魔導具 その2
蒼の剣。
正式な名前は『蒼の刃』
それは神より授かりし聖なる剣。
神の使いである救世主が悪魔を討ち滅ぼす為の武器。
クリスタルの様に澄み渡り、サファイアの様に青く輝く。
救世主は、この剣を操り人の世界を幾度と救ったという。
そして今。その剣は魔王である私の手の中にある。
私の魔力で染め上げた聖なる剣は、蒼き輝きを残したまま魔界一の魔剣へと姿を変えた。
この子は、ただの武器とは違う。
しっかりとした意思が宿っている。
二百年以上も私のことを護り続けてきてくれた。
どんな強敵が立ちはだかろうとも、諦めずに私について来てくれた最強の魔剣であり、そして私の一番の相棒。
「おいで。蒼の剣』
腕を伸ばし、右手を胸の前にかざす。
何もない空間から一振りの剣が現れて私の手へと収まる。
魔力を練り上げる。
溜まった魔力は右手から蒼の剣へと流れていく。
男を自分色に染め上げるかの様に、清く美しい聖なる剣は私の魔力で穢されていった。
そして、透き通る青色の美しさ剣は、妖艶で妖しい紫色へと姿を変える。
「これが……あの最強の剣……」
竜族の使者から深い溜息が漏れる。
それは、憧れであり恐怖であり妬みが込められた吐息。
ゴクッ……
唾を飲み込む音がこちらにまで聞こえた。
この剣があれば、世界を統一できる。
そんな眉唾な噂話が魔界にはある。
ばかばかしい話だ。
この使者も、そんな噂話を信じているのだろうか。
この子は私が望まなければ動くことはないのに。
以前。今回の様な会談の場で相手方の使者がこの子を奪いにきた。
剣さえ奪えば、私から王位を手に入れることが出来る。
そう考えたに違いない。
とんだ勘違いだ。
この子と私がいて初めて最強となれる。
奪いにきた相手は蒼の剣を持ち上げることも出来ず、控えていたデスサイズに魂を刈り取られた。
これ以降、なるべく人前では蒼の剣は出さないようにしている。
「それじゃあ、この子に使ってみようかしら。ねぇ?竜の人。このアイテムの失敗ファンブルは大丈夫なのかしら?」
「は、はい。時間をかけて試験に試験を重ねております。今のところ失敗はございません。竜族のプライドと名誉にかけましても。それよりも!我が一族の魔道具を誉れ高い蒼の剣に!それだけで一族の名声は魔界に鳴り響くでありましょう!ううぅ……」
「ちょっと。こんな事で感動しないでよ。それより信じるからね。このアイテムのこと。それで?どうやって使うの?」
私の大切な家族とも呼べる相棒に関わる事だ。ちゃんと使用上の注意を聞いておかなければ。
「はい。ほんの僅かな魔力を玉に込め、対象の道具にぶつけるだけで発動します。その道具の愛用者が行なった方が、効果が高いと判明しております。そちらの剣ですと魔王フレデリカ様が相応しいですので問題はないかと」
そっか。問題はなさそうね。
でも、この子嫌がらないかな?
蒼の剣の刀身に左手を添える。
(ねぇ?嫌じゃない?こうする事で、この先ずっとあなたと一緒にいられる気がするの。私……あなたが壊れちゃうんじゃないかって心配で。だからいいかな?)
蒼の剣が優しく光る。
「おおぉ!」
竜族の使者が意味不明の感嘆の声を上げる。
彼にはわからないだろうけど私には分かった。
蒼の剣も賛同してくれている。
(ありがと。すぐ終わるから。ちょっとだけ我慢してね)
剣から手を離す。
蒼の剣は落下せず、その位置で止とどまる。
箱から竜族の魔導具を取り出し両手で包む。
虹色に輝く玉に想いを込めて魔力を注ぎ込む。
手から魔導具に魔力が流れていくのを感じた。
美しく輝く宝玉がさらに輝きを増す。
玉の中で力が渦巻き始めるのを感じる。
「さぁフレデリカさま。そのまま蒼の剣に玉を押し付けてください。何の抵抗もなく剣が玉を吸収いたします」
言われた通り刀身に触れさせる。
宝玉は吸い込まれるかの様に消えた。
不思議な感覚。
もう一人の自分自身が、蒼の剣と同化する様な感覚だった。