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呪いVS祝福 最強無敵、天使で聖女様ヒロイン!? 天ノ川 天子ちゃん(でも実はストーカーだけど推し活だからいいよね♪)登場

 彼女の朝は早い。早朝に起きてシャワーを浴び、身だしなみを整え、長く艶やかな金色の髪をセットする。そして、日本といえばというような朝ごはんを自身で用意し、食べ終えると、最近日課となったSNSのチェックをする。


 彼女がチェックするSNSは、自分のものではない。ひたすら同じ人形ドールの写真が投稿されている、最近作られたばかりのアカウントを眺めながら、にっこりと幸せそうな表情を浮かべる。


 すべてにいいねを押し、スマホをテーブルの上に置く。そして、頬杖をつきながら、ふっと笑みがこぼれる。しばらくぼーっとしていたが、ふと何かに気がついたようにハッとし、慌てて学校へ行く準備をして登校する。


 なぜ、慌てていたのかというと、もちろん日課をこなすためである。ちょっとトロ臭そうな小走りでいつもの場所に向かう。


 本日は少し遅かったのか、とあるマンションの近くに到着すると、ちょうどある人物がマンションから出てくるところだった。彼女は慌てていつもの場所に身を隠し、電柱の陰からそっと顔だけ出して、その人物を観察する。


(きょ、今日も物凄く……かっこいい)


 人形ドールを右前腕に座らせ、人の世に生きているとは思えないほど神秘的な雰囲気を醸し出す黒髪赤眼の少年、人形ヒトカタ 緋影ヒカゲを影から観察ストーキングするのが彼女の朝の日課なのである。


 話しかける勇気はないため、ひっそりと影から見守り、最近できた彼のSNSを監視する。それが彼女、天ノアマノガワ 天子テンコの推し活、もとい趣味(生きがい)であった。


 天ノアマノガワ 天子テンコは、学校では天使様や聖女様と呼ばれるほど、この世のものとは思えない美しさを持つ少女である。真っ白な肌、艶やかな金髪、海や空よりも美しい深い青の瞳。小柄で愛らしい造形美は、まさに天から与えられたものといっても過言ではない。


 もちろん性格も良く、人当たりがよく礼儀正しい。誰にでも優しく手を差し伸べるその姿は、まさに聖女のようである。


 人形ヒトカタ 緋影ヒカゲが異界の住人と称されるなら、彼女は天界の住人と言えるだろう。そういう意味では、緋影とは相性が良いのかもしれない。もし二人が並べば、もはやそこは現世ではない。絵画の世界と呼べるほど美しいであろう。


 まぁ、天子が緋影に自分から話しかける勇気などないし、近づくことすらできないため、今のところは実現していないのであった。


 天子が緋影を好きになった理由は単純である。ただの一目惚れであり、そのきっかけは、緋影が中学生の時の修学旅行での出来事だった。東京生まれ、東京育ちの天子は、緋影を追いかけて、遠く離れた地方のとある高校に入学したほどである。


 緋影が学校に向かって歩いていく後ろを、忍者よろしく物陰から物陰へと、少しどんくさそうに移動する。しかし、数々の素行調査をこなしてきたベテラン探偵のように、全く気づかれることなく、完璧?な尾行を続けていた。


 ちなみに実は、りんねちゃんの初登校の日も、天子は緋影のことを影から見守っていたのである。(緋影が休んでいた日も、彼が出てくるまで待機し、心配そうに(残念そうに)していた)



 



 りんねちゃんが学校に通い始めて一週間が経っただろうか。学校生活にも慣れてきた呪いの人形ドールりんねちゃんなのである。しかし、最近、呪いの人形ドールは人の視線を感じていた。


 毎朝、登校する際に必ず誰かに見られている気がするのであった。ビビビビッ、気配を感じた刹那、緋影の肩に顔を乗せ、後方を確認するりんねちゃん。


 誰もいない。気配すら感じない。


 いつの間にか、緋影の右前腕に鎮座し直すりんねちゃん。おかしいと疑問の表情(無表情)を浮かべている。実は、気がついたのは最近で、必ずマンションを出ると視線を感じるのである。そこからずっと背後に人の気配を感じているが、今だにその正体を掴めていない。


 その視線の正体はもちろん、天ノアマノガワ 天子テンコである。人の視線に敏感で、人に見られていては動くことができない呪いの人形ドールの視線探知能力ですら上回っている――というわけでもなく、それは単なる偶然であった。


 たまたま、りんねちゃんに見つかりそうになるたびに、推しストーカー中の天子は、困っている人を見つけて声をかけに行っていたのであった。これでは、さすがの呪いの人形ドールでも見つけられるはずがないのである。


 本日も、たまたまりんねちゃんが背後を確認するタイミングで天子は困っている人の手助けをするためにどこかに消えていたのである。


「では、わたくし、これで失礼いたしますね」


 道に迷っていた人に親切丁寧に道を教え、笑顔で別れを告げた天子。推しストーカーを再開しようと曲がり角を曲がった瞬間、人とぶつかってしまった。尻もちをついて倒れた天子に、ぶつかった相手が手を差し伸べてきた。


「……すみません……大丈夫ですか?」


 俯く天子にそう抑揚ない声で言葉をかけたのは緋影であった。


 そもそも、緋影がなぜ急にもと来た道を引き返したのかというと、見回り中の警察官を見かけたからであった。緋影が警察官を避けている理由については、後ほど語られることになる。


 ちなみに、呪いの人形ドールであるりんねちゃんはというと、左側からぶつかったため無事だった。しかし、どこか驚いたような無表情を浮かべている。すべてを神回避するはずの緋影が人とぶつかったことも驚きの一因だが、それ以上に、自分がぶつかった相手の気配を察知できなかったことに驚いているようだった。


「す、すみません……こちらも急いでいたもの……で……………………」


 差し伸べられた手を握り返そうと手を伸ばし、顔を上げた瞬間――お互いの指先が触れそうになったその刹那、天子の動きがピタリと止まり、彼女の時間が凍りついた。


(きゃぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!!! ひひひひ、ひ、緋影様!! 緋影様がわたくしに声を……な、なんということでしょう……これは夢なのでしょうか!?)


 そうぶつかった相手が、緋影だと気がついたためであった。心のなかで絶叫し差し出した手が震えだす。


(……手を差し出したのは間違いだったか……き、気まずいな……この手はどうするのが正解なのだろうか……このままか!? それとも引っ込めるか!? どうすればいいのだろうか)


 天子の震え出した手を見て、緋影は手を差し伸べたことを後悔した。


(……って、この子……天ノ川さんだ………………なんで、こんなところにいるんだろか……)


 人の顔を覚えるのが苦手で、いまだにかわちゃんの取り巻きの名前や顔すら覚えていない緋影ですら、記憶に残る人物――それが天ノ川 天子だった。しかし、急にプルプルと震え出し、顔を真っ赤にした彼女のことが心配になる緋影であった。


「あ……天ノ川さん……顔が赤いけど……だ、大丈夫か? 怪我とか……したのか?」


 とりあえず、差し伸べた手はそのままにできる限り優しい感情のこもってない声でそう声をかける緋影であった。


(……ひ、緋影様がわたくしの名前を覚えてくださっているなんて、そんなことが……ああ、神様……やはり、これは夢なのですね。素敵な夢をありがとうございます)


 突然、目を閉じ、両手を組んで天に祈りを捧げる天子に、戸惑う緋影であった。


(……しかし、こう見ると……まさに、聖女って感じの子だな……聖女様とか天使様とか言われるのがわかるような気がする)


 まるで後光が差すような天子の祈る姿には、超絶鈍感な緋影ですら見惚れるものがあった。しかし、そんなことを心の中で思った瞬間、呪いのヤンデレ人形ドールが黙っているはずもない。いつの間にか顔を真上に向け、ジーッと緋影をヤンデレドールアイで見つめている(睨んでいる)りんねちゃんなのである。


 しかし、天子に両手を組んで祈るためとはいえ、手を引っ込められては、差し出したままの左手が宙ぶらりん――気まずい緋影なのである。


(ゆ、夢なら……お手を拝借しても……よろしいのでしょうか? い、いえ、夢であろうと……節度ある態度で推しには接するべきでは……で、でも、夢なら……す、少しくらいは……)


 神様に感謝の祈りを終え、目を見開き、じーっと差し出されたままの緋影の左手を見つめる天子。そーっと手を差し出しては引っ込める動作を何度も繰り返す。ちなみに、天子が緋影の手を握ろうとするたびに、りんねちゃんは無表情のまま威嚇し、天子が手を引っ込めると再び冷静な無表情に戻るのであった。


(多分だが……これは……手を握りたくないということなのだろう……しかし、突然手を引っ込めるのも……せめて立ち上がってくれれば、引っ込められるんだけどな……どうするべきか)


 物凄く申し訳ない気持ちになる緋影は、完全に手を引っ込めるタイミングをつかめずにいた。そして、悩みに悩んだ結果、ついに手を引っ込めることにしたのだった。


「……ぁ」


 ちょっと、否、かなり残念そうな表情を浮かべる天子はガックシとうなだれた。


「えっと……足とか……怪我したのか?」


 今もなお地面にへたり込んでいる天子に声をかける緋影の表情は無表情だが、どこか気まずそうにも見える。腕に鎮座しているりんねちゃんは、『一生地面に座ってれば』と言わんばかりの無表情で天子を見ていた。


「……あッ!? だ、大丈夫です! す、すみません! すみません!!」


 慌てて立ち上がると、天子はペコペコとお辞儀を繰り返し、謝罪する。そして、可愛らしい仕草でスカートの汚れをチェックし、パンパンと汚れを払った。


「……そ、そう…ですか……それはよかった…です」


 緋影はなぜか、物凄く抑揚のない声でかしこまってしまうのだった。そんな緋影を、りんねちゃんは無表情のままギロリと睨む。どうやら、天子の可愛らしい仕草に照れているようで、そのことを察したりんねちゃんは『また新しい浮気相手が出てきた』と怒り、呪いのオーラを溢れさせていた。


 そんな緋影の無表情に見惚れる天子は、緋影の腕に鎮座し、呪いのオーラを発しているりんねちゃんの存在には全く気づいていない様子だった。


(……さ、先程はとても残念なことになってしまいました……夢ならば、お手を拝借するくらいは許されたかもしれませんのに……ど、どうしましょう……と、とりあえず、な、何かを言わないといけませんよね……せっかくですし、お、お気持ちを伝えてもよろしいのでしょうか?)


 モジモジと真っ赤になって黙って俯いている天子に気まずくなった緋影は、何か話題を出した方が良いのか、それともこのまま別れを告げた方が良いのか悩んでいた。


「そ、その……すすすすすす、好き……です……お慕い申し上げております」


 そして、突然顔をあげた天子は顔を真赤にしてそう緋影に告げる。


(夢とはいえ、勢い余ってなんてことを……でも、いいですよね……夢なのですから……夢でも推しに気持ちを伝えられる喜び……大変良いものですね)


 また、両手を組んで目を閉じ、天に祈りを捧げ始めた天子は、非常に満足した様子であった。


「……え!?」


 天子の突然の告白に、無表情のまま動揺する緋影と、あまりの衝撃的な出来事に固まるりんねちゃん。(ドールだから当然なのだが)


(こ、これは告白か!? 告白なのか!? も、もしかして、天ノ川さんは……オレのことが好き……なのか………………い、いや、まてまて早まるな…………よく聞く話だ……勘違いでひどい目にあった男の話というのは……落ち着け、落ち着くんだ……オレ……焦るな……冷静になれ……)


 いつも通りの不気味な無表情の緋影だが、内心はかなりテンパっていた。まさか自分が誰かに告白されるとは考えたこともなかった上に、相手は学校でも有名な聖女で天使と称えられる天ノアマノガワ 天子テンコなのだ。そのため、彼の動揺っぷりは尋常ではなかった。


 これには、呪いの人形ドールであるりんねちゃんが怒りの呪いのオーラを放ち、不満を示している。いや、不満どころではない、これはもはや殺気である。浮気は絶対に許さない――それが呪いの人形ドールりんねちゃんの、ヤンデレドールとしての決意表明だった。


「……えっと? その……す、好きってのは……?」


 とりあえず考えに考えた結果、本人に聞くという間抜けな行動に出た緋影。それに対して天子は、ぽかーんとした表情を浮かべるのであった。


「……え?」


 首を傾げる天子からは、すっとんきょんな声が漏れる。


「……ん?」


 同様に首を傾げる緋影に、天子は戸惑い始めてオロオロし出す。無表情ながらも、どこか気まずそうに返答を待つ緋影であった。


「……えっと……ま、まさか……そ、そんなことはありえませんよね」

「………………え? なに?」


 いきなりぺたぺたぺたぺたと緋影を触り始める天子に、呆気にとられるりんねちゃんなのである。緋影もこの突然の行動には、されるがままながら内心ではかなり動揺していた――もっとも、驚きの表情を浮かべることはなく、相も変わらず無表情のままであった。


「もしかして……ゆ、夢じゃないのでしょうか?」


 二、三歩後ずさり、顔面蒼白となって血の気が一気に引いていく天子なのである。


(わ、わたくしとしたことが、やってしまいました!! ま、まさか、ほ、ほほほほ、本物の緋影様だなんて!? ど、どうしましょう!? い、勢い余って恐れ多いことを口走ってしまいました!! な、なんとか誤魔化さなければなりません!!)


 心の中で絶叫する天子は、人生最大のピンチを迎えていた。ピンチに陥ることなど、天子にとっては生まれて初めての出来事であっ

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