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16. 安宿

外が暗くなり始めた頃、エリウスとリリルは息を潜めるようにして、宮廷の門を通り抜けた。


 門には年配と若い守衛が立っていたが、応対したのは若い方だった。

 若い守衛は少年たちの粗末な身なりに気づくと、彼らが遅くまで下働きをしていた子供たちだと察し、同情の色を浮かべた。


「帰り道、気をつけて」

 守衛は優しい声をかけ、詮索することなく二人を通した。


「第一関門突破ですね、エリウス様」

「うん。さあ、行こう、リリル」


 二人は夜の中に溶け込むように、町の方へと歩き出した。手元にあるのは金貨三十枚。そのほとんどはエルナリスを出る際、セシリア王妃から託されたものだった。


 もし身代わりが露見するような事態になれば、賄賂として使うようにと言い含められていた。その中には、リリルがこつこつと貯めてきたわずかな金貨も含まれている。


 リリルは計算し、この金貨があればしばらくの間はなんとか生活できるだろうと考えていた。自分だけなら数年は生きていける額だけれど、エリウスは王子なので、実際、どのくらいお金が必要なのか、想像ができない。でも、そんな時には、自分が働けば、どうにかなるだろう。

 

 深夜、ふたりは村外れのさびれた小さな宿に身を寄せた。


「こんな、ところで、すみません。こんな場所に泊まられたことはないでしょう」

「ないけど、そんなこと、気にすることはないんだよ。ぼくがひとりで旅立っていたらら、野宿だったと思うから。寝る場所があって、ありがたいと思う」


「ありがたい」ですって。城から脱出してまだ数時間のうちに王子は成長した、とリリルは感激して、涙ぐみそうになった。


 ふたりはそれまで城からの脱出に全神経を注いでいたため、今後の具体的な計画はまだ立てていなかった。


「エリウス様、一番したいと思われていたことは何ですか?」


 リリルが問いかけると、エリウスは少し考え込んだ。

「ぼくは、ずっと剣術をうまくなりたいと思っていたんだ。でも、体が小さくて力もないから、いくら練習しても姉上には全く歯が立たなかった。だから、できることなら、強くなりたい」


「それはすばらしいお考えです。では、そうしましょう。情報収集は私にお任せください」

 リリルは胸を叩いて明るい声で答え、さらに言葉を続けた。


「エリウス様ならきっと、強くなられます」

 

 リリルの言葉を聞くと、エリウスはうれしそうに笑った。セシリアとして生きていた時の、どこか遠慮がちだった笑顔よりもずっとさわやかで、この方とふたりで旅ができるのだと思うと、リリルの胸は熱く高鳴り、心が躍った。


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