20発目 変身して交戦
春香から任務を言い渡され、病院を後にしたのはいいものの、戦えと言われてもなぁ。
「僕が穂乃果と戦ったとして、勝てると思う?」
僕は答えを知りつつも、耀司に聞いてみる。
「無理だろうナ★まして正体を隠せと言われいるのだから、向こうも全力で来るだろう★」
やっぱりそうか、という感想すら生まれない当然の返事。それに、実力以外にも懸念点はある。
「正体を隠して戦うとか、出来るものなの?変装しても体格でわかりそうだし、フォームとかでも気づかれそうというか。」
案ずるな、という表情で耀司が返す。
「それに関しては心配いらない。私の『変化の剣』を使うといい★」
へんげのつるぎ?
「大輝さま、稀にオルタランド人でも剣と適合することがあるのですよ。耀司さまもその一人です。」
僕の疑問に葵が答えてくれる。
「でも、僕が使えるとは限らなくない?」
そこも心配いらない、という感じで耀司が説明してくれる。
「大丈夫だ、問題ない。変化の剣はほぼすべての異世界人に適合する★理屈は分からないがナ★」
そう言って、僕に剣を持たせてくる。
「どうやって変化するの?」
「念じるだけだ。適合していればすぐに変化できる。」
なるほど。論ずるより何とやらというわけか。
よーし、変化してみるぞ。でも、誰になろうか?
自分に似てる人の方が変身しやすいとかありそうだな。じゃああの人しかいないよな。
キリトかなーやっぱりww自分は思わないんだけど周りにキリトに似てるってよく言われるwwwこないだ仮面の女に絡まれた時も気が付いたら仲間を助けようとしてて、周りに春香が血だらけで倒れてたしなwwwちなみに彼女はいない(聞いてないw)
う~ん。どうせ変身するなら、普段の自分とはかけ離れてる人が良いよな。いや~、でもな〜。恐れ多いな。
ていうか男である必要なくないか?というわけで、僕はオルタランドに転移する前日に聞いていたエロASMRのパッケージに描かれていたキャラクターを思い浮かべることにした。
うおおおおお!ダークエルフ・・・。巨乳なダークエルフ・・・。淫乱なダークエルフ・・・。レベルドレインなダークエルフ・・・。
ボン!
僕が強く念じると、煙が立ち、身体が包まれる。すると、自分でもわかるほどに体格が変化したことを感じる。
「何だそれは?平面的すぎるゾ★」
イラストではダメらしい。
近くの水たまりに行って、自分でも確認してみるが不自然すぎる。これでは変化の剣を使ったことがすぐにバレしまうだろう。
イラストをイメージしての変身はペラペラになってしまうので、今度は実在の人物をイメージしよう。う~ん、どうせ変身するなら女の人が良いよな。でも誰に変身しよう。
そうだ!推しのアイドルの顔と、一番抜ける女優さんの身体に変身して、最強のハイブリッドになろう!我ながら天才かもしれない。これが成功すれば、オカズに困ることもない!
うおおおおお!顔は佐々木・・・。身体は鷲尾・・・。あと、声も声優さんのイケてるやつにしたいな・・・。
強く念じ、再び上がる煙。
どうだ、今度は大成功だろう。
「大輝さま・・・。普段からそういうことを考えているから、ちょっとした刺激で事故が起きてしまうんですよ。」
呆れた様子の葵。耀司もダメだコイツ、というような表情をしている。
なんでそんな表情をされないといけないのか、そう思い、僕は再び水たまりに向かい、反射する自分の姿を見てみる。
全裸だった──────。
──────
その後、気を取り直し、最強のハイブリッドでありながら服を着た姿に変身する。しかし、どこからどう見ても可愛いのに、自分だと思うと全く抜けない。僕の作戦は失敗だ。
「改善点はまだまだあるが、まあ及第点だナ★」
僕の変身を耀司が評価する。
「じゃあ、この姿で穂乃果と戦えばいいんだな。でもどうやって戦えばいいの?」
変身はできたものの、穂乃果も戦う動機がなければ、決闘は成立しないだろう。
変身に気を取られ、そこまで考えていなかった。
「魔族風の角を生やして、もう一度変身してはどうですか?穂乃果様も、奴らの刺客と思って、戦ってくれるはずです。」
なるほど。最強のハイブリッドに悪魔っ娘属性を追加すればいいのか、お安い御用だ。
僕は再び強く念じた。もちろん、やましい気持ちは抑え目で──────。
──────
再度変身した僕は、任務から町へ帰ろうとする穂乃果を発見した。これから作戦開始だ。僕の主観で判断することにはなるけれど、穂乃果と仮面の女が別人であることを、この剣を以て証明したい。
耀司と葵が僕を激励する。
「私達は隠れているが、何か会ったらすぐに呼んでくれたまえ★」
「大輝さま、ご無理はなさらないでくださいね。」
二人に背中を押され、意気揚々と飛び出す。
「剣王厚木穂乃果!貴様の首、もらい受ける!!!」
僕は勢いよく穂乃果に背後から斬りかかる。しかしその斬撃は簡単に避けられてしまう。彼女の動きは、仮面の女が僕に振り返ることなくカウンターを食らわせたあの動きと酷似していた。
まさか、本当に穂乃果なのか!?
攻撃を回避した穂乃果は戦闘態勢に入る。突然の奇襲であったのにも関わらず、すぐに対応し、腰に掛けていた剣を抜く。
「叫びながらとか、あーしも舐められたモン、的な?」
相対する僕も剣を構える。
彼女の真の実力を知る必要がある、だから僕は穂乃果を挑発することにした。
「なるほどな、これが本当の四天王か。」
僕の言葉を聞いた穂乃果の眉が一瞬動く。
「高島平耀司のことだよ。あいつは骨が無かった。四天王最弱と呼ばれるだけのことはある。」
穂乃果の表情が一気に引きつる。
「ヨジヨジを殺したっていうの・・・?そんな簡単そうに言わないでよ。」
作戦は成功した。さすがに彼女も軍人で仲間の死には慣れているのか、激昂するまでには至らなかった。しかし、四天王をあっさり倒した、という情報で多少の動揺を誘うことはできたのではないだろうか。
「この剣を見てみろよ。あいつが持っていた剣だ。」
彼女に本気を出させるため、僕は演技を続ける。さあ、どう出てくる。
「・・・。そんな挑発には乗らないよ。あーしだって馬鹿じゃない的な。」
やはり四天王になるだけはあり、安い挑発に乗る様子はない。だけどやはり、穂乃果は感情が表に出やすいタイプなのか、彼女の額を伝わる汗、肩の震え、上ずった声そのすべてが、自分は動揺していると、僕に訴えかけてくる。
この調子だ。このまま彼女を本気にさせる。
「高島平だけじゃない、剣王鶴ヶ島春香も名声ほどではなかったな。」
もう一押し、これで穂乃果も本気を出してくれるだろう。
「そんな・・・。」
彼女の手が更に震える。遂に怒るかと思っていたが、僕の予想とは裏腹に、穂乃果は悲しそうな顔をする。
「あの女の命乞いをする顔が今でも忘れられないよ。傑作だった。何が誇りだ。」
さあ怒れ、怒ってくれ。彼女を罵ることも、誰かを侮辱することも、本当はしたくないんだ、頼む、怒りを見せてくれ。
「あいつが今、どうしていると思う?私の部下の慰み者だ。ハッハッハッ、こんなに愉快な話はないよなぁ?命乞いを聞き入れてやったんだ。」
僕にはこれ以上の表現は出来ない。頼む、殺す気で向かって来てくれ──────!
一直線にこちらに向かってくる攻撃──────
ようやく穂乃果の逆鱗に触れた。
彼女の力強い攻撃は、意外にも簡単に躱すことが出来た。もちろん防戦一方ではあるけれど、彼女の攻撃をよけ続けるだけの技術を、いつの間にか身に着けていたみたいだ。
その後も穂乃果は単純な攻撃しか繰り出して来ず、僕程度の実力であっても躱し続けることが出来た。
はっきり言ってしまえば、穂乃果は仮面の女と比べるとかなり弱い。感情的な状態で、本気で剣を振るっているにも関わらず、その速度もキレも、全てが、へらへらしていた仮面の女のそれの足元にも及んでいなかった。
彼女が仮面の女と別人だという確信が得られたところではあるが、しかし困ったことがある。穂乃果を怒らせ過ぎて、この戦闘の終わらせ方が分からない。さて、どうやってこの戦闘を終了させようか──────。




