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7. 手紙

リルルが手紙を読むと、その顔はたちまち青くなっていき、手に持っている便箋が震えている。


「誰から?」

「女官のソフィラからです。エリウス様、大変です」

「何かあった?」

「セシリア様が、いなくなられました」

 リリルは震える手で手紙をエリウスに渡した。

 

 セシリアはエルヴィンに会ってさよならを言った後、急いで馬に乗って、アストリウス国に向かったそうなのだ。ソフィラは馬車で王女の馬を追いかけたのだが、途中でセシリアの空馬が戻ってきた、そのようなことが記されていた。周囲を捜索しているが、見つからない。


「そちらに、王女は到着されていますか?」

 とソフィラは尋ねている。


「ここにはまだ到着していらっしゃらない……ということは」

 リリルは宙を見つめながら、眉間に、深い皺を寄せた。


 まさか、王女が結婚を嫌がって、逃げ出してしまわれた。いいえ、そんなことがあるはずがない。

 リリルの心の奥で疑問がざわめき出し、次から次へと憶測が広がっていった。その内容はどれも不安をかき立てるもので、そんなことがあるはずがない。絶対にないと口元を引き締めた。

 でも、考えれば考えるほど、嫌な予感が現実味を帯びていく。



「セシリア様は、どこかへ行かれてしまったのでしょうか」

「どこかへって」


「結婚がいやになり、逃げてしまわれたのでしょうか」

「そんなことはない。姉上は、すぐに来るって約束したのだから」

 不安があふれて、エリウスの美しいガラス玉のような瞳が揺れている。


「そうですよね。きっと、ちょっと遅れているだけでしょう」

「でも、馬だけが戻ってきたって」

「だからといって、セシリア様が来られないとは決まっていません」

「もし来なかったら、……」

 とエリウスの言葉が途切れた。

 

 彼は目を閉じて息吸い込み、手紙をテーブルの上に置いて、リリルを見つめている。悲しみと不安が混じる顔を見ていると、ここを自分がなんとかしなければならないのだという重圧が、どっと押し寄せてきた。

 

 さて、リリル、どうするの?

 リリルは自分に問う。

  

 このままだと、エリウス様が男子であることがレオナルドにばれてしまうのは時間の問題だ。何か妙策を考えなければと思うけれど、あまりに急で、何も思い浮かばない。


「リリル、ぼくは、このことをレオナルド陛下に伝えようと思う。陛下に、探してもらおう」     


「お待ちください、エリウス様」

 立ち上がろうとするエリウスを、リリルは反射的に制止した。


「じゃ、リリルはどうするのがよいと思うの?」

「まだよい考えはないのですが、陛下に伝えるのは得策ではないと思います」


「嘘を続けるわけにはいかないだろう」

「でも、今、真実を話してしまうのは危険です。陛下が激怒し、エリウス様にどんな対応をされるか、わかりません。それに、もしエルナリス国が約束を破ったと知れれば、戦争が起こるかもしれません。考えをまとめますから、ちょっと時間をください」

「戦争が起きる?」 

「戦争になったら、今のエルナリス国は、勝てないでしょう」


「でも、このままじゃ……」

「エリウス様、まずは落ち着きましょう。セシリア様がすぐに戻ってくるかもしれません。少し様子を見ましょう」

「もう少しって、どのくらい?」

「もう少しだけ、セシリア様でいてください。きっと、いい考えが浮かぶはずですから」


「よい考えが浮かばなかったら?」

「浮かびます。私を信じてください」

 リリルは決して後には引かないだろうとエリウスは思った。


「……わかったよ。もう少しだけ、このままでいよう。もう少しだけ」


 エリウスは窓の傍に歩み寄った。その目は遠い空を見ていたが、その瞳には何も映っていなかった。春の風や光も、今の彼には届かない。彼は呆然として、ただそこに立っていた。





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