17. ゼリアンとカトリーヌ
行先は、サラナント国で剣術の町として名高いサラカレに決まった。
エリウスは、世界中の剣術士が憧れるその町の名前を耳にしたことがあった。
「サラカレに行けるなんて、考えてもみなかった」
「一流の場所で学ぶのが、強くなる近道ではありませんか」
「そうかもしれない。でも、ぼくにそんなことができるのだろうか」
「できるかできないかは、まずはやってみてください」
「もしできなかったら?」
「できるまでやってみてください」
「わかった。がんばってみるよ」
サラカレへ向けての二ヶ月間の旅の途中、エリウスは何度もレオナルドのことを思い出し、胸が痛くなっていた。
それを見たリリルは、ある提案を口にした。
「名前を変えましょう。もう昔の私たちじゃないのですから」
「そうだね、いいね」
とエリウスはあっさりと同意した。
「私はカトリーヌになります。私はずっと名前というものがなかったらしくて、小さかったから、誰かがリリルって呼んで、それが名前になったんです。だから、私、カトリーヌっていう名前に憧れていたんです」
「リリルは、かわいいよ」
「でも、今日からは、カトリーヌです」
「ぼくはゼリアンにしよう」
「どうして?」
「子供の頃に読んだ剣士のヒーローの名前なんだ」
「子供の頃から、剣士に憧れていたのですね」
「本当は、そうなんだよ。恥ずかしいから、言わなかったけど」
「では、私たちは姉弟ということにしませんか?」
「それ、変だろう。兄妹だよ」
「私のほうが年上です」
「同じ歳じゃないか。誕生日はいつ?」
「それも、分からないの。たぶん春生まれね。春が好きだからそう思うの」
「ぼくは十一月生まれだけど。リリル、もしかしてきみ十六歳っていうのも確かじゃないのか?」
「ええ。もしかしたら、十七歳か十八歳かもしれません」
「それはないね。きみの顔を見れば、たぶん十四歳か十五歳だ」
「私、そんな子供じゃありません!私はカトリーヌで十六歳です!」
リリルが泣きそうな顔になったので、エリウスは彼女の頭をぽんぽんと撫でた。
「分かったよ。そんな顔しないで。じゃあ、カトリーヌが姉さんで、ぼくが弟でいい」
「孤児の姉弟ってことでいきましょう」
「うん、そうしよう」
こうして、リリルはゼリアンの姉の「カトリーヌ」になったのだった。
カトリーヌとなったリリルが、またアイデアを思いついた。
「ゼリアン、毎日歩くだけじゃなくて、たまには走るっていうのは
どうですか?」
「歩き続けるだけでも十分大変なのに、走るの?」
「サラカレに着くまでに、少しでも体を鍛えておいたほうがいいと思うの」
「そうだね。ぼくは運動不足だから、走るのはいいアイデアかもしれない。でも、できるかな」
リリルはエリウスが走ることに集中すれば、陛下のことを思い出さずに済むだろうと考えたのだった。彼女自身は走るのが得意だから、先頭を切って走れば、エリウスも走らずにはいられないはずだと思ったのだ。




