Letter —あて所に尋ねなし—
拝啓 母さんへ
母さん。お久しぶりです。お身体にお変わりないでしょうか。長い間連絡も取らず心配かけてごめん。久しぶりすぎてどんな話し方をしていいのかもわからないや。ぎこちない文章かもしれないけど最後まで読んでくれると嬉しいです。
何も言わずに家を出て、ごめんなさい。僕は元気にやっているので安心してください。今は仲間と共に仲良く暮らしています。隣の部屋に住んでいる随分と歳上の人なんだけど、夜な夜な話すのが楽しいんだ。こないだはつい話が弾みすぎちゃって管理人さんに叱られたくらいです。
家ではだらしない僕でしたが、ここでは朝は早くに起き、夜は気絶するように寝る規則正しい生活を送っています。朝夕は冷え込みますが、それももうすっかりと慣れました。
1日にきっちり3食を食べて、適度な運動もしています。空いた時間には読書や絵を描いて過ごしています。あの頃からは想像できない、母さんが羨ましがるような充実した生活を送っています。だから、心配しないで。
色々と本当にごめんなさい。
最近ふと家でみんなと過ごした日々を思い出します。いや、最近より一層と強く寂しさを感じるだけで、実はずっと前からことあるごとに家族みんなのことを思い出してたんだ。
厳しいながらもいつも僕達家族を支えてくれていた父さん。
小さい頃からずっと僕の前を歩み、見本となってくれてた兄さん。
散歩とご飯は僕が率先してやっていたのに何故か懐いてくれなかったポン。
みんながいないここはどこか物足りなく感じます。自分から家族のいない世界へと歩みを進めた僕ですが、そばにいなくなってから家族の大切さ、尊さに気付かされました。
やっぱり、僕はいつまで経ってもバカ息子だね。でも、今はここが僕のいるべき場所だから精一杯頑張るよ。みんなに見直してもらわないと。いつまで経ってもだらしない僕から変わりたいんだ。
でもやっぱり、母さんのことを一番思い出します。一緒に暮らしていた頃は煩わしく思った小言も今では、僕のことを想っての言葉だったと気付かされました。
母さんの思いやりを無碍にして、冷たいことを言ってごめんなさい。
酷い態度をとってごめんなさい。
机に伏して起きた明け方に肩にかかっていたブランケットの優しい香りを、勉強の間の夜食を、いつの間にか洗濯され畳まれていた服を思い出すと感謝と共に涙が溢れてしまいます。
本当にありがとう。
昔はこの一言が出てこなくて、いっぱいぶつかり合ったね。
ごめんね。
それでも、僕を見捨てないでずっと側で誰よりも応援してくれた母さん。いつか、絶対に楽させてあげるからそれまで待ってて。自慢の息子になって必ず母さんの元に戻るから、そのときはまた母さんの手料理が食べたいな。今度は僕も一緒に作るからみんなを驚かせよう。胸を張ってみんなに会えるようにしっかり頑張るから待っててね。いつもありがとう。
愛する我が子より
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拝啓 父さんへ
お久しぶりです。母さんにも手紙を出したのですが、父さんにも私の近況をご報告しようと思い、筆を取った次第です。
まず、何も告げずに家を飛び出してしまい申し訳ございませんでした。家族の皆様にはとても心配をかけたと思います。父さんに関しましては医者という多忙な仕事の中、いらぬ心労をかけ本当に申し訳なく思います。
幼い頃から父の姿に私はずっと憧れていました。兄同様、気付けばあなたの背を追いかけ、医師を志し勉学に励みました。
ですが、私は逃げ出してしまいました。三度目の浪人生活を終え、四年目の医学部入試に向けた勉強の最中、耐えられなくなってしまいました。現役で医学部に合格した優秀な兄と父に憂き目を感じ、焦り、私は全てを捨てて今ここに至ります。
父さんからみた私はとんだ落ちこぼれかと思います。期待に添えず本当に申し訳ございません。
ですが、どうかこんな愚息をもう一度息子として一家に向かい入れてはくれないでしょうか。父さんのように直接誰かの命を救うような事を成すわけではないですが、私なりに日々を一生懸命に生き抜いております。父さんの誇りとなれるような息子になりますのでどうかよろしくお願いいたします。
そして、あの頃はできなかった親子の会話がしたいのです。私は父さんや兄さんと同じ医者になることはできませんでしたが、目指したことにより一段と二人の凄さを実感しました。忙しい中も私達家族との時間を作り、私にも兄にも分け隔てなく愛を注いでくれていたことを今になり痛感しております。結果を出さないこと、うまくいかないことばかりに目を取られ、大切なものを見失っていました。
父さん、ごめんなさい。
もう、お互いそんな歳ではないかもしれません。
ですが、また兄と共に三人でキャッチボールでもしませんか。それか、私も大人になったのでお酒でも飲み、お互いの今までを語り明かしたいと強く思います。
厳しさは優しさ。
父さんの指導が今の私に強く活かされていると実感しています。私を強く育ててくれて本当にありがとうございました。また会える日を楽しみにしております。どうかお身体にお気を付けください。
息子より
———
拝啓 兄さんへ
兄さん。久しぶり。父さんと母さんにはもう手紙を書いたけど、兄さんにも思いを伝えたくて手紙を書くことにしました。実はこっちで兄のように慕っていた隣人が昨日出て行って、感謝を伝えそびれたんだ。兄さんに気持ちを伝える機会を逃したらいけないと思って、踏切ることができたよ。
父さんと母さんは元気そうかな。僕がいらない心配をかけて体調を崩してないといいけど。兄さんも忙しいのに迷惑をかけてごめんね。優秀な兄さんがいてくれて本当に助かったよ、ありがとう。
そして、兄さん、本当にごめんね。
仕事はどうかな、順調かな。やっぱり医者は忙しいのかな。父さんがずっとあんな感じだったから忙しいよね。小さいときは一緒に二人でお医者さんになろうって約束をしたのに守れなくてごめんね。どこまでも出来の悪い弟で兄さんも恥ずかしいよね。ごめんね。
兄さんは僕のことを周りに自慢できないかもしれないけど、僕にとって兄さんは昔からなんでもできるヒーローだったよ。
学校でもどこに行っても、僕じゃなくて兄さんが褒められるのがたまらなく嬉しかったんだよ。
本当だよ。
僕より先に生まれて、なんでもできるからってみんなにチヤホヤされている兄さんは本当に凄いな。僕は上手くできなかったけど、いつも兄さんが手本となって前を進んでくれたおかげで、自分がどうあるべきか理解できたんだよ、ありがとう。
正解がすでに存在してくれたおかげで、僕がこんなでも親は最低限威厳が保たれていたから安心できたんだろうね、生まれてきてくれてありがとう。
僕が現役で医学部に合格できなかったときから、目も合わせてくれなくなったけど、あれのおかげで火がついてより一層机に向かえたんだ。小さいときはいつも一緒に遊んでたのに、あの頃から遊ばなくなったね。
僕の名前も呼ばなくなったね。
また兄さんの声が聞けるように僕頑張るね。
僕がみんなのところに戻るまで家族のことをよろしくお願いします。また、あの頃みたいに仲のいい兄弟になれるように、恥ずかしくない弟になって兄さんの元へ帰る。兄さん、いつもありがとう。
追伸
僕が帰るまでポンのお世話よろしくお願いします。
おとうとより
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はいけい ポンへ
ポン!
おい、ポン! 元気か〜!
ちゃんとご飯と散歩できてるか!
ぼくがいなくて寂しいか! 尻尾下がっているのが見えているよ。
まあ、そんな訳はないんだけど。
どうして、ぼくが帰ってきても寄ってきてくれなかったの。
どうして、ぼくがボール投げても取りに行ってくれなかったの。
どうして、ぼくだけに吠えるの。
どうして、ぼくだけに牙を向くの。
どうして、どうして、どうして、どうして、どうしてなの。
ねー、ポン教えてよ。
誰が餌与えてやった。
誰が散歩に行ってた。
おい、考えろよ。
考えてみろよ。
お前はぼくがいないと生きることができないただの犬畜生だろ。
何様なんだよ、吠えるな、噛むな、睨むな。
飼い主様に逆らうな。歯向かうな。
みんなが見ていないところで、またお仕置きする必要がありそうだな。
指導が足りていないからあんな態度を取るんだろ。
ぼくは父さんと母さんからいっぱい教えてもらったから、父さんと母さんには反抗しなかったぞ。
お前にはそれが足りない。分かっていない。
お前はただの愛玩動物なんだよ。
ぼくが辛いときには黙って癒せばいいだけの存在なんだよ。
何もせず存在するだけで金を貪る愚か者。
ああ、それはぼくと同じだね。
仲間だ、仲間だ。
だけど、お前とぼくは違う。
人様と犬の違いくらい理解しろ。
ぼくが帰るまで餌を食べるな。
ぼくが帰るまで散歩に行くな。
もう二度とぼくに逆らうな。
待て。
カイヌシサマより
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ハイケイ 向かいの男の子へ
久しぶり。
覚えているかな。
向かいに住んでいたお兄ちゃんだよ。
ぼくが公園で泣いていたとき優しく声をかけてくれてありがとう。
あれでとても救われたんだ。
ぼくはあのときお勉強が上手くいっていなくて、ままには毎日罵られ、他の奴らには存在しない空気のように扱われていっぱいいっぱいだたんだよ。
そんなときにきみに声をかけられて助けられたんだあ。
まるで太陽みたいな幼い笑顔が忘れられなぃ。
今も笑えているかな。
また君の笑顔が見たいな。
あれだけでぼくはこんな冷たい孤独も乗り越えられそうだよ。
そういえばね、昨日先に出て行った仲間がね、会いに来てくれたんだ。お前もこっちに来てやり直さないかって誘ってもらえたんだ。今までのことを全てリセットして全部うまくいくような希望を見出したよ。
そして、君のことを思い出したんだあ。
子供は動く希望だね。
ぼくにもそんな時代があったはずなのに。
どうしてこんなことになったんだろうね。
君はぼくみたいになったらダメだよ。
また時々公園でお話をしようね。
そのときはもっと優しくするね。
もうぜったいに泣かせないよ。
だって、ぼくは君の笑顔が大好きだたんだから。
おにぃさんより
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「続いてのニュースです。本日午前、東京拘置所で死刑が執行されました。X年前、〇〇市の住宅街で起きた一家惨殺事件の犯人で、当時22歳の男性死刑囚です。
男性は家族と住む家で両親と兄、飼い犬を殺害した後、向かいの家に住んでいた小学生男児をも殺害する凄惨な事件でした。新山コメンテイター、改めてこの事件どうご覧になりますか」
「そうですね。彼は受験の失敗や家庭での孤立から精神的に追い詰められていたとされます。
裁判では心神喪失の主張もありましたが、最終的に責任能力が認められ、死刑が確定しました。
ただ、家庭や社会から切り離された若者が何故ここまで孤立を深めたのか。何故このような事件を引き起こしてしまったのか。
あのとき周囲に少しでも彼に寄り添える仕組みがあれば、悲劇は防げたかもしれません。
我々、社会にも問いかけられている、無視することができない事件だと私は思います」
「やはり問題は孤独、孤立だとお考えですか」
「もちろん、精神的孤立も大きな要因だと思いますが家庭環境、受験のプレッシャーなど様々な要因が複雑に絡み合った事件だと思います。私がこの件で特に気になったのは世間の反応ですね」
「と、いいますと」
「はい。死刑が当然だという声が当時非常に多く見受けられた。
ただですね、加害者も一人の人間であって、たとえ法を犯したとしても人権は保障されるものなんです。
何も考えずに人をたくさん殺害したから死刑というのはおかしいと思うんです。
厳罰化が進む昨今ですが、自分や親しい人物が加害者側に立たされたときのことも考え発言するべきだと私は思いましたね」
「ありがとうございます。事件からX年、一つの区切りを迎える形となりました。
それでは、続いてのニュースです」




