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2. 身代わり

 王女セシリアとレオナルド国王の婚姻こんいんは代表者の交渉によって決められたもので、肝心の二人は会ったことがなかった。


 しかし、国王との結婚はそういうものなのだ。子犬でもあるまいし、市場や道路で偶然に知り合い、恋に落ちて結ばれるなどというのは庶民の結婚で、王家や貴族の場合はそうはいかないことをセシリアは知っていた。


 さまざまな調度品や衣装などが用意され、大半はもう運ばれた。後は、身の回りの品をもって、本人が行くばかりになっていた。


 ところが、数日前に、女官のソフィラがレオナルド国王についての噂を持ち込んできたのだった。


 彼は冷血国王と呼ばれていて、銀色の髪、黄色い目。残酷で、人をすぐに死刑にする恐ろしい男だというのだ。


「そんなことは、報告書にはなかったわ」

 

 戦争に勝ち続けている国の若き王なのだから、のんびりした温和な人でないだろうということや、女性がいたくらいのことは予想はしていたけれど、身近の人の口からそんな姿を語られると、そういう男と一生暮らしていくのかと怯える部分はあった。


 そして、エルヴィンの優しさを思い出し、どうしても、もう一度、会いたくなったのだった。

 エルヴィンとは身分違いだから、ただの幼なじみ。自分の相手はどこかの国王か、公爵か、最低でも伯爵、だから農民出身のエルヴィンとの結婚なんて、一度も考えたことがなかった。

 

 でも、好きだった。

 彼には、一度も好きだと伝えたことがなかったけれど。

 

 それを言って、いまさらどうという気持ちはないけれど、青春の大事な一ページとして、伝えておきたかった。


「泣かないで、姉上。いろいろ考えて、決めたことだろう? それに、ぼくだって一緒に行くのだから、寂しくはないよ」

「それはわかっているの。だからね、私があそこに行くまで、エリウス、あなたには私の代わりをしてもらいたいの」

 

 えっ。

 

 エリウスには何のことなのかわからなかった。


「どういう意味?」

「あなたが私になって、嫁入りしてほしいのよ」

「でも、ぼくは男だよ。そんなこと、無理だよ」


 セシリアが泣きながら、弟を抱きしめた。

「大好きなエリウス、お願いよ。ずうっとなんて言ってない。私がエルヴィンに会って、アストリウスに行くまでのほんの少しの間だけ」

「でも、どうやって」


「あなたは私の背丈とほぼ同じだから、あとは、メイクや髪型でどうにでもなるわ。顔立ちは少し違うけど、きっと上手くやれるわ。それと、あなたは痩せすぎているから、服を少し直させなくては」

「でも、ぼくが姉上に、なれるとは思えないけど」


「私はどうしてもエルヴィンに会いたいの。エルヴィンと一目あって、さよならを言ったら、すぐに駆け戻ってくるから。この広い世界で頼めるのは、エリウス、あなただけよ」


 その言葉にエリウスは深いため息をつきながら、弱々しくうなずいた。

「わかったよ、やってみる。でも、姉上、ぼくにそんなことができるかどうかわからないけど」

 

セシリアが突然、笑顔になった。

「ありがとう。エリウスなら、ぜったいに、助けてくれると思っていたわ」


 リリルは二人の会話を聞きながら、やさしいエリウスが、姉のために無理難題を引き受けたことに感動して、胸が震えていた。


「リリル、エリウスが代わりにうまく花嫁の役を果たせるように、しっかり手伝ってあげるのよ」

「はい、もちろんです」

 とリリルが大きな声で答えた。


「あなたは元気がよくていいわ。頼りにしていますからね」

 とセシリアがリリルの肩を叩いた。





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