12発目 再会
「被告人・佐藤大輝に判決を下す。」
あの事件から2週間。僕は今、グランデバイドの裁判所にいる。
裁判官の冷たい声が、石畳の法廷に響き渡る。
「被告・佐藤大輝。守衛への暴行は度を超え、許可なき魔族を城下町へ通した罪は重い。よって、国家反逆罪を認め、死刑を宣告する。」
判決が下る。
「これにて閉廷!」
裁判官の宣言をもって、裁判は終了となる。
中世風の国で、三審制は期待できなさそうだ。
僕は死刑確定ということだ。
嗚呼、一度でいいからしてみたかった。
童貞、異世界で素人童貞になる。
─完─
女部田誠志朗先生の次回作にご期待ください。
───
はっ!夢か。思い返してみれば、事件から1カ月、裁判が終わってからは2週間が経っていた。DEATH ROW RECORDSのCREWに仲間入りした僕は、今日も今日とてリリックをノートに書き溜めていた。
「おいおい、この字はさすがに汚すぎるぞ。反省文というのはだな、周りの人に反省していることを伝えるための文なんだ。つまりどういうことかと言うと、読まれるということは、読みやすい字であることが求められるからして・・・・・・・・・。」
春香の話が長くて僕は再び眠りかける。
「あちゃー、聞いてないな。ダイ吉。ハルの話は長いけど、立場的にちゃんと聞け的な。」
穂乃果に耳を引っ張られる。
「いでででででで。聞きます。聞きますから。」
ぼくは しょうきに もどった。
「こんな体たらくになってしまうなんて。大人しく逮捕されて痛い目を見た方が、大輝さまのためでもありました。」
「まあ、そう言ってやるな★今は軽い刑になったことを喜ぼう★だが、こうも舐めた態度をとられると、必死こいてデータを集めたこちらとしては少し腹が立つな★」
葵と耀司も、今の僕の態度が気に入らないらしい。
「全くだ。穂乃果が大げさに死刑だなんだと騒ぐから、大輝に有利な証拠が集まり過ぎてしまった。」
「えー、あーし的には完全無罪まで戦いたかった的な?だって、自宅謹慎1カ月とかまぢムリゲー。」
はい、僕は死刑囚でもなんでもありません。1か月間自宅謹慎なだけです。
「みんなありがとう。もし、みんなが証拠集めをしてくれて、あのときの魔族の女の人を証人として呼んでくれたから、僕はここにいる。みんなのお陰でここにいる。こころから感謝してる。」
これは本当に思っている、だからしっかり、言葉に残そう。
感謝を述べたのに、頭をひっぱたかれる。
「じゃあ反省文で韻踏んで遊ぶのやめろ的な?」
全くもってその通りです。ごめんなさい。
──────
四天王の3人は任務があるのか、自宅謹慎中の僕を置いて、各々仕事へ向かってしまった。それとひきかえ、葵はいつも僕の部屋にいるが、僕のことが好きなのだろうか?
「葵はなんでいつも僕の部屋にいるの?」
「担当だからですよ。異世界人の方には一人につき一人、担当のメイドを付けるようになっていますので。」
異世界人というのはこうも身分が高いのか、ますます秋葉という脱走した男の行動が意味不明に思える。
「僕のことが好きなんじゃ、とか思ったけど違うんだ。」
「それは自惚れすぎですね。でも、1人前のメイドとして、初めて一人で任されたお客さまですから、多少の思い入れはありますよ。」
《HYPER コミュニケーション RUSH》 『継続!!!』
丁寧口調なツンデレと捉えていいのだろうか?これは継続率92%ぐらいある気がする。脳内には甘い汁、尿道には白い汁、止まらないぜ。口ではああ言ってるけど、俺のこと好きなんだな、と確信してニヤニヤしそうになる。
しかし葵は、僕と二人きりの時間を満喫しようとすることはなく、今日は洗濯当番だからと言って、部屋から出て行くと言った。
──────
葵が部屋を出た直後、扉越しに何やら話し声がする。
「お、葵じゃないか。久しぶりだな!」
男の声、聞いたことあるような、無いような。
「まぁ!達斗さま!」
僕の時とあからさまに反応が違う。声のトーンが一段高いというか。さっきのはツンデレじゃなくて本心だったんだ。
《HYPER コミュニケーション RUSH》 『終了』
累計成績
まともに会話した女性:3人
接吻:0回
本番:0回
「ここが、佐藤大輝の部屋で合ってる?」
どうやら達斗という男は僕に用があるみたいだ。
「そうですが、大輝さまに何か用があるのですか?」
「まあ。同じ異世界人として、挨拶してみたくてさ。」
どうやら達斗は僕に挨拶したいらしい。
──────
達斗が部屋に入って来るなり、僕の顔を見て目を細める。
「やっぱりそうだ!大輝じゃないか!同姓同名なだけかも、なんて思ったけど、ビンゴだったぜ。」
水道橋達斗───高校時代の同級生で、同じ部活で汗を流した旧友だ。もっとも、僕は3年間補欠で、彼は強豪校で1年生の頃から試合に出ていたし、3年生になるころにはエースで4番でキャプテンだった。
「みんな、知り合いだけじゃない、ファンの人たちも達斗のこと、どこに行ったのか心配してたよ。」
彼は元居た世界で行方不明者としてニュースになっていた。というのも、彼はプロ野球選手だからだ。『若手プロ野球選手失踪』なんていって失踪した1年前から僕がこの世界に来る日まで、紙面をにぎわせていた。
「そうなのか。俺様みたいな2軍で燻ってる奴でもこういうことがあると、ニュースになれるんだな・・・。」
高校時代はチームの中心だった彼も、プロの世界では苦しんでいた。プロ入りからここまで、1軍試合出場はわずかに1試合のみ。来年は危ないんじゃないか、なんて毎年言われる選手になってしまっていた。
僕は秋葉以来、ようやく同胞に会えたことに感動する。
「良かったよ、知ってる人に会えて。一緒に帰る方法を探そう。」
「いや、向こうのことはもういいんだ。俺様はこっちの世界で生きてくことにしたからな。」
思いがけない言葉が返ってくる。
「え?帰らないの?」
「ああ、帰らないぜ。俺様はここに永住するんだ。帰ったって今更居場所なんてないからな。まあ、稲城の二軍球場にはあるかもな。はっはっはっ。」
向こうの世界での挫折が、彼をここに縛り付けたのか、彼の笑い声には、諦めではなく、妙な充足感が滲んでる。
「だってよ、この世界は最高じゃないか。俺様達には専属のメイドがいて、特別な剣まで与えられる。おまけに俺様は四天王にまでとりたてられたんだ!」
そう、今まで任務で姿を見せなかった四天王の最後の一人。それが、この水道橋達斗だった。
彼のこの世界への愛は、堰を切ったように溢れ出す。
「俺様は一生この世界にいたいんだ。最高だぜぇ~四天王ってのは。四天王でおまけに異世界人の俺様はモテモテなんだ。あっちの世界で二軍戦まで見に来るもの好きなおっさんからヤジ飛ばされる生活とは、比べ物なんねえよ。」
彼はこの世界で充実した生活を送っているらしい。
「俺様の剣を見てくれよ。こいつは『反撃の剣』って言ってな。どんな攻撃も打ち返せば跳ね返すことができるんだ。火の玉も氷の矢も、雷だって打ち返せるぜ。この剣は俺様の身体能力にばっちりで最高っつーわけさ。」
これがバットならメジャーリーガーにもなれそうだ、なんて冗談まで言ってくる。高校時代の彼はここまでうざくなかったが、しばらく会わないうちに、何があったのだろうか。
「大輝も剣もらったんだろ。剣が覚醒したら楽しくなるぜぇ。だからよ、お前もそのうち、こっちの方が楽しい、って気づくって。なんせ異世界人はモテまくるからな。俺様は四天王だからすごいぜぇ~、毎晩ハーレムってやつさ。おまけに酒だって無料だぜ。」
・・・。高校卒業後、地元出身のスターとして、過度に期待され過ぎたのが良くなかったのだろう。彼の変貌ぶりには言葉が出ない。
「へ、へぇ。すごいね。」
「へへ、そうだろう?お前も異世界人のVIPなんだ。俺様ほどのハーレムを築くことはできなくても、そこそこの生活はできるって。例えばほら、メイドさんとはすぐ仲良くなれるだろ。もう一戦ぐらいは交えたろ?ちなみに俺様は初日に手合わせしたけどな。奥手なお前でも1カ月半もあればできるだろ。それにしても、葵ちゃんかわいいよなぁ~。俺様のハーレムに加えたかったが、お前の担当みたいだし。俺とお前の仲だ、譲ってやるよ。」
あの頃の彼はどこに行ってしまったのだろう。ハッキリ言って、めっっっちゃうぜぇ。
だけど、メイドさんと一戦交える話は気になるよなぁ──────。




