16発目 二人目の仮面
1カ月にわたる訓練を終え、僕たちは今、戦場に立っている。まもなく出撃の合図が鳴るのか、みな緊張した面持ちだ。
「65番隊!全員揃ってるな?ガッハッハッ!おいおい高橋、なんだ不安そうな顔しやがって、今回は我が隊には強力な助っ人・剣王鶴ヶ島春香様がいるんだぞ!ま、所詮1人の人間だけどな!ガッハッハッ!」
隊長は高橋君をどうしたいのだろうか。勇気づけたいのか不安をあおりたいのか。
「皆の者、私がいるから安心してくれとは言わないが、出来ることはすべてする。期待してくれてかまわない!」
春香が皆の士気を上げる!
「うおー!前線に四天王がいるんだ!今回は余裕だぜ!」
「自信アリスギィ!」
「グランデバイドの兵力は世界一ィ!」
兵たちが沸く。
「お互い死なないよう、がんばりましょうね。大輝さん。」
高橋君はというと、普段通り、落ち着いた感じであった。
「そうだね翔太。こんなところで死ぬわけにいかないからね。帰ってやりたいこともあるし。」
僕も彼の調子にあわせて返す。訓練でずっと一緒にいた僕らは気心が知れて、下の名前で呼び合う仲になっていた。
「なんかですか最後の?そういうこと言うと死ぬジンクスがあるみたいだからやめましょうよ。隊長も言ってましたよ。」
相変わらず真面目だ。でも、僕の軽口で少し表情が和らいだように見えたので、良かったとしよう。
──────
「突撃ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
軽口をたたいていると、突撃の合図が。
「うおーーー!!!」
「いけーーー!!!」
「ガッハッハッ!行くぜぇ!!!」
僕も彼らに続く。
数歩走ったところで、前方から巨大な火球が飛んでくる!!!
「うわあああ!!!」
こちらに向かって飛んできた火球は僕をかすめ、翔太に命中する。
そして彼は火だるまになった。
「あ、ああ、・・・。」
僕は呆気にとられ、進める足を止めてしまう。
「おい佐藤!止まるなぁ!俺たちの任務は進軍することだ!やられた奴には構うな!」
こういうことには慣れているのか、隊長は残酷なことを言い放つ。けど、戦場では冷たいことではないのだろう。
そんなこと言われても、初めての戦場で先ほどまで喋っていた仲間が目の前で火だるまになって、放っておけるはずがない。僕はどうにかして、彼を助けようと考える。が、春香に手を引かれ、前進を余儀なくされる。
「何をしているんだ大輝!お前の仕事は進軍それだけだ。彼のことは衛生兵に任せるんだ。」
春香に手を引かれ、無理やり前進させられる。
──────
進むとともに、人の焦げるにおいが遠ざかる。翔太の姿が見えなくなったところで僕は平静を取り戻す。見えていなくても、彼は今頃も苦しんでいるはずなのに、見えていないことで、僕は落ち着いてしまった。自分の感性が壊れ始めていることをひしひしと感じる。
春香は僕に気を遣ってくれたのか、比較的安全そうな場所に僕を連れてきてくれたみたいだ。
「もう大丈夫だよ。」
本当は大丈夫ではないけど、僕は春香に強がりを言う。
「いや、無理はしなくていい・・・。彼は今頃治療されている、そう思うしかない・・・。」
彼女はお見通しみたいだ。だけど、安易に翔太が無事だとは言わない。
「初めての戦場でいきなり同期があんなことになってしまっては、動揺するのも仕方ない。だが、我々は任務を遂行する必要がある。」
彼女はプロフェッショナルだ。今回65番隊に同行するということで、彼女も翔太とそれなりに関わっていたが、ここまで冷静にいられるなんて。
──────
いくら比較的安全な場所にいるとはいえ、ここは最前線。
「くっ、ここに敵が気づくのも時間の問題だ。どんどん気配が近づいてきている。」
彼女も同意見のようで、警戒を強める。春香が警戒を強めたその瞬間、彼女に斬りかかる女の影が!
ギリギリのところで気づいた春香は咄嗟に剣を取り出し、相手の攻撃を防ぐ。
「ビンゴだ。あはは~。」
気の抜けたような声がする。女は最初から狙いが僕らだったかのような言葉を吐く。
女と春香が間合いを取る。舞い上がっていた砂埃が収まると、春香と相対する女が仮面をしていることに気づく。
「その仮面は・・・!」
しかし、この前の仮面の女とは別人だ。
「あはは~。これに見覚えあるんだ~。アタシ達と戦って生き残れたみたいな?すごいね~。」
仮面の女はへらへらしながら僕らの疑問に少しだけ答える。
「何者なんだ貴様たちは?」
真剣な面持ちの春香が奴に問いかける。
「答えるわけないじゃん!!!」
そう言うと、女は春香の喉元めがけ、剣を突き刺そうとする。
「ぐっ、なんという剣捌きだ!」
仮面の女の間合いに入ってしまったのか、春香は不本意な体制でしか攻撃を受け止められず、その後も防戦一方になってしまう。
「あはは~。こんなもんなんだぁ~、剣王鶴ヶ島って。期待してたのに、みたいな。」
僕も訓練を受けたんだ。一方的に攻撃を受け続ける春香を助けなきゃ。
そう思って、僕は仮面の女に背後から近づき、真実の剣を振るう。
しかし、女は振り返ることもなく僕の斬撃をひょいとかわす。
「はぁ、素人さんはあっち行ってて。」
女の後ろ蹴りを食らい、僕は吹っ飛ばされる。
しかし、その瞬間、ほんの少しの隙が生まれた。もちろん春香はそれを見逃さない。
春香の一太刀が仮面の女に命中する。しかし、女も手練れなのか、致命傷にならないよう体をよじり、ダメージを最小限にとどめる。
「本気出せばそこそこやれるみたいじゃ~ん。」
攻撃を食らった直後でありながら女は余裕の笑み。
「あはは~。次はないからね~。」
そう言うと、脱力したまま剣を振るい、春香に再び斬りかかる。
春香も達人であるから、簡単に攻撃は受けない。
「この構えは・・・!?まさか!」
仮面の剣捌きから、春香が何かに気づいたようだ。
「貴様、その技術はどこから盗んだ?答えろ!その技術は剣王流厚木派の家督相続者にしか継承されないはずだ!」
仮面の女の構えをどこかで見たことがあったような気がしていたけど、春香の言葉で気づいた。女の構えは、穂乃果のそれと酷似していた。
「あはは~。単純な技術だから盗めちゃったぁ~。みたいな?」
再びの斬り合い。
「単純だと?我が国の誇りを侮辱するな!」
──────
二人の戦いは激しさを極め、金属音が何度も周囲にこだまする。
仮面の女の技術は敵ながら天晴としか言えない。春香の見立てが正しければ彼女は剣王流厚木派の使い手なのだが、そのすべての技術が穂乃果のそれを上回っている。
「くっ、穂乃果と同じフォームでも、斬撃の強さは比べものにならない。」
その感想は春香も同じようだ。
「その名前、聞きたくねえんだよなぁ!」
穂乃果の名前を聞いた途端、仮面の女の様子が変わる。
「ふざけんなよてめえ!今ので昔のこと思い出しちまったじゃねえか!ぜってー殺す!」
本気を出したのか、ものすごい勢いで春香に斬りかかる仮面の女。あまりの速度に春香は反応できず、もろに攻撃を受ける。
吹き飛ばされ、地面に倒れる春香。倒れる春香の前に立ち、トドメを指そうとする女。
「へっ。余計なこと言わなければ、鶴ヶ島派は残してやっても良かったんだけど、てめえが穂乃果とか言うから気がかわっちまった。」
そう言って、女は剣を逆手に持ち替え、春香の胸に突き刺そうとする。
ようやく起き上がった僕は、すんでのところで女に突進し、女を弾き飛ばす。
春香に剣が刺さるという最悪の事態は回避された。
「てめぇ、邪魔すんな!ムカついた!先にてめぇから殺してやる!」
女は狙いを僕に変え、こちらに向かってくる──────!




