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魔導具 その5


              1


「マスター。衝突まで残り十七秒です」


「あの防御障壁ちょっと堅いわね。しかたないなぁ。建物少し壊れちゃうかもだけど。ちょっとだけ強めに……」


 そもそも建物の中で戦闘する事自体が間違っているのだ。

 それに話し合いの途中で仕掛けてくるなんて……


「マスター?マスター?聞こえていますか?」


「えっ?う、うん聞こえるよ。何?」


『時間がありません。私にご命令いただければ、この状況を完了させますが。もちろん城にはダメージを残しません」


「ほんと?出来るならお願い。あの術師のバリアー破らないと、隕石落としの二人に攻撃が届かない。私がやるとダメージ範囲が広くて、建物にも攻撃が入っちゃう」


「了解しました。敵魔術師三体。殲滅します。魔力解放……ターゲット確認。効果範囲調整……参ります。次元斬」


 私の手を離れた蒼の剣が刃を水平に寝かせた状態になる。

 そして、次の瞬間。障壁を展開している術師をなぎ払った。

 術師の全面には、私の攻撃をはじいたバリアーみたいなものがあるはずだけど……

 玉座の間が沈黙につつまれる。

 音を立てる事が禁止されているのではないかと思えるほど、誰もが静観を維持している。

 しかし変化は起こっていた。

 集中して……目を凝らさないと気付けない変化。

 先頭にいる防御役の術師の上半身が右に向かい少しずつスライドしている。

 違う。術師の周辺の光景がズレているのだ。

 蒼の剣が通過した場所の景色が、世界の()()だけが、紙に書いた絵を横向きに破ったようにズレていく。

 さらに注意深く観察する。

 ズレていくのは()()だけじゃなかった。

 術師の背後。魔法発動中の他の二人がいる周辺にも同じ変化が起きていた。

 そのズレが大きくなるにつれ、そこの空間が小刻みに揺れていく。揺れは段々と大きくなり、


 バシュ!


 今までに聞いた事がない音を立て、何事もなかったかよ様に元の状態に戻った。空間にズレはなく、あたりまえの光景が確認できる。

 ただ、術師三人の姿は綺麗さっぱりに消えていた。血痕も何も残っていない。


「状況終了。敵勢力の排除を完了しました。世界の三十センチ四方が収縮。世界への影響見受けられず。問題ありません」





               2



 いつのまにか大気の震えが収まっていた。

 おそらく上空に召喚された隕石が消失したのだ。


 先程とは違った沈黙が玉座の間に広がっていた。

 

「……………………」


「……………………」


「……………………」


 ガブリエル、デスサイズ。私も含め三人もいるのに誰も口を開かない。

 他の二人は知らないけど、私はドン引きしている。

 蒼の剣のアナウンスで、私だけは何が起きたかは把握出来ているからだ。

 けど……


「世界が収縮……?」


 言葉の意味が分かるけど、その意味のままの事が起きていたのであれば私の理解が追いついていないことにになる。


「「世界が収縮?」」


 私が呟いた言葉を二人がが復唱する形で口にする。見事にハモっている。


「フレデリカ?」


「フレデリカ様?」


 返答できない私に追撃が入る。

 ちょっと待って。蒼の剣先生に聞いてみるから。


「蒼の剣。さっき起きた現象の詳細を教えて」


 この場にいる者の代表として唯一、理解している……この現象を引き起こした張本人に質問を投げかける。他の二人にもわかるように、あえて声に出した。


「了解しました。簡単に申し上げますと、刺客のいた座標の空間を切り開きました。当然そこにあった……居た刺客の体も空間ごと分断。その後、断裂させた空間が戻る際、分断された六つの破片は切った隙間に吸い込まれ異次元へと落ちたものかと思われます。ちなみに、異次元の狭間がどうなっているかは私の知識にはありませんでした。以上です」


 私も人間界と魔界を往き来する時に、次元の壁を切って開く事が出来る。

 だから薄々は目の前で何が起きていたかはわかっていた。

 でも、そこにある物体ごと切るなんてことは私にも出来ない。

 『空間』と『空間プラス物体』では難易度が段違いに違う。

 少なくとも私には、『空間のみ』を切る事が精一杯だ。

 それを容易く、当たり前にやってのける

 

 この子……もしかして……私より強い……?


「ねぇ蒼の剣。いろいろ質問していいかな?」


 心の中だけで会話をするのも違和感があるので、あえて言葉にして話しかける。

 それと、ここにいるガブリエルとデスサイズに蒼の剣と意思疎通が出来ることを見てもらう為でもある。


「正直な話。あなたって私よりだいぶ強いよね?それもかなりの差がある感じで」


 思っている事をそのまま口にした。

 別に嫉妬や妬みから出た言葉ではない。

 

「正確な回答を出すのであれば答えはノーです。私の原動力になっている力はマスターの魔法力なのです。マスターの力の供給がなければ私は頑丈なだけの剣に過ぎません。マスターが自身より私の方が優れていると印象を持っているとするならば。それは私の『出来ること』の種類が多いということではないかと考えます。ただ、それらは全てマスターの為だけに行使できる力なのです。よって私の力はマスターの力の一部に過ぎないという結論に辿り着きます」


 私の為に……

 元々蒼の剣は、神から授かった悪を討ち滅ぼす為の聖なる剣。

 それが、私の力が足りないばかりにこの子まで闇の魔剣へと堕としてしまった。

 それなのに……この子は、こんな私の為だけに存在してくれているというのだ。


「うん、わかった。ありがと。あと、今みたいに意思疎通できるまで進化したといのは、あの魔導具のせいということでいいのかしら?」


「あの魔導具は、ただのきっかけに過ぎません。あくまでパワーの上昇については、今日までマスターと二百年以上共に戦ってきて得られた経験値によるものです」


 そっか。

 思い返せば、出会ってから蒼の剣には頼ってばかりだった。

 力に目覚めたばかりで未熟だった頃。

 私をずっと護ってきてくれた。

 私の思い通りに目の前の敵を全て退けてくれた。

 そりゃ私より強くなるわけだよね。


「ありがとね蒼の剣。これからも、ずっと私と一緒にいてね」


「承知しています。私の存在は、あなたと共にあります。私はあなたの障害となるもの全てを、取り除く剣です」


 やっぱりだ。今までも。これからも。この子は私の一番のパートナーに違いない。


「本当ににありがと。さぁ部屋に戻りましょ。今日はあなたの事。いつもよりピカピカに磨いてあげるから」



 

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