14発目 接吻 -kissing-
僕の嫌な予感とは裏腹に、達斗の提案は平凡なものだった。てっきり、メイド達との行為を目の前で見せつけてくるのかと思っていた。
実際はというと、めっちゃ普通の飲み会を開いただけ。参加者は僕、達斗、葵、それにたまたま同じ飲み屋にいた穂乃果、穂乃果が呼び出した春香の計5人だ。
「これはぁ、ダイ吉のぉ謹慎明けお祝い飲み会であると同時にィ!出撃前の決起飲み会でもあ~る!的な。それではみなしゃん、グラスを手に持ちましたか?」
既に危うい状態の穂乃果が乾杯の音頭をとる。
「「「かんぱーい!!!」」」
「さぁ、みんな飲め!ぴーぴーぴーぴぴーぴーぴぴーぴ!」
タニマチに愛された男も盛り上げを忘れない。
「この酒が、最後にならないことを祈るばかりだ。これの為に生きてるゥ!クゥー!」
意外にも、春香は飲兵衛らしい。
僕は当然と言えば当然なことに気づく。
「あれ?葵は飲まないの?」
「18歳ですので。」
なるほど、この国にも飲酒に年齢制限があるみたいだ。
「おいおい、葵ちゃん!誰も俺様達の年齢なんて知らないから飲んじまえ!」
「細かいことは気にするなぁ~、的な?うへへ」
「ああ、飲むと良い。メイドとしてではあるが、葵も次の作戦には同行してもらうからな。万が一のことがあれば、人生で1度も酒を飲まずに死ぬことになる。死ぬまでに1度は酒を飲むのも人生経験だ。」
四天王のうち最低でも3人はモラルが終わってやがる。だけどそう思うのは、僕が異世界人だからなだけかもしれない。彼らにとって未成年飲酒は普通のことなのかもしれない。
もし、耀司がこの場にいたら彼がかける言葉はどんなものなろのだろうか?
「この場において、君以外がみな飲むのに一人だけ素面というのは辛かろう。飲むと良い★」
とか言いそう。
「大輝さま、どうしましょう?」
葵は僕の意見も気になるみたいだ。彼らのモラルが終わっているのは飽くまで日本の影響を色濃く受けてる僕の感想に過ぎないわけで。
「う~ん・・・。」
僕が答えを出せずにいると、横から達斗が小声で話しかけてくる。
「おい、卒業したいんだろ?それなら飲みなれてない子をベロンベロンにするのが一番簡単だ。」
変わり果てた旧友の発言を聞いて、僕は答えを決めた。
「飲んでもいいけど、その代わり、僕は飲まないからね。危なそうになったら止めるから。」
体育会系の悪い所を詰め合わせた男が再び囁く。
「バッキャロー!お前も飲まなきゃ意味がない!内気な自分を解放するには酒だ!」
──────
みんなの意見を聞いた葵は、意を決して店員を呼び、酒を注文した。
「カシスオレンジか。18歳丸出しなところ、俺様は最高だと思うぜ。だが、もっと強いのを飲めて、初めて一人前だ。次はこれなんかどうだ?」
「初心者にそれは危険だろう。同じ度数でもこれなら飲みやすい。次はこっちにするべきだ。」
「・・・・・・・・・。うっ・・・。」
未成年に強めの酒を執拗に勧める二人と、青白い顔のギャル。そして素面の僕。
「おい、穂乃果ぁ、大丈夫かぁ?酒もろくに飲めないなんて、貴様は剣王流の面汚しだなぁ。うぇっへっへっ。」
酔った春香はひどいことを言う。
「はぁ、飲めるし?あーしのこと分派した邪道のアバズレの酒雑魚だと思ってんの?的な。」
売り言葉に買い言葉だ。あと、そこまでは言われてないよ。
「穂乃果さま。もうやめましょう。顔色が悪いですよ。」
先ほどから飲み始めた葵に止められ、穂乃果は横になる。
──────
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
飲み会が始まってから5時間ほど経過しただろうか。穂乃果はもちろん、春香と達斗も潰れている。
気になる葵はというと・・・。
「このお酒も気になりますが・・・、飲み放題の対象外みたいですね。うーん・・・。」
彼女には驚かされる。初めての飲酒で5時間もぶっ通しで飲み続けているのだから。仮に僕が飲んで積極的になっていたとしても、葵はいくら飲んでもほぼ素面なので、落とすことはできなかっただろう。達斗の作戦は、僕が乗り気だったところで失敗していた。
「初めての飲みの席なんだし、お金のことは気にせず、気になったのを頼みなよ。」
「わぁ、ありがとうございます。」
守りたい、この笑顔。汚してはいけないけど、汚したい気も湧く。
──────
結局、葵は閉店するまで飲み続けたが、ほとんど酔わなかった。そのうえ、僕と一緒に3人を介護しながら城まで担げるほどしっかりしたままだった。
城に戻ると、僕の部屋のベッドメイキングをしようとしてくれた。僕は断ったけど、メイドとしての誇りがあるらしく、譲ってくれなかった。
酔っている様子はなかったけど、流石に初めての飲酒で疲れたのか、メイキング中そのままベッドで寝てしまった。
彼女の寝顔はめちゃくちゃ可愛い。思わずキスしたくなる、そんな表現がぴったりだ。18歳の若さ溢れる艶やかな肌。瑞々しい唇。閉じた瞼が、今の彼女は無防備だから、襲ってしまえ、という僕のオスとしての本能を煽る。
僕は唾をゴクリ、と音がするぐらいに緊張しながら飲み、彼女の顔に、唇に、自分の顔を、唇を、近づける。
素面に見えても葵は酔っ払い。そういうことするのは同意が確実な時だけ。だけど、酔ってなさそうな様子でもあって、思い直してを繰り返し覚悟が決まらず、彼女と至近距離のまま、停止してしまう。
僕がいつまでたっても静止していると、不意に葵が寝返りを打った。こっちに向かってくる可愛らしい顔、僕にはとても避けられなかった。
ファーストキス。不意の接触にしては、しっかり密着し、彼女の体温、息遣い、匂い、唇の味を覚えるのには十分すぎるほどだった。
ファーストキスはレモンの味というけれど、僕の場合は、蕩けるような甘みを持ちながらも終え上がるような熱を持った、チョコレートリキュールのようだった。
不意に訪れたファーストキスの衝撃に、僕の中の1塁ランナーがサインを無視してしまう。
「うっ・・・!?」
瓶からマッコリがこぼれる。またやってしまった。
『7』『7』『6』
達斗の進塁打は空振りだったが、捕手がもたついている間、僕は盗塁して、棚ぼたで二塁に進塁することができた──────。




