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利賀寧々子は疑問に思う。3

「姉さん!! って……なに? その格好?」


 二階にある姉の部屋の扉を勢いよく開け中に入る寧々子の視界に入ってきたのは、真っ黒なゴスロリ衣装を身に纏い姿見の前で身だしなみをチェックしていた実の姉の優々子だった。


「……部屋に入るならノックくらいしてください」


 現れた寧々子に驚きもしない優々子は、軽くため息をつきつつ嗜める。それから、ゴスロリスカートの裾をつまみ、ひらりと軽やかにひるがえしてみせた。


「これですか? 緋影が私にプレゼントしてくれたんですよ? どうしても、私に着てほしいそうで……仕方なく着てあげたんです」

(これは、絶対に仕方なくじゃないなぁ)


 さも仕方なくといった態度で語る優々子に、ジド〜っと湿度の高い視線を向ける寧々子だったが、すぐにハッとなり本題に入る。


「そんなことより姉さんでしょ? あの、呪いの館の噂広めたの!!」

「……そうですね……私が噂を広めました」


 寧々子の問いに、あっけらかんと答える優々子。その堂々とした態度に、寧々子は大きなため息をつき、頭を抱えた。緋影から川滝かわちゃんの名前が出た瞬間。これは姉が関わっているなと確信した寧々子なのである。


「おかしいとは思ったんだよね……急に、ホラー嫌いの姉さんが、郊外の呪いの館の話なんて聞いてくるから」


 寧々子の脳裏に、その時の記憶がよみがえる。


 普段はホラーが大の苦手で、怖い話を聞いただけでも目を泳がせ挙動不審になる姉の優々子。そんな姉が突然オカルト界隈で少しだけ話題となっていた郊外の呪いの館について尋ねてきた時は心底驚いたものの、オカルト好きな自分としては話したい気分が勝り、つい語ってしまったのだ。


「……って、じゃあ、姉さんのせいじゃない? 兄さんが呪いの人形ドールなんて持って帰ってきたの!!」

「……そうですね……まさか、こんなことになるとは思っていませんでした……ですが、何も問題ありません……次の手は打ちましたからね」

「それって……また、変なのことじゃないよね? あたし、知らないからね……また、面倒なことになっても」


 悪びれもせずにドヤ顔でそう言い放つ優々子の自信満々な様子に呆れ果てる寧々子の疑問は深まる。


(でも、姉さんにしては……妙に粗が目立つ計画だなー。いつもの姉さんなら、もっと細かく練り上げた作戦にするはずなんだけど……なんだろう? 姉さん……やっぱりどこか焦ってるのかな?)


 緋影が高校に入学して一人暮らしを始めたとはいえ、いつも冷静沈着な姉の優々子が、最近どこか焦っているように感じていた寧々子。その違和感は、日に日に大きくなっていた。凡人にはわからない何かがあるのだろうかと考えた寧々子だったが、天才肌の姉の考えを察するのは無理だと、早々に諦めた。


「そういえばさ……姉さんはどこで郊外の呪いの館の話を知ったの?」


 その問いに、優々子は唇に人差し指を当て、考え込む。なぜかその記憶が曖昧だ。普段は記憶力に絶対の自信を持つ優々子にとって、こうした経験は稀だった。神妙そうな顔で黙る優々子に少し違和感を覚えながらも寧々子は会話を続ける。


「……あの郊外の呪いの館の話って本当につい最近オカルト界隈で話題になっただけのマイナーなネタだったんだよ……その時は姉さんが知ってることに……あまり疑問に思わなかったんだけど……」


 言葉を濁した寧々子の意図を、優々子はすぐに察した。つまり、こういうことだ。オカルト嫌いの姉が、そんな噂話を知っているのは変だと言いたいのだろう。


「最初はマイナーな噂だったのに、姉さんに話したあと……数日後にはクラスメイトみんな知ってたし、ちょっと噂が広まるの早いなって思ったんだけど……まさか、姉さんが噂を広めてたなんて……」


 呆れ果てる寧々子は、更に話を続ける。


「それにしても……そもそも、あの兄さんだよ? 姉さんならたしかにあの川滝先輩を誘導するのは簡単だっただろうけど……兄さんが心霊スポットなんかに行かされて……本気で怖がると思ったの?」


 今更にして優々子は確かにおかしいことに気がつく。誰から呪いの館の話を聞いたかも思い出せない上に、あの緋影が確かに心霊スポットに行って怖がるはずがないと思い出す。


「……学校内で郊外の呪いの館の噂を聞いて、その時は完璧で究極の作戦を思いついた気がしたのですが……確かに寧々子の言うとおりですね」


 人形ヒトカタ 緋影ヒカゲという人物が心霊スポット如きで怖がるはずがないことは優々子自身が一番理解しているはずなのである。そう、優々子にとって生涯忘れられない――――――あんな事件があったのだから。なんだか、怖くなってきた優々子は寒気を感じ黙るも、妹の寧々子はお構いなしに話を続ける。


「でね。この噂の発信元の配信者って、チャンネル立ち上げて一ヶ月くらいで登録者10万人達成して、オカルト好きの中ではちょっと有名だったんだけどね」

「あ、あの……寧々子……もうその話は止めませんか?」


 どんどん怖くなってきた優々子は、寧々子の会話を遮るも、もはや止まるんじゃねーぞ状態の寧々子は聞く耳を持たない。


「いいから聞いて、別に怖い話じゃないから……それでね。その配信者が例の呪いの館の動画を最後に投稿がピタリと止んで……行方不明になったんだよ。それで、この呪いの館の話がオカルト界隈でちょっと話題になったんだよね」

「……そ、それが……ど、どうかしたのですか?」

「いや……私達って、ここにずっと住んでるのに……郊外の呪いの館なんてすぐに話題になりそうな心霊スポットを知らなかったんだよね……しかも、オカ研の人達もだよ?」


 優々子の顔がみるみると青ざめていく。ガクガクと震え始めいつもの天使のような笑顔が強張る。寧々子はというと頬に人差し指を当て、疑問顔を浮かべている。


「ちょっと、おかしくない?」


 そう寧々子に問われ、確かにおかしいと感じた優々子は恐怖で震える。自分はどこで噂を聞き、なぜ、こんな行動に出たのかが今更になって怖くなってきたのだ。


「それに……あたしは用事があって行かなかったんだけど……部長達がね。噂が広まった時にすぐに呪いの館を見に、郊外の雑木林に行ったそうなんだけどね……どうだったと思う?」


 寧々子はベテランの語り部の如く臨場感たっぷりに語る。そんな寧々子の語りに恐怖を感じる優々子は目が泳ぎまくっている。


「………………寧々子……そのお話はやめましょうか……わ、私これから緋影に……」

「なんと……古い洋館なんてなかったらしいんだよね……どこにも……一時間くらい周辺を探し回ったらしいけど、見つけられなかったんだって」


 ものすごく怖い話じゃないですか!となる優々子は冷や汗ダラダラ恐怖で固まっている。


「でも、兄さんが行ったときは古い洋館が実際にあったらしくて……中に入ったらしいんだよね。そして、あの呪いの人形ドールを、その館から持ち帰ったらしいんだよね」


 怖がる姉の優々子を完全に無視して語る寧々子は考え込む。


「呪いの館を見つけるのに……なにか条件があるのか……それとも、あの呪いの人形ドールが兄さんを呼んだのか?」


 絶対にあの呪いの人形ドールの仕業じゃないですか!となる優々子は、自分が最初から呪いに掛けられていたのだと知って恐怖で震え上がる。


「そもそも、呪いの館の噂の発信源が実は……あの呪いの人形ドールなのかも……チャンネル主を操って噂を広めたとか……それとも……チャンネル主自身がどこかで偶然この話を知って意図的に広めたのか……どちらにしても、さすがに、オカルトマニアでも知らなかった心霊スポットを急に出てきたオカルト配信者が知ってるなんて……やっぱ、ちょっとおかしい気がするんだよね。そのチャンネル主が行方不明ってのも信憑性は薄いし……そもそも、オカ研の人達が呪いの館が見つからなかったていうのもやっぱり謎だよね」


 独り言のように語る寧々子の話を恐怖で半分以上聞いてない優々子なのである。


「それに……一番おかしいのは……あの兄さんが知らない心霊スポットだってことだよ」

「…………そ、それは確かに……そうですね」


 人形ヒトカタ 緋影ヒカゲは、中学時代にオカルトマニアで知られていたオカ研の元部長が、その知識の量に感心して、必死に勧誘した結果、緋影は仕方なくオカ研に入部した過去がある。


 そして、姉の優々子が中学を卒業すると同時に緋影との仲を深めるために姉の優々子に内緒でオカ研に入部し、今もオカ研に在籍している寧々子なのである。


 そんな緋影も知らない心霊スポットというのが実在しているということに更に恐怖心を募らせる優々子。


「姉さんはどう思う?」

「え!? わ、私ですか!? わ、私は………………ひ、緋影のところに行ってきますね!! し、仕方ないですが、きちんと頂いた服は見せないといけませんからね。それが礼儀というものですから!! では、寧々子!! この話は終わりということで!!」


 これ以上寧々子の話を聞いていると怖くて夜が眠れなくなると慌てて逃げる優々子。


「あ! ちょっと、姉さん!! 話まだ途中なんだけど!!」


 慌てて部屋から出て行き、階段をバタバタと駆け下りていく姉の足音を聞きながら不満顔になる寧々子。


(全くまだ話は終わってないのに……そういえばあの人形ドールの衣装は兄さんが作ったて言ってたし……兄さんゴスロリ系が好きなのかな? なら、いいこと思いついた♪)


 このチャンスは逃すまいと寧々子はスマホを取り出しなにやら操作を始め上機嫌で姉の部屋から出て行き自室に戻るのであった。

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