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18発目 詰所への帰還

 春香を抱きかかえ、僕は森の中を引き返す。運が良いのか、僕が春香を抱きかかえて以降は戦闘に巻き込まれることなく、順調に詰所へ向かうことができていた。

 しかし、人を抱きかかえながら歩き続けるというのは結構疲れることで、僕は彼女をいったん地面に下ろし、休憩をとることにした。


 休憩といっても、ここは戦場だから油断はできない。ただ、腕の体力を回復させるには、少し時間が必要だった。春香にそうしたように、僕も木によりかかって座り、少し休憩する。

 重さから解放された腕に血液が巡る。巡りが良くなった血液が、重力から解放された腕を強烈に痺れさせる。

「うわぁ~、痺れるぅ~。ふぉ~。」

痺れた腕をブルブルと揺らす。


 「すまないな、私が至らないばかりに。それに、前線に配属させたのは私の責任だ。」

春香が自分を抱きかかえさせたこと、僕を前線に配属したことを謝罪する。

「謝らないでよ。怪我をしたのは相手が強すぎただけだし、前線に配属になったのは、僕が謹慎期間中に反省しなかったからだし。」

僕は春香が負い目を感じないように返事をする。

「それに、僕は戦いがどんなものかわからないまま後衛に配属されなくてよかったと思ってる。僕がいた世界とは違う戦いにリアリティを感じられなかったから、今回の作戦もピクニックか何かだと勘違いしてた。だから、現実を知る機会になって、よかったと思ってるんだ。」

 続けて理由を述べる。実際、僕はこのファンタジー風世界の戦いを舐めていた。銃火器の存在しない世界での戦争など、大したことない、と。

しかし、実際に戦地に赴けば、目の前で火だるまになる仲間、剣で斬られ大量出血する仲間、数々の犠牲になる者がいた。そしてそれは、敵勢力であっても同じで、時に僕が敵と対峙し、恨みどころか、関わりすらない人を傷つけなければいけないのは、非常に心苦しかった。

成り行きでVIP待遇の軍人になってしまった僕にとって、戦地で起きることをリアルに知るには良い機会だった。

「僕は戦うことを重大に考えてなかった。元は僕の態度が原因だけど、65番隊に配属になってよかったと思ってるから、春香は気にしないでほしい。」

「そ、そうか・・・。大輝はすごいな。私は何度戦地を経験しても、人に刃物を向けるのは未だに気が引ける。1度の出撃でそこまで学べるなんて、本当にすごいよ。」

春香がポツリとつぶやく。彼女は遠い目をしていて、徐々に戦争に適応しつつある僕、そして自分自身を嘆くかのようだった。



──────



 僕の腕が回復したところで休憩は終了し、彼女を再び抱きかかえる。そして、しばらく歩いたところで権田隊長ら65番隊との合流を果たす。

「隊長!いました、春香様と佐藤です!」

「ガッハッハッ、二人とも生きてるみたいで安心したぜ。」


 担架を持つ隊員に春香を任せ、僕は先ほどの出来事を隊長に報告する。

「なるほどな。仮面の女か。俺達はそんな奴らには遭遇していないが、戦況が芳しくなかったのは同様だ。それに、ちょうど撤退の命令が出たところで、俺達も詰所へもどるところだったんだ。」

僕らは見落としていたが、どうやら撤退の命令が下っていたそうだ。65番隊は再集結し、帰路に就く。



──────



 詰所に到着すると、医療班の一員として駆り出されている葵に再会する。

「大輝さま、よくぞご無事で。しかし、春香さまのそのお怪我は?」

葵も春香がここまでの怪我を負うとは思っていなかったのか、驚いた反応をする。

「仮面の女がまた現れたんだ。でも、前回の奴とは別人だった。」

「仮面の・・・。」

僕が入浴介助を受ける原因となった仮面の女。城と城下町で会った奴とは別人だったが同じ仮面をつけていた。


 葵にテントに入るよう促され、春香をベッドに寝かせる。テントに入ると、包帯でぐるぐる巻きにされた翔太が既にベッドに横たわっていた。


「まさか・・・・・・・・・。」

包帯には血が滲み、目元や口元などの皮膚もやけどで痛々しく見ていられない。


「もしかして死んだと思ってます?」

ミイラが喋った!?

「うわぁー!成仏してクレメンス!」


「生きてますよ。大輝さま。」

ミイラが喋ったことに驚く僕をたしなめる葵。

「何ですか大輝さん?人を勝手に死んだことにしないでくださいよ。」

ミイラもとい翔太が軽口をたたく。意外と元気そうじゃないか。

「ごめんごめん。いきなりやられたもんだからつい。」

実際、彼が被弾したときのインパクトはすさまじいものだった。これが戦場か、と思わせるには十分すぎるほどで、それが原因で取り乱したわけだし。

「まあ、やられた人間が言うのもあれですけど、初陣早々隣にいたやつが火だるまになれば、それはそれはセンセーショナルですよね。」

よくわかってるじゃん。



──────



 僕は、春香たち怪我人を医療班に任せ、65番隊のテントへと戻る。

「遅くなりました。すみません。」

油を売っていた僕は遅くなってしまったので謝りながらテントへ入る。

「いや、いいんだ。気にするな。」

先輩は僕の気持ちを察してか、謝らなくてもいいと言ってくれる。

「ああ、翔太のことですか。生きてましたよ。」

先輩は勘違いしているみたいだったので、翔太の無事を伝える。

「生きてるのか!派手に燃えたのに運が良い奴だ!」

僕は初陣で知らなかったが、先輩も驚くほど奇跡的な回復のようだ。


しばらくすると、権田隊長もテントへと戻ってきた。

「作戦本部からの通達だ。これより撤退するとのことだ。」

どうやら今回の作戦は失敗に終わったみたいだ。

「今回も失敗か・・・。」

「ここを制圧できれば、あと一歩なんだが、それが難しいんだな・・・。」

「かれこれ3年はこの調子だ。奴らもしぶといな。」

各々がこの撤退への感想を述べるが、どれも後ろ向きなものだった。



──────



 戦場を後にして、撤退を開始する。僕は医療班に混ざり、怪我人の運び出しを手伝っている。葵と共に、翔太の担架を運ぶ。

すると、隣で同じく担架に横たわり運ばれる春香が僕に声をかける。


「大輝。一つ、特別任務を頼まれてくれないか?」

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