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りんねちゃんの制服デビュー

 締めたカーテン越しに朝日が差し込む時間帯。徹夜で作り終えた制服を天に掲げた緋影の表情は相も変わらず無表情であった。だが、どこかやり遂げた男の表情にも見えた。


 ちなみに呪いの人形ドールのりんねちゃんはというと、作業の邪魔にならないようにと帰宅後、すぐに部屋の端に置かれるのであった。


 風呂に入り、いつものコンビニで買ってきた夕ご飯を食べるとりんねちゃんの制服を作り始めた緋影。そんな旦那(旦那ではない)の緋影の邪魔にならないようにと、いつの間にかテレビを見たり、呪いの念を送って緋影を応援したり、緋影のスマホでゲームをして遊んだりしていたりんねちゃんなのである。


 そして、現在はスマホで動画鑑賞しているのだった。そんな、りんねちゃんは、自分の制服が完成したことに気がついたようで、いつの間にか緋影の眼の前に移動。完成した制服を『おお~』と無表情で眺めていた。


「じゃあ、早速……りんねちゃん……着てみようか」


 緋影がそう独り言を呟く。


 いつの間にか、部屋の隅から自分の眼の前に移動して、完成した制服を眺めていたりんねちゃんに制服を突きつける緋影に対して、なにやら嫌な予感がしたりんねちゃんなのである。


 表情は人形ドールなので変わらないはずなのだが、どこか強張っているように見えた。突きつけられていた制服が一旦りんねちゃんの真横に置かれる。そして、緋影の両手がりんねちゃんに迫る。


 どんどん迫ってくる緋影の手に、予感的中となるりんねちゃんは『着替えは自分でできるから』と必死に視線で訴える。だが、しかし、超絶鈍感な男の緋影に通じるわけもなくゴスロリ服を素早くひん剥かれる哀れな呪いの人形ドールは悲鳴をあげた。(無音)


 激しい呪いによる抵抗虚しく、一瞬んですっぽんぽんにされた呪いの人形ドールりんねちゃん。人形ドールなので変わらずの無表情なのだが、どこかシクシクと泣いているように見えるのだった。


 そして、シクシクと無抵抗になったりんねちゃんに、素早く制服を着せていく緋影の手腕は神業であった。


 着せ替え人形ドール状態の呪いの人形ドールりんねちゃんは、もうお嫁にいけないとなっていた。だが、よくよく考えてみると、自分はすでに緋影の嫁であることをお思い出した。


 だが、それはそれ、これはこれな呪いの人形ドールりんねちゃんなのである。


 いきなり、服を脱がされ、すっぽんぽんにされるのは呪いの人形ドール的にはNGなのである。理由?それはもちろん、りんねちゃんが恥ずかしいからというだけである。呪いの人形ドールも人並み?人形並み?には羞恥心というものがあるのだ。


 怪異であり、幽世の住人である呪いの人形ドールだろうと、恥ずかしいものは恥ずかしいりんねちゃんなのである。そんな、りんねちゃんの人形心に全く気がつく様子のない緋影は、着替えさせながら、完全にサイズがピッタリなことを確認し自分の仕事に納得の様子であった。


「我ながら完璧だ……最高に似合っている……どこからどう見てもうちの学校の生徒にしか見えない」


 着替えが終わり、放心状態の制服姿のりんねちゃんをテーブルの上に座らせると緋影は、徹夜明けで少しテンションがおかしくなっているのか、自画自賛するようにそう呟いた。


 そして、ハッとなにかに気がついたのか、緋影は周囲を見回す。どうやらスマホを探していたらしく、テーブルの上に置いていたはずのスマホが、いつの間にか床へと移動していたのだが、気にする様子もなく見つけるとすぐに拾い上げる。


 そして、いまだに放心状態でテーブルに鎮座しているりんねちゃんを、緋影はスマホのカメラで撮影し始めた。何枚も撮影し、納得のいく写真が撮れたところで、例のSNSに投稿しようとしたその瞬間、緋影は何かに気がついた。


「あれ……フォロー?されている?」


 コメントもついており、『とても可愛い人形ドールですね』と書かれていた。それを見て、緋影の深夜テンションは天元突破上機嫌モードに突入した。この調子なら義妹のフォロワー数を抜くのも時間の問題だろうと、たった一人にフォローされただけで、大物気分になる緋影なのであった。


 どうやら慣れない徹夜のせいで、緋影のテンションはおかしくなっていた。しかし、時刻を考えればもう寝る時間などないと悟り、彼はスマホをテーブルの上に置く。そして、そのまま目を覚ますためにシャワーを浴びに向かうのだった。


 残された呪いの人形ドールのりんねちゃんは緋影の先ほどの言葉で、羞恥心で悶え、現世から旅立っていた意識が舞い戻ってきていた。テーブルの上に置かれたスマホを見に行く。SNSを確認したりんねちゃんは本当にフォローされていることを確認した。


 羞恥心で悶えていたりんねちゃんも、どうやら気分を良くしたようで、すぐにあの、乳牛女など追い抜いてやると息巻く呪いの人形ドールなのである。


 玄関に置かれている姿見の前にいつの間にか移動した呪いの人形ドールは自分の制服姿を改めて確認する。


 自画自賛、あまりの完璧な呪いの人形ドールな自分に酔いしれるナルシストドールりんねちゃんなのである。そして、いつも通り、緋影がシャワーから出てくると、姿見の前にいるりんねちゃんを見つけ、なんの疑問も抱くことなく抱き上げてテーブルに置くまでが恒例の流れなのであった。






 緋影と一緒に制服姿で登校したりんねちゃんは、本日の朝礼にて一年一組の転校生として教卓の上に鎮座していた。本日の朝礼を担当しているのは篠山先生――――――ではなく、新米教師の新田先生であった。


 篠山先生は、どうやら本日体調不良のためお休みのようだ。


 恐怖で青ざめ震える新米教師の新田先生と俯いて静まり返る一年一組の生徒達。本来、転校生が来れば教室内は多少なりとも騒がしくなるはずだが、転校生は呪いの人形ドールである。


 一年一組の教室内は、完全にお通夜状態であった。


 そして、黒板にはデカデカと、いつの間にか人形 りんねと書かれているのであった。


 いつの間にか起きた怪奇現象に一同恐怖した。だが、教室内で、たった一人、緋影だけが普段通りであった。徹夜明けとは思えないほど、いつも通りの無表情でジーッと教卓の上に鎮座するりんねちゃん眺めていた。


(しかし、人形ドールも生徒として扱わないといけないとは……多様性というのも大変なんだな)


 などと、新田先生が入ってくるなり、いつの間にか教卓の上に移動したりんねちゃんを眺めながらそう思う緋影なのであった。


 どうやら、呪いの人形ドールは、転校生というものは先生から紹介されるイベントがあるということを知っていたようである。そのため、紹介されるためにわざわざ、教卓の上に移動したお利口さんのりんねちゃんなのである。


 そんな、りんねちゃんの真面目な行動も、一般人にとっては恐怖の怪奇現象でしかないのだ。


「……ほ、本日から一緒にお勉強する……人形ドールの……り、りんねさん……です。み、みなさん……な、仲良くしてあげてくださいね」


 新米教師の新田先生も、呪いの人形ドールが転入することは、本日の朝礼兼職員会議でも通達されていた。


 そのため、新米とはいえ教職としての仕事はこなさなければならない。ぴえんとなりながら、必死に言葉を発する新米の新田先生に生徒達からの同情の視線が向けられていた。


 そんな、今にも恐怖で逃げ出しそうな新米教師の新田先生に、いつの間にか呪いの人形ドールの不満の瞳が向けられていた。ぴえんを超えてぱおんになりそうになる新田先生なのである。


 呪いの人形ドールは無表情でこう訴えている。『人形ドールではなく、ヒトカタ、ヒトカタ リンネ』と。どうやら、りんねちゃんはヒトカタ りんねと書いたつもりだったようである。人形と書いてドールとは読んではいけないとりんねちゃんの無表情が雄弁に物語っていた。


 だが、呪いの人形ドールの変わらない無表情から、一般人が言っていることを理解できるはずもなく、ぴえんと恐怖で怯えることしかできない哀れな新米教師の新田先生なのであった。


「……先生」

「……な、なんですか? ひ、ヒトカタさん」


 全く言いたいことが担任に通じなく困っていたりんねちゃんは、緋影に助け舟を出してもらえたと喜びの無表情を緋影に向けた。


 もちろん、ぴえんと呪いの人形ドールの言いたいことが理解できずにいた新田先生も藁をもすがる思いで緋影に救いの眼差しを向ける。


「……りんねちゃんです。ちゃんまでがセットです……細かいかもしれないですが……そこはちょっと譲れないとこなんです」


 真顔の抑揚のない声でそう言い放った緋影に対して、コテッと横に倒れるりんねちゃん。どうやら、違うとズッコケたようである。


 コミカルでユーモアな呪いの人形ドールりんねちゃんに対して、笑いが起きる――――――訳もない。


 眼の前で怪奇現象が起きていると恐怖する生徒達なのであった。


「………………り、りんねちゃん……さんと仲良くしてあげてくださいね」


 もはや、どうにでもなれ状態の新田先生は、早くこの地獄の時間を終わらせようと声を絞り出した。


 だが、どうやら納得がいかない様子の呪いの人形ドールは、ずっこけたままに、いつの間にか違うと無表情で新田先生を見ていた。


「わ、私にどうしろって言うのーーーー!!」


 ついに新米教師の新田先生はぴえを超えぱおんと叫んでしまうのであった。そんな終始可愛そうな新米教師の新田先生に生徒達からの同情の視線が向けられる。


「………………とりあえず、席は……ヒトカタさんの机の上でいいですね?」


 新米教師の新田先生、勇気を出して教師としての仕事をやりきった。


 納得がいかないりんねちゃんだが、教師にそう言われたら、転校生は席に移動しないといけないことを理解していた。


 しょうがないと、突如として開かれた窓から突風が吹き込み、全員が顔を背けた瞬間、いつの間にか教卓から緋影の机の上に移動していたりんねちゃんなのである。


 きちんと席に移動して座ることができる呪いの人形ドールりんねちゃんは完璧な転校生なのであった。


 恐怖で慄く生徒達だが、緋影はというと、なんの疑問も感じていない様子であった。『新田先生いつの間に机の上にりんねちゃんを移動させたのだろう』くらいにしか疑問を抱いていない様子である。


「……篠山先生!! 早く帰ってきてくださいーーーーーーーー!!!!!」


 一年一組の教室内に、新米教師の新田先生の可愛らしい叫び声が響き渡るのであった。






「あんな呪いの人形ドールを転校生として認めるなど……本当に先生方は何を考えているのやら……」


 お昼休みの生徒会室にて、めちゃくちゃ苛立った様子で仕事に取り組む生徒会副会長は、不満爆発と言葉を発した。


 怒りの筋肉で、制服をパッツパツにさせて怒りを示している生徒会副会長の筋肉菅沼に、眺めていた資料を机の上に置き、笑顔を向ける優々子は内心では鬱陶しいと感じているのであった。


 呪いの人形ドールの転校の件で、昼休み、再度、校長先生不在のため、教頭に掛け合うも無駄な時間を過ごした優々子なのである。


「この件は後ほど、教育委員会の皆様に訴えるとしましょう」


 もはや、職員に対して訴えても無駄だと悟った優々子は、怒る菅沼にひとまずそう提案し落ち着かせる。


「……それに、色々と手は回してありますし……」

「……会長? 今なにかおっしゃいましたか?」

「いえ、何も……」


 どうやら、優々子の小声で呟いた悪そうな独り言は、恋に盲目の生徒会副会長には聞こえなかったようである。


「しかも、生徒思いの優しい会長が……あろうことか、あんな不気味でヤバそうな呪いの人形ドールを持ち込んだというデマまで流れ……許せん!!」

「………………その噂は、甘んじて受け入れましょう。生徒たちが混乱するくらいなら……私が悪者になった方がまだマシですから……」


 聖女よろしくと天使の笑顔でそう言う優々子に、胸がきゅんきゅん、筋肉がムキムキしてしまう生徒会副会長の菅沼なのである。この人は自分が守ってやらねばと男心を刺激されるも、すべては優々子の手のひらの上であった。


 そもそも、二年生を中心に広まっている利賀生徒会長・黒幕説なのだが、優々子にとっては、実に好都合なのであった。


 優々子が人生で何より恐れることは自身の求心力の低下である。優秀な生徒会長である利賀優々子が、呪いの人形ドールに恐れ、敗北したなどといった事実は認められないのである。


 利賀優々子という人間は、他者を自らの支配下に置くことによってのみ、利賀優々子でいられる。まるで糸を操る傀儡師のように、巧みに言葉を紡ぎ、状況を整え、気づけば周囲は彼女の思惑通りに動かされている。


 他人を支配すること。それは優々子にとっては、自然なことであり、正義であり、そして歪んだ優しさでもあるのだ。


(どうにかして、噂が嘘であるとバレる前に……あの呪いの人形ドールを排除しなければ……)


 呪いの人形ドールが学校を支配するか、優々子の支配が続くかの攻防が、今、水面下で始まろうとしていた。しかし、常に勝者でありたい優々子にとって、目の上のたんこぶはひとつではないのであった。


 「はぁ~、本当は……あの呪いの人形ドールばかりに構っている場合ではないのですけどね」


 机の上には先ほど優々子が眺めていた一枚の資料が置かれていた。優々子は、その資料を再び一瞥し、そう呟くと昼休みの終わりも迫っていたため、生徒会室を後にする。もちろん、その後ろに忠犬よろしくとついていく筋肉菅沼なのである。


 優々子が一瞥した資料、そこには、とある生徒の名前が記されていた。


 要注意人物・天ノ川 天子――と。

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