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空き家から起き上がると、スクールバッグの中のお菓子が消えてることに気づいた。私が咲也に話すと、「誰にも話すな。理由はわかるだろう?」そう釘を刺された。確かに今、村人と揉めるのは良くない。
3人の狼獣人だ。長身痩躯で眼光が鋭く、3人とも男だった。服装はこの村人と似たり寄ったりだ。彼らは隣の村から2時間かけてやってきたようだ。
白い毛並みの狼獣人はふらふらしていて、グレーの狼獣人はそっぽを向いて腕組みしいて、リーダー格ぽい黒い毛並みの狼獣人はスコップを持っていた。
「俺らは隣の村から移住しに来た。お前らの放送を聴いて、居ても立っても居られず、この村に宝石を採掘しに来た。俺はミカゲだ」
「え?どういうことですか?」
「情報過多だな」
余計なことを言う咲也に私は目配せして黙らせた。
「ここの近くに宝石が採掘できる場所があるんだ。隣りの村は伝染病で全滅…僕たちはちょうど、狩りに行って無事だったよ。僕はムーン」
白い毛並みの狼獣人、ムーンは座り込んでしまった。
「狩り…生き物がいるのか?」
咲也が尋ねた。
「痩せてはいるが、虫なんかを食べて生きながらえてるようだ。食物連鎖だな…そして俺たちが食うんだ」
グレーの狼獣人は皮肉げに言った。
「ヘマタイト、お前なぁ…」
どうやら、彼はヘマタイトというらしい。
「全滅と言ったけど、まだ生きてる奴もいる。宝石を金に変えて治したい」
村の住人たちはボソボソと密談している。
「狼獣人は人を食うって噂だ」
「移住だって?冗談じゃない。鉱山は俺らの管轄だ」
私たちでも聞き取れるくらいだから、発達した彼らの耳にも届いているだろう。
「水を…種もくれ」
ミカゲが言った真意の裏を読む。彼らの目は濁っていなかった。
「ほら見ろ!自分たちだけ飲むつもりだ!種も奪おうなんて欲張りな奴らだ!!」
「渡すなよ姉ちゃん!」
渡した理由は一部の村人への反発心だった。青いな…そんな顔をする咲也にベエっと舌を出した。本当は村人にしたかった。それに食い物の恨みは恐ろしいんだから。
ミカゲは自分の持ってるスコップで土を掘り、種を埋めるとそこに土を被せた。
「これで文句ねェだろ」
水をそこに流した。
私は胸がギュッと締め付けられた。
「こうでもしないと、彼らはここにいられないの?あんたたちバッカじゃない!?」
村人たちが反駁した。
「小娘もう一度言ってみろ!」
そう言って襲いかかってきた男を簡単に組み伏せた咲也に目が点になる。
「こいついじめんのは、俺の役割だから」
そう言われて、なんだか場違いにドキドキした。
「俺たちもあんたらと同じ心臓を持ってる生き物なんだ、頼む…置いてくれ」
その時、エラが前に出た。ぎゅっとミカゲの手を握る。人間の手とは違う手だ。それを物怖じせず、エラは握った。
「私たちとは違う手だね。でも、あなたたちは奪えるのに奪おうとしなかった。それって凄いことだよ!余裕がないと人っていくらでも怖くなる…」
何人かの村人がエラから顔を背けた。
「でもね、あなたみたいな人たちがいるから、まだ大丈夫だって思えるの」
「君は…大人だな」
初めてミカゲたちが笑顔を見せた。その時、種を埋めた土から眩い光りが生まれた。私が目を瞑り、光が治ると目をゆっくり開ける。大きな木に麒麟の模様がついたバナナのような実がついていた。
(成功報酬すぐなる木〜)
私は恐る恐るバナナのような実をもいで口に入れた。もいだところから新しい実が生えてきた。泣いてる村人もいたし、狼獣人は遠慮しながらも段々大胆に食べ始めた。
「すっごい美味しいよこれ!」
「甘いし、腹持ちがいいな」
そこで木を見ていた老人に声をかける。
「食べないんですか?取りましょうか?」
老人は「結構」とだけ言って、ある家に帰って行った。
「長老だったのね」
(リスナー14人獲得…合計リスナー29人。偉人まで後1人)