転生悪役令嬢、断罪回避したいのに全力でフラグ立てられてます!?
――ん?今の何?
口の中で砕けたのは、ステーキに振られた粗挽き胡椒の塊。それが、想像を絶する苦さで、私の脳を直撃した。電流走った。いやマジで。
その瞬間、前世の記憶がブワァッとよみがえった。
前世の私は、日本のごく普通の女子高生だった。で、ある日突然、交通事故で命を落とし……気づいたら、大好きだった乙女ゲームの世界に転生していた。
しかもよりによって、悪役令嬢。
今の私は15歳。中世ヨーロッパ風のファンタジー世界で、立派な名家の令嬢なんだけど、問題はその「立ち位置」。
この世界の“シナリオ”では、私、姉をいじめまくった末に、悪行がバレて断罪→処刑コースなのよ。乙女ゲームで何度も見た、アレだよ、アレ!
でも――断罪なんて、絶対イヤァァァ!!
姉は父の前妻の娘で、2歳年上。母が違うだけで、私とはちゃんとした家族なのに……私の母が姉に冷たくて、私はその影響で、調子に乗って一緒にいじめてた。
最低すぎる……前世を思い出した今、そんな自分が信じられない。もう、絶対改めなきゃ!
その夜。
いつものように、母・姉・私の3人での食事。
父はお仕事で不在。
そして、いつも通りの“儀式”が始まった。
母がフォークで熱々のステーキを刺して――
「えいやっ☆」
姉の顔面めがけてフルスロー。
……って、やってる場合かー!!
「何さらしとんじゃボケェェェ!!」
私は反射でステーキをキャッチ。そのまま回転投法で母の顔面にホームラン。
「ぎゃあああああああああ!」
母、撃沈。
姉は固まってこっちを見てるし、私は姉の手を握って、泣きながらごめんなさいを連呼した。
「あのときの私は最低だった!でももう違うからっ!」
そしてその日から、私は姉のために戦った。
姉は学校でもいじめられていたけど、私は全力で庇った。いじめっ子?全員私の“ざまぁ”スキルでフルコンボよ。
そして、運命のイベントがやってくる。
王太子から、姉へ――プロポーズ。
そう、ゲーム通り。でもここで私が変に張り合えば、また断罪ルート一直線。
だから私は思った。
(姉、幸せになって……私は静かに生きるから)
ところが、だ。
王太子、なんかこっち見てくるんですけど……?
ていうか、明らかに姉より私に話しかけてくるんですけど?
あれっ、これ私のフラグ立ってない?!
姉は怒るどころか、ニッコリして「ふふ、二人お似合いよ」って言ってくる始末。
え、えぇぇぇ!?
ある日、王太子から「話がある」と呼び出されて、ビビりながら向かったら――
「君を妻に迎えたい」
って、えぇぇぇぇ!?!?!?!?
「えっ、でも姉が……婚約者じゃ……」
「彼女は納得している」
そして、奥から登場する姉。
「私はいいの。あなたの方が、王妃にふさわしいわ」
……いや、ちょっと待って、待って待って待って。
私、断罪されたくないだけなんですけど!!!
「ごめんなさーい!!!」と叫んで王宮からダッシュ!
「結婚してくれー!」と叫びながら追ってくる王太子!
「王太子とくっついちゃいなさーい!」と叫ぶ姉!
「我が息子をよろしく頼むぞ!」と王様!
「お姑さんにはならないから安心して!」と王妃様!
そのほか宰相、兵士、民衆、果ては犬までついてくる!
全員一致で「嫁になってくれー!」
……え、圧がすごい。
2時間、全力で逃げた末に、ついに私のHPはゼロ。
「……わかった!私の負けぇぇぇ!結婚するぅぅ!!」
そして、国中が「ばんざーい!」と喝采した。
その後、王太子と結婚した私は、王妃として超幸せに暮らしました。彼は超甘々で、姉もずっと仲良し。
ゲームの通りに行かなくても、人生って素敵に転ぶんだね!
え、断罪?
そんなもん、胡椒と一緒に噛み砕いてやりましたとも♪