利賀寧々子は疑問に思う。2
落ち込む寧々子は、呪いの人形りんねちゃんの方をチラリと盗み見る。どうやらアニメはクライマックスの盛り上がりを迎えているようで、無表情なドールフェイスながら、瞳がどこかキラキラしているようにも見える。どうやら呪いの人形は完全にアニメに夢中の様子だ。
一方、寧々子は呪いの人形を怒らせないよう、慎重に不機嫌を装いながら、虚空を見つめて落ち込んでいるように見える義兄の緋影に話しかけた。
「……兄さんに聞きたいことがあるんだけど」
「……なんだ?」
「……兄さん……その人形ってどこから連れてきたの?」
「……ん? いや……えっと……」
寧々子の視線は、いつの間にか前のめりになり、アニメに集中している呪いの人形へ向けられる。そんな寧々子を見て頭を掻きながら緋影は悩む。
正直にりんねちゃんをお出迎えではなくお持ち帰りしたと話すべきなのか。
「……まぁ、ねねちゃんだけには話すけど」
そう前置きしてから、緋影は郊外の雑木林に行ったときのことを話し始めた。そこで人形のりんねちゃんを見つけて、気に入ったため、そのままお持ち帰りしたことを寧々子に正直に話した緋影なのである。
寧々子は驚きの表情を浮かべながら、無表情で淡々と語る義兄の話を黙って聞いていた。
「……へぇ~……兄さん最近噂になっている心霊スポットに行ってきたんだ」
「え? 心霊スポット? いや、あそこはただの古いだけの洋館だったと思うけど……心霊スポットだったのか?」
「兄さん!? まさかとは思うけど……知らずに行ったの!?」
「え……あぁ……まぁ……でも、普通に古い洋館だったけどな……」
「え!? あの郊外の森の奥に本当に洋館あったの!?」
「普通にあったけど? ていうか、さっき話しただろ……りんねちゃんはその洋館から持って帰ってきたんだが……」
寧々子は何か考え込むように視線を落とした後、ちらりとテーブルの上を見る。そこには、戦闘シーンに大興奮中の呪いの人形がファイティングポーズを取っていた。どうやら、アニメの戦闘シーンに夢中のようだ。
「……に、兄さんって……ずっと、昔に幽霊を見てみたいみたいなこと……言ってたよね?」
「ん……あぁ、そんなこと言ったかな? 確かにオレが幼稚園の頃は幽霊に興味あったけど……まあ、小学校低学年くらいで大体のオカルトは迷信だと気づいたけどな」
オカルトは迷信?と疑問顔の寧々子は、再び呪いの人形を盗み見る。すると、りんねちゃんはアニメの決めポーズを真似していた。どこか得意げな様子でアニメを見ている。
「今でもいるなら、一度は見てみたいと思うけどな」
「……その洋館、本当に幽霊いなかったの?」
「居なかったな……そもそも怪現象なんて起こらなかったぞ」
再び呪いの人形に視線を向けた寧々子は、ふとりんねちゃんがこちらを見返していることに気づく。さっきから何見てるの?と言わんばかりの呪いの人形の視線に、寧々子は思わず短い悲鳴をあげた。
「……えっと……に、兄さんの目の前に本物の呪いの人形がいるんだけど」
「………………りんねちゃんは呪いの人形じゃないって……怪奇現象なんて起こったこと無いし」
「多分、今現在進行形で起こってるって! 兄さん!!」
先程からいつの間にか動いている呪いの人形を指差しそう言い切る寧々子に、また、これかと呆れる緋影なのである。寧々子も寧々子で、兄さんに何を言っても無駄だと思い直し、冷静さを取り戻す。
「結局……なんで、見てみたいのさ? 幽霊」
「………………なんとなく……かな」
いつも通り抑揚のない声で答える緋影。その返事に納得できない寧々子は、チラリと再び呪いの人形を見る。幽霊はともかく、怪異ならすぐそこにいるけどなぁと再びテレビの方を向いてアニメ視聴している呪いの人形に思わず恐怖で震えがこみ上げる寧々子。
「心霊スポットに幽霊を見に行ったわけじゃないなら……なんで兄さん、郊外の呪いの館なんて行ったのさ?」
「あぁ……かわちゃんに誘われてな……でも、結局かわちゃんは来なかったんだが……なんか、知り合いの館とか言ってたんだけど、どうやら違ったらしい……どういうことなんだろうな」
さすが兄さんだなぁと、心の中で半ば呆れつつ感心する寧々子。この際、はっきりと川滝先輩は兄さんが嫌いだから、嫌がらせしたんだと思うよと伝えるべきか悩んでいると、ふと別の疑問が浮かんだ。
「兄さん!? 姉さんって帰ってきてるよね?」
「あ、ああ……多分、自室に居るんじゃないかな」
靴があったので、姉が帰宅してるのは間違いないと思っていた寧々子なのだが、いちよ緋影に確認した。理由は緋影が来ているのに姉の姿が見当たらないことにも今更疑問に感じたからであった。
「……………………兄さんごめん。姉さんと話してくる!!」
そう叫ぶと、寧々子は慌ててリビングを飛び出し、バタバタと階段を駆け上がっていく。その音を聞きながら、緋影はホッと息をつき、ようやく作業を再開し集中し始めるのだった。




