表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/31

13発目 倫理

 明日をもって、長かった謹慎生活は終了となる。外に出られないことも辛かったけど、毎日書かされる反省文は地獄だった。

 反省文は30日で合計12万文字にもなっていた。僕も反省していないわけではないけど、流石に毎日原稿用紙10枚分は長すぎる。ほとんど同じ内容を言い換え水増しするだけの作業になってしまうというか。

 ていうか監視役の春香は絶対読んでないと思う。というわけで、今日は最終日で気持ちがふわふわしているので、前に書いたやつをそのまま書き写して提出しちゃおっとwww


「おい、大輝。これは4日目と一字一句違わない内容だが、まさか私が反省文を読んでいないとでも思ったのか?」

春香はしっかりとぼくの反省文を読んでいたみたいだ。いつのコピーかも少し読んだだけでわかるなんて、恐るべき記憶力だ。

「すみません。今すぐ書き直します。」

これに関しては完全に僕が悪いので素直に謝罪です。

「しかし、この前も言ったはずだが、ここまで舐めた態度をとられてしまうとな。はぁ、これは庇いすぎた我々の責任もあるな・・・。」

春香は頭をかかえる。

「でしたら、次回の作戦で最前線に送ってみてはいかがですか?」

春香の後ろで顔を覗かせていた葵が恐ろしい提案をする。

「そうだな。それ以外で今の大輝を改心させる方法はないだろう。」

春香も恐ろしい提案に同意し、僕は次回の作戦で最前線への配属が決定した。



──────



  翌日、晴れて謹慎解除。人として文化的な最低限度の生活を再開する。

「おはようオルタランド、おはようグランデバイド。そしておはよう葵チャン。」

「おはようございます大輝さま。大輝さまの謹慎解除を祝うかのような快晴ですね。甘すぎる処遇だったと今では思いますが。」

朝の挨拶を交わす。後半部分は何て言ってたのかな?ルンルン気分な僕には聞こえなかったよ。


 扉を開け、久しぶりに自室から出る。1か月間ほとんど動いていなかったので、階段を上がるだけで息が切れる。

 何故、僕が階段を上がっているのかというと、僕の運動不足を心配した達斗がキャッチボールに誘ってくれていたからだ。それで彼の部屋へ向かっているわけだが、城というのは広すぎて歩くだけで疲れる。

 彼とキャッチボールをするのは、実に8年振りぐらいになる。かたやプロ、かたや1カ月部屋から出なかった社畜。当時も実力差は歴然としていたが、今はキャッチボールが成立しない可能性すらある。まあ、運動不足以外にも次の作戦とか、心配事はつきない。

 人権復活を慶び、心配事について憂慮していると、意外とあっという間に彼の部屋に到着した。結構疲れたけど。



──────



 ノックしても返事が来ないので、勝手に扉を開ける。

「おいお~い、みんなもうへばっちまったのかよ。俺様のバットはまだまだ打ち足りないってのによぉ。」

扉の向こうには全裸の達斗。それと同じく全裸の女性が9人。乱雑に脱ぎ捨てられたメイド服の隙間から見えるスケスケの下着が僕には刺激が強すぎる。


 ていうか、人との約束をすっぽかしてすることがそれか?


「やれやれ、俺様のベストナインにもそろそろDHが必要みたいだぜ。ナショナルリーグのようにな。お、大輝。来てたのか。」

僕の方に振り返る前にアオダモをしまってほしい。


「え~、達斗様ぁ、キャッチボールなんかより、もっと楽しいことしようよぉ~。」

僕と何度か顔を合わせたことがある普段は真面目なメイドさんが達斗にキャッチボールに行かないよう、猫なで声で媚びる。

「悪いな。俺様はベストナインのみんなと遊ぶのも好きだが、遊びでやる野球も好きなんだ。」

そう言って、彼は服を着る。

「ひど~い。私達より、そんな童貞と遊ぶ方が楽しいって言うのぉ~?」

普段から適当なメイドが達斗を止めようとする。童貞情報がここまで広がっているとは・・・。バカピンクの日報は恐ろしい。



──────



 全裸の女性たちに止められる達斗だったが、それを振り切り、僕と共に中庭に到着する。

「見ろ。これが四天王特権で作ってもらったボールとグローブだ。すげえだろ。稲城にいた頃は球団支給分以外は自腹だったことを考えると大出世だぜ。」

彼の手には、僕らの世界であっても高級品に分類されそうな素晴らしいグローブ。僕ももう一つのグローブを受け取り、少し離れてキャッチボールできる位置につく。

「最初は手加減してやるぜ。」

彼はそう言ってボールを投げるが、引き籠っていた僕にとっては剛速球。もちろん弾いてしまう。

「おいおい、頼むぜ。1カ月引き籠ってたのはわかるけどよ。」

僕はこぼれたボールを拾い、全力で彼に投げ返す。

しかし、彼はあくびをしながら簡単に捕球する。

「大輝ぃ、お前就職してから全く運動してないな。はっはっはっ。まあ、俺もプロになってなければ運動なんてしてなかったろうけどな。」


 思い出話に花が咲く。僕は昔の話を聞くと、日本に帰りたくなるけど、やっぱり達斗は違うみたいだ。


「夏合宿の時、夜中の3時に焼きそば作らされたのは、今考えればいじめだったよな。」

「あったな、そんなこと。優しい俺様が次の年から流水麺にしてやったのが懐かしいぜ。自分がやられて嫌なことは他の人にしない。人として当然だぜ。」

夜中に起こしてる時点で優しくない気がするけど、ひと昔前の部活っていうのはそういうものということで。



──────



 思い出話がひと段落すると、話題は近況報告になった。

「大輝、お前は結局葵ちゃんとどこまで行ったんだ?」

デリカシー0男が僕に嫌な質問をする。

「ど、どこまでといわれましても。」

直接的に聞かれるとちょっと答えにくい。

「ほーん。ほとんど何もしてないんだな。お前が手を出す気がないなら、俺様のベストナインにDH部門でノミネートしたいんだが、良いか?」

記者投票なんだし勝手にすればいいと思うよ。

「何で僕に聞くのさ。達斗と葵がきめることだろ。」

わかってないなぁ、という表情で達斗が続ける。

「おいおい、メイドの処遇はマスターであるお前が決めることだぜ?」

何言ってるのかよくわからない。僕は言葉を失い、口を開けたままにしているが、変わり果てた旧友が続ける。


「かぁっー、わかってねえなぁ大輝ぃ。お前も早くこの世界に染まれ。この世界では異世界人はVIPで、女の権利は、貴族でもない限り重要視されてない。非モテのお前でもちょっと頼むだけでヤレるんだ。それに、女たちもそういうものだと思ってる。俺達の世界から見たら異常な立場なのに、それを普通と思ってるんだ。だからお前が負い目を感じても、向こうは普通だと思ってるから別にいいんだ。帰れるかわからない世界の倫理観をいつまでも引きずるのはやめろ!」

彼の男女に関する考えは終わっているとは思うけど、帰れるかわからない世界のモラルを引きずり続けているのは事実だ。


 自分でも、未だにこの世界に馴染めていないのがよくわかる。それに引き換え、達斗はたった1年でここまで適応できているのだからすごいとしか言えない。

僕が暗い顔になったのを察してか、タニマチに愛された男はニヤリと笑い、ある提案をする。

「よしっ。お前のためにこの俺様が進塁打を打ってやる。」


嫌な予感しかしないが、彼は何をするつもりなのだろうか──────。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ