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異世界ホワイエ、10年前に裕福な隣国との戦争で敗北し、莫大な賠償金と食料を奪われ続けた結果、国が疲弊し、徐々に大飢饉へと陥った。
肥沃な大地は旱魃し、食料は住民達で奪い合い、子供たちの笑顔が失われた。
目が覚めると、そこは荒れ果てた村だった。土壁の家々は崩れ、道にはひび割れた大地が広がっている。風が吹くたびに舞い上がる土埃が、肺を痛めつける。
「ここは…」
扉のない三方枠に、日傘が寄りかかって外を見ていた。
「ホワイエ国のヴァルハラという村だ。今、村の住人に聞いてきた。空き家はあるのに、村の住人は30人ほどと少ない。そして…皆痩せ細ってる」
アンチのことを聞こうとしたが、それどころではないと私も身体を起こす。外に出ると、あたりを見回すと、住民たちは皆、生気のない目をしていた。痩せこけた体、汚れた衣服、そして何よりも、飢えが常態化した虚ろな表情。子供たちの姿も見えるが、遊ぶ声は聞こえない。ただ、地面に座り込み、小さな土の塊をいじっているだけだ。
二人が立ち尽くしていると、一人の少女が私の服の裾をそっと引っ張った。
「お姉ちゃん、これ……あげる」
少女の手のひらには、一粒の種が握られていた。それは、まるで宝石のように輝く、小さな緑色の種だった。しかし、少女は痩せこけており、その瞳には光がなかった。
「食べていいよ…助け合わないと」
ここの住民にとって種が食料なんだ。
「どうして……こんな大切なものを?」
私は驚いて尋ねた。
「お姉ちゃん、困ってるように見えたから」
そう言って、少女は私に種を託した。その言葉と、かすかに震える小さな手が、私の心に深く刺さった。
「でも、これ少しは持つんだ…」
その言葉に、私の胸が締め付けられる。ポッドキャストで食レポをしていた自分が、今、飢えに苦しむ人々を目の前にしている。
「ポッドキャストだ真琴!お前はここがゲームの世界だと思ってたかもしんねーけど、こいつらは生きてる!お前にしかできないことがあんだろ!」
その時、拡声器でも使ったようなひび割れた音質の日傘の声が届いた。アンチの能力、罵倒だ。私は頭を切り替えた。
「はじめまして〜第一相談者の…何ちゃん?」
「だいいち…?…あ、名前はエラです」
「何か困り事はない?」
「たくさんっ!たくさん種が食べたい!みんなの分も欲しい!」
両手を広げるエラに微笑ましくなる。
「この種、お母さんがくれた最期の種なの…本当はあげたくない、お守りみたいなものだもの」
私は「無理に渡さなくてもいいのよ」と優しく伝える。
「ううん、お姉ちゃん、まだ目が生きてるもの…」
エラのことに胸が熱くなる。私にできることがあるなら…と強く思う。
「わかった…種のこと聞いてもいいかな?」
私がそう言うと、エラは語り始めた。母親から種を受け取った日のこと、飢えに苦しむ村の様子、そして、いつかまた、たくさんの食べ物で笑顔になりたいという、小さな夢。私はうんうんと彼女の夢を肯定する。周りを見渡すと、私の耳元に囁いてきた。
「でもね、この村の人は良いばかりじゃないんだよ…物を奪ったり、守るべき子どもを発散する道具に使うんだ、でもそれは弱いからするんだ…心がね、すり減ってるかもしれない」
彼女は話し終えると、疲れたように、でも満足気に笑った。私はこの子、大人だ…そう思った。
「この村のこと好き?」
「わからない…でも、お母さんがいた村だから」
彼女の目から微かに涙が出た。
「私ね、嫌いな人がいるの、それもたくさん」
その言葉の意図がわからないとでもいうように、エラは首を傾げた。
「いつも私のポッドキャストに、嫌なことを言ってくる人がいるの。正直、腹が立つことも多い。でも、冷静になって考えてみると、あれはどういう意図なのかなって、すごく悩むことがあるんだ。私の弱い部分を教えてくれる、強くなるためのヒントをくれる。そう考えると、単なる悪意ではないのかもしれないって、思ったりするの」
「人を嫌いになってもいいなんて、初めて言われた」
その時、種が光を帯びた。二つ、四つ、八つ…どんどん手のひらから溢れてくる。それも種の形や大きさが違う物もある。
エラが感嘆の声を上げる。
「すごい!すごいよ、お姉ちゃん!」
(成功報酬でーす。いろいろなたね〜。後は…)
真琴の手から溢れ出す種と、空から降ってきた巻物。
日傘がその巻物を拾い上げ、埃を払いながら広げた。
(初回サービス特典)
「私…ただ、相談に乗っただけなのに…」
「お前のポッドキャストは、いつだって現実逃避のツールだったろうが!嫌なことがあると発散して、食べて、歌って…そうやって俺は救われたんだよ!」
その時、日傘の声が村中に響き渡った。それは、まるで拡声器で増幅されたような、ひび割れた音質だった。
私は目を丸くする。やっぱり、あのアンチと日傘は同一人物なんだ。
「私普通にポッドキャストしてただけだよ?」
「そう、だからいいんだ。お前のポッドキャストには光なにかがあった。友達の相談に乗る時、お前は絶対に茶化さないし、本気でぶつかってた。喧嘩した時もあったくらい、お前は真剣だった!」
日傘が剥き出しの感情をぶつけてきた。教室にいる日傘とのギャップに私は立ち尽くしていた。
「こ、これ、どうすればいいんだろう…」
私は話しをすり替えた。
「うだうだ言ってねぇで、読めばいいだろう…」
私は巻き物を広げる。
報徳仕法の知識が頭に流れ込むと同時に、凍えるような孤独感が胸を締め付ける。まるで、夜通し本を読み、家族の寝顔すら見ずに働いた男の魂が、自分の中に入り込んだかのようだ。
「日傘…これ、どこを掘れば水脈に当たるか、どうすれば泥水をきれいにできるかっていう情報が流れ込んできた!これで、みんなで水を掘れる…!」
「どうでしたか?読んでみて」
そこにいたのは…誰だ?この国には不釣り合いな…小袖の質素な着物に股引、そして薪を背負った読書をしてる童顔の少年がいた。
「もしかして…」
「二宮金次郎!」
私の言葉を引き取った日傘。
「どうでしたかってどういう…」
「感想を求められてるんだよバカ!」
理不尽なことに罵倒されると音質が良くなってきてる気がする。
「あー、凄い人!」
「バカ!二宮金次郎は幼少期に洪水で田畑を失い、両親を亡くすなど困難な生活を送り、一家が没落した。しかし、昼間は働き、夜は荒地を開墾して作物を育て、その収益で借金を返済し、家を再興。関東から南東北にかけての約600か村以上にものぼる農村の財政再建と復興に携わり「そういうどこかの受け売りではなく、どう思ったかを聞いているんです」
水を得た魚のように話していた日傘を遮った二宮金次郎は子供とは思えない圧を感じた。日傘は目に見えて、落ち込んでる。私は考えて答える。
「無駄なことや浪費を嫌い、勤勉と節約を重んじていた人の前で言うのはちょっと気が引けるけど、私なりに無駄じゃない物を考えたよ。例えば、野菜の皮。これは、出汁になるし、肥料になったりするんじゃないかなって思う。それに花だって、染色ができたり、薬草は食べれたり薬になる」
本を閉じると、私に真っ直ぐな視線を向けた。
「そういうことだ。何を悩んでいる」
どうやら合格したようだ。
「種だけじゃ何もできないの」
「あれに言われたことを思い出せ…積小為大だ」
彼の周囲を煙が隠した。その時、日傘が「悪い…限界」と呟いた。
日傘の声が音割れが酷く、能力が解除される前に私は「種と交換できそうなものがあればヴァルハラまで」そう締めた。数粒、エラに渡すと喜んでいた。
白石真琴ポッドキャストがのレベルアップのためエラの他にリスナーが14人増えた。
比嘉咲也アンチのレベルアップのため身体強化、音質下の中。配信範囲が隣りの村まで広がった。
(15人リスナー獲得。次の偉人まで35人)