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呪いの人形(ドール)りんねちゃんお義父さんお義母さんに挨拶する。

 本日は仕事が早く片付いたため、孔明は予定より早く退社した。ちょうど妻の理子が買い物に出ていると連絡を受けたため、そのまま車で迎えに行き、一緒に食材を買いだめして帰宅したところであった。


 黄昏時、孔明と理子が玄関を開け家の中に入ると、見覚えのある靴が一足目に入る。


「あら? 緋影来ているのかしら? 何も連絡来てないけど……」


 妻の理子の言葉に、孔明の脳裏に嫌な予感がよぎった。


(緋影くんが……今、この家の中に……そして……優々子の靴も……ある!? ということは……ま、まさかッッ!?)


 両手に持っていた大量の食材の入ったマイバックを放り出し、慌てて靴を脱ぎ捨て階段を駆け上がっていく孔明。そんな、旦那の突然の奇行に、理子は驚きながら「あ、卵大丈夫かしら……」となるのであった。


 そして、孔明は優々子の部屋の前にたどり着くと勢いよく扉を開け部屋の中に突入する。


「緋影くん!!! 無事か!?」


 実の娘の名前ではなく、義理の息子の名をダンディな声で叫ぶ孔明。そこに彼の心情の全てが語られていた。


 あたりを見回すも、部屋には誰もいない。しまった!! ならばリビングしかない、と孔明は回り右、再び駆け出し、勢いよく階段を駆け下りる。


 玄関でマイバッグを開け卵の安否を確認していた理子の横を勢いよく通り過ぎていった孔明は、リビングの扉を勢いよく開け中に突入する。


「ひ、緋影くん!? い、家には私が居る時以外は来てはいけないと言っただろ!? だ、大丈夫だったかい!?」


 すぐにソファに座ってなにやら作業をしている緋影を発見し、慌てて詰め寄りダンディにそう言う孔明なのである。無表情で驚く緋影の両肩を鷲掴みにして、ガクガク揺らして慌てふためく孔明の瞳は血走っていた。


「優々子になにかされなかったか!? 名誉は!? 尊厳は!? 緋影くん!!! 大丈夫なのかッッ!!!!!」


 そう早口で義理の父の孔明に捲し立てられ緋影はされるがままになるも、動揺しまくっている孔明の血走った瞳がある場所に向けられ固定されたことで、揺さぶりが止む。緋影の視線もゆっくりと孔明が見ている方に向く。


 そして、数秒後、しまったと内心で焦る緋影なのである。

 

「…………あ、あれは……優々子の……せい…ふく……クッ!! 私がッ……私としたことがッッ……」


 リビングテーブルの上に実の娘の優々子の制服が散乱していることに気がついた孔明は、人生何度目かの汚点といった感じで目尻を抑え後悔の念に苛まれている。


(しまった……これは完全にアウトなのでは!? 絶対に孔明さんに誤解されてしまった……なんとか誤解を解かなければ……人生が……終わる)


 そんな中、相も変らず無表情な緋影、だが、内心では物凄く動揺していた。


「あ、いや、これは、りんねちゃんの衣装のためでやましい気持ちなど一切ございません」


 珍しくものすごい早口で言い訳をペラペラと述べ始める緋影なのだが、孔明が全てを悟った仏のような表情を浮かべ、そんな無表情で焦る緋影を見つめた。

 

「いや、緋影君……大丈夫だ……私は全て理解している。悪いのは私の娘だ……本当に優々子が……優々子がすまない」

 

 どうやら完全になにか誤解した孔明は頭を抱え、今すぐにでも地に伏せ土下座しそうな勢いで義理の息子の緋影に謝罪の言葉を述べる。そして、すぐ父親としての顔を取り戻しダンディに実の娘との戦いを決意し声を上げる。


「優々子!! 優々子はどこにいる?」


 実の父と緋影のやり取りもなんのその、今だにリビングで姉妹喧嘩(一歩的に優々子が攻める)を繰り広げていた利賀姉妹が喧嘩を止めて、声をかけてきた実の父の方を見る。


「なんですか? 先程からここにいましたけど?」

「あッ! お父さんお帰りなさい!!」


 優々子の方はにっこり笑顔を浮かべているも寧々子への追求を止められ内心で不機嫌そうであった。寧々子の方はというと、あからさまに安堵した様子で助かったと実の父にすり寄るのであった。


「優々子!! お前というやつは……今日という今日は……きっちりと親としての責任を果たさねばならん」


 いきなり、怒り心頭と詰め寄ってくる実の父の孔明に対して、一瞬、鋭い視線を向ける優々子。しかし、刹那でにっこり天使の作り笑顔を浮かべていた。

 

「……なんですか? クソおや……いえ、お父様……ついにボケてしまいましたか?」


 笑顔で辛辣極まりない発言を実の父に口走る優々子の圧に、この娘は……となる孔明なのである。


「実の親に向かってなんて言い草だ………………って、優々子……お前はなんでそんな格好をしているんだ?」


 今更ながらに真っ黒なゴスロリ服に身を包み、ロリ度増々なツインテールの実の娘に驚愕する孔明なのであった。そんな実の父に対して優々子はふふんと得意げにぺったんな胸を張る。


「緋影がどうしても着て欲しいというので、仕方なく着ているんです♪」


 ドヤ顔でそう言い放つ実の娘の優々子に対して、頭を抱える孔明だった。そして、今度は地雷系ファッションの寧々子に気がついてしまう。


「…………って、寧々子まで……い、今から夕ご飯なんだぞ? 二人共なんでそんな格好をしているんだ?」


 おめかし地雷系ファッションの寧々子に対しても頭を抱えて呆れ果てる孔明なのである。


 この姉妹が、なぜ、こんな格好をしているのか考える孔明は、長年の経験からある答えにたどり着く。ま、まさか……この娘たちは……緋影くんを……となる孔明は、全てを察した。そして、実の父として怒りが込み上げてきた孔明は、ダンディに、親としての威厳を示す。


「優々子、寧々子!! そこに座りなさい!! お前たちには言うことがたんまりとある!!」

「怒られるようなことは、まだしてないんですが……クソおや……いえ、お父様」

「……なんであたしまで」

「いいから、座りなさい!!!」


 有無を言わさぬ迫力で実の娘をダイニングテーブルの席に座らせ説教モードの孔明に対して不満そうな表情を浮かべる利賀姉妹なのであった。


 その様子を呆然と見ていた緋影は、とりあえず、話題が自分から逸れ、助かったと心の底から安堵していた。そんな中、緋影は玄関から実の母の理子から呼ばれたため、リビングを出て玄関に向かうと、そこには買いだめされた大量の食材が放置されていた。


 呼ばれた理由をすぐに察した緋影は荷物をすぐに抱えリビングを経由してキッチンに荷物を運ぶ。その最中、ダイニングテーブルでは父の孔明に対して、怒られるのは納得がいかないとばかりに優々子が主導権を取り戻し事情を説明していた。


 その様子を見た理子が、さすが私の息子ね。となぜか自慢げに緋影を褒めたのだが、緋影の方は褒められるようなことに心当たりがないと首を傾げ無表情の疑問顔を浮かべるのであった。






 一通り実の娘たちの言い訳もとい事情を聞き終えた孔明は、ひとまず安心した様子を見せる。妻である理子が入れてくれた高級そうな湯飲みに入った熱々のお茶を飲みながら、脳内で優々子の話を整理する。


 優々子から聞いた緋影が実家に来た理由や、優々子の制服が机の上にあった理由をもう一度思い出すも、なるほど、よくわからんとなった孔明なのである。


 しかし、そんな孔明にも、ひとつだけわかったことがある。リビングテーブルの上に鎮座して、こちらをジーッと見ている不気味な人形ドールは緋影のモノだったのかと理解した孔明なのである。


 どうやら、孔明の隣に座っている理子も先程から、不気味な人形ドールの視線が気になっている様子であった。


 そう、利賀姉妹の喧嘩を無視して緋影の作業が終わるまで再びアニメの視聴をしていた呪いの人形ドールりんねちゃんは、リビングに孔明が慌てて突入してきた時から、彼と理子のことを人形ドールらしくおとなしくジーッと観察していたのだ。


 幽世の住人である呪いの人形ドールは、現世の世情にも精通している。賢いりんねちゃんは全てを理解していた。これは所謂、親挨拶と言われるものであることに気がついたのだ。


 一通り話が終わるのを待っていたりんねちゃん、呪いの人形ドールは空気が読める。人の話を遮ってはいけないことをきちんと理解しているお利口な呪いの人形ドールは、ずっと機をうかがっていた。


 そして、今なら大丈夫だろうと行動にでた。


 利賀家一同の視線がりんねちゃんから逸れた刹那。いつの間にか、りんねちゃんはダイニングテーブルの上に移動していた。ちょこんと座り、孔明と理子をまっすぐ見つめている。


「おわ――――――――!! ひ、緋影くん!!! き、君の人形ドールがいつの間にか目の前にいるのだがッッ!!!」

「……ッ!!!!!!」


 めちゃくちゃビビる義理の父の孔明と、実の母の理子なのである。


 ちなみにりんねちゃんは緋影の両親に挨拶をしようと目の前に移動しただけなのであった。りんねちゃん的には最高の笑顔を浮かべたつもりの無表情でお義父さんお義母さんこんにちはと挨拶していた。


 対面に座る優々子と寧々子も、突如として眼の前に現れた呪いの人形ドールの背中を見て、恐怖で青ざめていた。今日一日で何回もいつの間にか動いていることは知っていても、まさか、瞬間移動までするとは思っていなかったようで、ガクガクと姉妹仲良く?抱き合って震えている。


 緋影が緋影なら、緋影の娘の人形ドールもまた、バグっているのである。距離の詰め方が。


 恐怖で青ざめる緋影の義理の父と実の母に、無表情な疑問顔のりんねちゃんは、わたしなにかやっちゃいましたかといった表情を浮かべていた。


「ああ、すみません……いつの間にかそんなところに置いてしまったみたいで……」


 孔明にそう言われ、緋影は作業を中断、ダイニングテーブルの上に鎮座するりんねちゃんを迎えに行くと、そう言い放った。その言葉に、利賀家一同の顔が引きつっていた。


(いやいやいや……緋影くんそれはない!! この人形ドール絶対にいつの間にか移動したぞッ!!)


 内心でダンディに力強くツッコむ孔明だが口にはださない。そんな中、気まずそうに理子が、ちらりとダイニングテーブルの上の呪いの人形ドールを見て、恐る恐る緋影に尋ねる。


「ひ、ひかげ~……こ、この……お、お人形さんはどうしたのかしら?」

「……おもちかえ……い、いや……お出迎えしたんだ」

(事案発生!!)

(事案発生!!)


 抑揚のない声で、そう言った緋影に驚愕する孔明と理子なのである。こんなヤバそうなモノをどこからか持ち帰ってきたというのは大問題であった。


「あ……母さんと孔明さんには紹介しておかないと……娘のりんねちゃんだ」


 何故か誇らしげに、無表情のドヤ顔でそう言い放つ緋影に対して、いつの間にか自分達に「孫ができてるーーーーーーッ!!!」と驚愕の表情を浮かべる緋影の義理の父の孔明と実の母の理子であった。


 そして、孔明と理子は二人同時に紹介されたダイニングテーブルの中央に鎮座するりんねちゃん(孫らしい)の方をちらりと見る。そこには、あからさまに不服そうな闇のオーラを出して、いつの間にかジーッと緋影の方を見ている呪いの人形ドールりんねちゃんに恐怖で悲鳴がでそうになる。


 だが、しかし、二人ともなんとか堪えるのである。


 あからさまに様子のおかしい不気味な人形ドールの機嫌を損ねるわけにはいかないと長い人生経験が二人をそうさせたのであった。


「ひ、緋影くん……こ、この人形ドールが……」

「……りんねちゃん」

「……リ、リンネチャン……さん……だが……ど、どこか怒っていないかい?」


 ダンディにヒソヒソと尋ねてきた孔明に対して、緋影は首を傾げて疑問顔の無表情を浮かべ、りんねちゃんの方を見た。無表情でジーッと緋影のことを睨んでいるりんねちゃんとバッチリ視線が合うと緋影は、なるほどとなり、義理の父の孔明の方に向き直り淡々とこう言い放った。


「……え? そうですか?」


 すってんころりん。さすがのりんねちゃんも、これには思わずずっこけた。突如として、リビングテーブルの上で自然と倒れた呪いの人形ドールに利賀家一同は驚かされビクッと身体を震わせた。


「りんちゃんはオレの娘ですけど……人形ドールなので、怒ったりはしないと思いますが……いつも通りにっこり笑顔を浮かべてますよ」


 ずっこけたまま、ゴゴゴゴゴゴゴゴッッッと怒りの呪いオーラを発して……怒って……いると緋影に妻アピールしている呪いの人形ドールに恐怖する利賀家一同なのである。


 ダイニングテーブルの上でずっこけたままのりんねちゃんに気がついた緋影は両手で抱きかかえた。


「ドールショップの店員さんが言うには人形ドールは娘らしいんだ……まぁ、だから、りんねちゃんはオレの娘ってことになるらしい」


 その緋影の発言には、かなり不満だが、緋影に抱っこされ孔明の方を向かされていたため、再び、緋影の両親に挨拶する呪いの人形ドールりんねちゃんなのである。りんねちゃんは、礼儀正しい呪いの人形ドールなのだ。


 そんな、無表情ドールフェイスのりんねちゃんを一瞥、ダンディな面持ちで孔明はこう思った。


人形ドールが娘!? いやいや……娘なわけが………………いや、待つんだ……そのッ! 無表情さッ! た……確かに親子に見えないことも…………否ッ!! 親子にしか見えんッッ!!!)


 なぜか、得心がいったようで孔明は腕を組みどうすればいいのか悩む。


 先程から実の娘の優々子から、親として責任を持って、そのヤバい呪いの人形ドールをどうにかしろという視線を向けられていた孔明は、完全にスルーすることにした。この呪いの人形ドール見れば見るほど、緋影の娘に見えてきた孔明なのである。


 実の父がダメならと、今度は寧々子が義理の母の理子に期待の眼差しを向けた。


 だが、義理の母の理子は静かに首を左右に振った。そう、緋影の実の母である理子は誰よりも理解しているからである。こうなった緋影には何を言っても無意味なのだと言うことを――。


 孔明はダンディに両肘を机に立て、両手を組み口元を隠す。無表情でじーっとこちらを見ているりんねちゃんの方をチラリと見る。これからこの人形ドールとどうつきあっていくべきか悩んでいた。


(先程から、物凄く、優々子のどうにかしろという視線を感じる……どうにかするなら……神社……いや、お寺の方がいいのか? なんとか緋影くんを神社かお寺に連れて行くべきなのだろうか……)


 悩む孔明の方をゴゴゴゴゴゴゴゴッッと呪いの波動を放って威圧している呪いの人形ドールに気がつく。どうやら、考えていることがバレたのだと察した孔明は冷や汗がダラダラ流れ出す。


(だだだだだだ、大丈夫なのだろうか!!! わ、私は気が狂ったりしないだろうか!? ま、まさか……狂気に飲まれ……お、恐ろしい行動に出たりしないだろうかッ!! む、昔そんなホラーを見たような……た、確か……狂気に飲まれ……か、家族を殺そうと……いかん!! いかん!!)


 ぶんぶんと頭を左右に振って嫌なイメージをかき消す孔明。自分の職業は作家ではない。大丈夫だと無理に自分を納得させる。


 もう一度、呪いの人形ドールの方を見る孔明。利賀家一同が家長である孔明の行動を見守っている。


(ど、どうにかしなければ……否、どうにかしないほうがいいかもしれんッッ!!)


 りんねちゃんから溢れ出す呪いのオーラに速攻で孔明は屈した。


 そうだ。これはもう、運命に身を任せるしかないのだと、ダンディに腕を組み、そっと目を閉じ答えを出した孔明なのである。そして目をカッと見開く孔明は立ち上がり、りんねちゃんの方に向き直る。


「…………リンネチャン……さん……何卒、今後ともよろしくお願いいたします」


 ダンディに大事なビジネス相手に対してするような挨拶を、緋影に抱きかかえられている人形ドールに対して行う家長の孔明に娘たちの失望の眼差しが向けられていた。


 呪いの人形ドールりんねちゃんもよろしくお願いしますといつの間にか頭を下げていた。とても礼儀正しい呪いの人形ドールなのであった。


「い、いや……孔明さん……さすがに、そこまで畏まらなくても……大丈夫……ですよ」


 義理の父のあまりにダンディなビジネスマンの対応に、無表情でドン引きしている緋影なのであった。


 冷静さを取り戻した孔明は咳払いをひとつし、冷めた娘たちの視線から逃れるように席に座りもう一度、りんねちゃんのことを一瞥した。


 そして、よく見るとりんねちゃんがゴスロリ服を着ていることに今更気がついた孔明は、ハッと全てを察したダンディ顔になった。すぐ実の娘たちの方をバッと確認。なんと、ゴスロリ服(寧々子は地雷系)を着ていたのであった。


 ダンディなイケメンフェイスを青ざめさせ、ダンディに恐怖顔を浮かべる孔明は、唾を飲み込む。そんな、何かを察したであろう旦那の孔明の気持ちをすぐに察することができた良妻である理子は、真剣な面持ちで孔明を見つめた。


「…………孔明さん」

「……なんだい? 理子さん?」

「ここは……」


 深刻そうな表情を浮かべる妻の理子に、再びゴクリと孔明は唾を飲み込んだ。


「……私もゴスロリ服を着るべじゃないかしら?」


 そう妻の理子に真剣そうな表情で言われ、呆気にとられる孔明なのである。


 これは……家族がゴスロリ衣装を着る呪いにかかってしまったのでは!?となった孔明は驚愕の表情を浮かべた。理子も、この場に合わせるべきだと判断したのか、そうでないのか、すぐに立ち上がるとリビングを出ていった。


 そして、数分後に戻ってきた妻である理子が、白のゴスロリ服(白ロリ)を着て現れた。上機嫌な様子の理子は意外とノリノリなようである。


 いきなり、ゴスロリ服(白ロリ)を着て現れた妻の理子は、高校生の息子を持つ母親とは思えないほどに、見事にゴスロリ服(白ロリ)を着こなしていた。


 思わず見惚れる孔明はゴクリと唾を飲み込んだ。


「……久しぶりに着てみたけど……似合っているかしら? 学生時代はよく着てたのよ~」

「……り、理子さん!?」


 懐かしそうに昔を思いだしながら、そう言う理子に驚きの声を上げる孔明。そして、頭を抱える緋影と、呆気にとられる利賀姉妹なのであった。


 とりあえず、他人のふりをしておこうとなった緋影はりんねちゃんを連れ、リビングテーブルのある方に向かっていった。そして、りんねちゃんをリビングテーブルに座らせ、ソファに座り作業を再開する緋影なのであった。


(ひ、緋影くん……さすがにそれは卑怯なんじゃないか!?)

「どう? 孔明さん? まだまだ、私もイケてると思わない?」


 上機嫌でそう言って軽やかに回って見せる妻の理子にどう言えばいいか悩みに悩みまくる孔明は、両肘を机に立て、両手を組み目尻に押し当てる。


 似合っているか似合っていないかで言えば、似合っている……似合っているが、さすがにその服装は年齢的にどうなのだろうとなる孔明なのである。我々ももうアラフォー。さすがにそれはとチラリと妻の方を見る孔明は内心でこう思った。


(似合ってるーーーーッッッ!! めっちゃ、似合ってるーーーーッッッ!!! 私の妻は世界一かッッッ!?)


 孔明は混乱した。そんな、実の父に娘たちの軽蔑の視線が向けられていた。本日、利賀家家長である孔明の評価は最低値を更新続けていた。いかん、いかん、これでは父親としての威厳がない。


 意を決した孔明は、咳払いをし、慎重に言葉を選ぶ。


「り、理子さん……さ、さすがに……」

「…………え? 似合ってないかしら?」


 不安げに理子がそう言うと、孔明は天を仰ぐと拳を握りしめる。


「物凄く似合っている……君が一番だ」


 父親としての威厳? そんなものは要らん。大事なのは、妻の笑顔だ。となった孔明は理子の両手を握りプロポーズのようにそう言い放った。


「あら、嬉しい」


 頬を染め喜ぶ理子に、すべてやり遂げたダンディな男の顔を見せる孔明は自分の失言に気がついていなかった。そう、君が一番と言う孔明の発言。さすがにこれには聞き捨てならないとなった娘たちなのである。


「くそおや……いえ、お父様……さすがに一番というのは聞き捨てなりません」


 優々子の言葉に内心で激しく同意する寧々子なのである。そこで、すぐにしまったと自分の過ちに気がついた孔明なのである。


「ほら、私にとっては妻が一番なのだよ……こういうのは……優々子も寧々子も似合っていると私は思うがね」


 すぐに娘たちにフォローを入れる孔明にはダンディな威厳はなかった。そんな取ってつけたようなフォローに年頃の娘たちが納得するはずもなく。


「いえ、私が一番似合っています!!」

「……ど、どうだろう……客観的に見るとあたしかもしれないよ……ふぉ、フォロワーのいいね……一万超えてるし……」

「寧々子……そのいいねは……あなたの……その……無駄な脂肪の塊に向けてのいいねだと思いますけど?」

「そ、そんなことないよ……評価は正当なモノだよ……なら、ねえさんもネットに写真あげてみたらどうかな……いいね一万超えたら……ね、ねえさんの勝ちでも……いいから……」

「言ってくれますね……寧々子……いいでしょう……勝負には乗ってあげます……ただ、勝敗を決めるのはネットの有象無象どもではなく…………緋影に決めてもらいましょう!!」

「……そ、その勝負乗ったよ!!」


 姉妹喧嘩再び、雌雄を決する時がきたとばかりに、優々子と寧々子はバチバチと視線で火花を散らし合っていた。そんな光景から逃れるように孔明は静かに目を伏せる。


(緋影くん……すまない……これは、すべてゴスロリ服が着たくなる呪いのせいだ……きっとそうに違い……ないッ……たぶん)


 孔明は自分の役目は終えたとばかりに、ダイニングテーブルの席に座るとすっかり冷めたお茶をダンディに啜った。


「緋影……この中で、誰が一番ゴスロリ服が似合っていますか!? 決めてください!!!」


 そして、ついに矛先が緋影に向いた。


「兄さん!? はっきり言って!! あたしだよね!?」

「私ですよね!! 緋影!!」

「あら、母さんかもしれないわよ」


 まさかの理子も参戦。飲んでいたお茶を吹き出す孔明なのである。さすがに義理の息子の緋影に同情し止めに入ろうかとする孔明だったが、バチバチな利賀家女性陣たちを見て、女の戦いに男が口を出すものではないと一人納得し逃げた孔明なのであった。


(な、なぜ、そんな話に!?)


 型紙を取り終えた緋影は、そろそろ帰ろうかと思っていたとこなのであった。


「さぁ、緋影、早く決めてください!! 私ですよね!!」

「……兄さん? どうなの? あたしだよね!?」

「あらあら、緋影……どうなのかしら?」


 利賀家の女性陣が一斉に詰め寄られる緋影には逃げ場がない。追い詰められた――そう思われた時、いつの間にか隣に鎮座し、無表情のジト目でこちらを見ていたりんねちゃんと目が合った。


 その瞬間、緋影は「これしかない」と妙案を思いつく。


「そ、そうだな……やっぱり……この中なら、りんねちゃんが一番だな。やっぱり、俺の娘が世界で一番可愛い」


 そう言って、りんねちゃんを抱きかかえ天に掲げる緋影なのである。


 娘と言うのは納得いかないが、一番なのは気分が良いようで、ドヤ顔で勝ち誇った無表情を利賀家の女性陣にいつの間にか向けていたりんねちゃんなのである。


 もちろん、これには納得のいかない様子の利賀姉妹なのである。不満そうなのが表情から見て取れた。ちなみに理子は息子を揶揄っていただけなのであらあらと頬に手をあて、意味深に微笑んでいた。


 今にも怒りが爆発しそうな義姉と義妹に対して、さすがの緋影でもこれはヤバいと察したようだ。


 慌てて荷物をまとめる緋影は、今も勝ち誇った勝者の無表情を浮かべているりんねちゃんを右前腕に鎮座させると急いで帰宅しようと逃げるようにリビングから出ていく。その時、ご飯、食べていけばと実の母に声をかけられるも、すぐに断って逃げるように実家を後にする緋影なのであった。


 すっかり、日が暮れた帰り道、緋影に一番と言われたことがよほど嬉しかったのか終始、緋影の右前腕に鎮座し上機嫌だったりんねちゃんなのであった。

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