶん久しぶりだなぁ。出世して俺達のことは忘れちまったのかと思ったぜ。」
店主は耀司のことを知っているみたいだ。なんなら、旧知の仲という感じで軽口をたたいている。
「まさか★忘れるわけないサ★本当はもっと帰りたいぐらいサ★どうも王宮というのは合わなくてネ★」
彼の口ぶりから察するに、耀司はスラムで育ったみたいだ。
「まあ、四天王ていうのは偉いみたいだしな。ヒューマントラッシュのお前が立派になったもんだぜ。あと、その歌劇調な喋り方やめてくれよ。緊張しちまうぜ。」
店主の言う、ヒューマントラッシュというのは人間でありながら魔族街で育った者、場合によってはその中でも特に貧しい者を指す言葉だ。
「同僚もいるんダ★今日は勘弁してくれよ★」
耀司の素の喋り方を聞いてみたかったが、僕らがいるため披露してくれないみたいだ。
「こんなところに本格的な魔族料理店があるなんて、知りませんでしたよ。」
僕も知らなかった。魔族料理店というのは、城下町に何軒かあるとは聞いていたが、それらは全部人間向けにアレンジされたものらしい。本格的、魔族本来の味付けの魔族料理店というのは初めてだ。
「耀司のオススメは何?僕もそれを頼もうかな。」
僕がそういうと、耀司は店主にいつものを3つ、と合図を送った。
そしてしばらく待つと、僕らの食卓にはフライドチキンがやってきた。
「もっとこう、スパイスフルなのを想像してましたよ。中心部にもありそうというか・・・。」
翔太はまた失礼なことを言う。
「まあそう言うナ★中心街のそれとは違うから、騙されたと思って口にしてみるといい★」
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・・・ぶっちゃけ言って普通だった。グランデバイドでも食べたことがある味だったし、日本にもたくさんあるチェーン店のものとさほど変わらなかった。90億人が普通と判断する味と言って差し支えないだろう。耀司は中心部のものとは違うと言っていたが、めーっちゃ普通だった。彼はバカ舌なのだろう。
「大輝さん、正直言うと、普通すぎましたね。」
翔太が呟き、僕はうなずく。これに関しては失礼でも言っていい言葉だと思う。
「僕もそう思うよ。ほかのメニューにすればよかったね。」
なんてことを小声で言い合ってから、店を後にした。
こんな平凡な食べ物のために、耀司はわざわざ僕らを誘ったのだろうか?彼にとってはおいしいのだろうか?それとも、本当の目的は別にあるのだろうか?
──────
店を後にし、城へ少し向かったところで、耀司が僕らに言う。
「すまないが、二人は先に帰っていてくれないか?少し、野暮用があってナ★」
耀司はまだ予定があるみたいだ。
「野暮用って?」
翔太が質問する。
「まあ、墓参りのようなものだナ★」
ようなもの、と何故付け加えるのだろうか。その答えは分からなかったが、わざわざ聞くほど野暮ではない。
耀司と別れた僕らは城へ向かう──────。しかし、少し歩き始めたぐらいで翔太が面白い提案をする。
「大輝さん、墓参りのようなものっていうの、気になりません?」




