表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/39

29. 町外れの家

 レオナルド王は家来を従えて、ルイカに教えられた町外れの小さな家へと辿り着いた。

 町の喧騒とは打って変わって、そこには静かな風景が広がり、蝉の声までが聞こえていた。


 古びたその家は今にも崩れそうだったが、庭には手入れの行き届いた草木が茂り、人の温もりを感じさせた。開いてある家の窓からは、燃えている薪のにおいが漂ってきた。


 家来のひとりが家の戸を叩くと、年老いた女性が中から顔を出し、レオナルド王と近衛隊の姿を見た途端、驚きのあまりその場にへたり込んでしまった。


「どうぞ、ご安心ください」

レオナルドは優しく声をかけ、老婆を抱き起こした。


「申し訳ございません。いったい、こんなあばら家に何のご用でしょうか。悪いことは、何もしていません」

 震える声で老女が尋ねた。


「心配することはない。ここに、ある女性が匿われていると聞いた」


「あ、はい。息子がこの娘をしばらく頼むと言って、知人に託してここへ運ばせました。息子は宮廷の宿舎におりますので」

「なるほど」

「それが、何か悪かったのでしょうか」


「いいや。彼女に会わせてもらいたいのだ」

「はい、少々お待ちを。今は休んでいるかもしれません」

「体調が悪いのか?」


 老女はため息をつき、静かに答えた。

「頭をひどく打っていて……被り物を取ったとき、金髪が血で真っ赤に染まっておりました」


 金髪なのか!

 だから、小さなセシリアは金髪のウィッグをつけていたのか。


「女性の具合はどうなのだ?」

「腕と肩も傷を負っております。お医者様は落馬による怪我だろうとおっしゃいました」


 落馬か。

 レオナルドの頭の中で、断片的だった情報がゆっくりと繋がっていく。

 エルヴィンは落馬で命を落としたのだ。そしてこの女性も、同じく落馬によって頭を強打したようだ。


「怪我をした時期について、何か手がかりはあるか?」

「詳しいことは存じません。ただ……最初にここに運ばれてきたとき、蒸した芋を差し出しましたら、何も言わず夢中で三つも食べました」


 老女は背中を丸めて奥の部屋へと向かった。

 しばらくすると、老婆の声が聞こえた。


「娘さんは、大丈夫です。どうぞ、お入りください」


 小さな部屋に足を踏み入れると、薄暗がりの中にひとりの女性が。頭に包帯を巻かれ、青白い顔で横たわっていた。


 レオナルドはベッドのそばに歩み寄り、静かに問いかけた。

「あなたは、エルナリス王国の王女、セシリア様ですか?」


 女性はゆっくりと目を開け、眉を寄せながら彼を見つめた。


「その名前は、知らない。あなたはどなた?」


「私は、アストリウス王国のレオナルド・フィリスだ」


 その名を聞いた瞬間、彼女の瞳に恐怖と混乱がよぎった。その唇が震え、言葉を搾り出した。


「帰って……」


「怖がらなくていい。私はあなたを助けに来たのだよ」


「嘘」

 彼女は首を振り、布団の中で身を縮める。


「嘘じゃない」

「……エリウスは? 私のかわいいエリウスはどこ……あなたが殺したの?」


 突然、彼女は叫び出し、涙を流しながらレオナルドに向かって手を伸ばした。


「エリウスを返しなさい……!」

 その涙は次から次へと溢れ、頬を濡らして止まらない。


「落ち着いてください。私はエリウスを殺していない。むしろ、エリウスとは誰なのか、教えてほしいのだ」

「会いたい……お願い、エリウスに会わせて……」


「あなたは、どうして、エリウスが殺されたと思うのですか?」

「わからない。でも、怖い夢ばかり見るの。誰かこわい人が私を追いかけてくる。エリウスが、どこか遠くで泣いている……」


「あなたの名前は、本当に思い出せないのですか?」

「わからない……わからないの。お願い、私をここから出して、エリウスを探して……!」


 彼女はレオナルドの膝にすがりつき、涙をこぼしながら懇願した。

 彼は、彼女の頭にそっと手を置いて、やさしく囁いた。


「わかりました。こわがることは何もありませんよ。一緒にエリウスを探しましょう。そのためにも、あなたの力が必要なのだよ。私に、協力してくれますか」


 女性は震える手でレオナルドの袖を掴みながら、かすかに頷いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ