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魔王フレデリカ その4


 あのビジョンが脳内に焼き付いて離れない。


 インキュバスのメルセリウム。

 あの淫魔。

 あの種族って夢の中で行為に及ぶのではなかったのか。

 なのに私の居住している城の中で。

 デスサイズもまんざらでもないみたいだし。

 別に普通の仕方だったらいいのよ……

 なのに()()二人ってば……あんな私の知らない行為を……いや記憶とはいえ覗いちゃった私も悪いけどさ。でも……

 やだっ……また思い出しちゃった。


 とにかく。ああいう卑猥なのは城の外でやってほしいわけよ


「フレデリカ様。城の外でとは?何をでしょう?」


「あっ……えっ?私いま何か言ってた?」


「はい。えっ……と、私の知らない行為が……とか。二人して恥ずかしいことを……とか」


 私ってば頭の中で考えている事が口に出てしまっている。

 マズイ……マズイよぉ。

 魔界で生活するようになって、話す相手がいなくなってから、ひとり言が増えたのは自覚していたけど……


「ち、違うのよ!そんな事言ったかしら。聞き間違いだと思うよ!あっ!そう!今度、あなたと二人でお酒でも飲みながら女子会みたいな事したいなぁって!女の子同士なら、男の人には話せない恥ずかしい事も話せて楽しいかなって」


 私とした事が。慌て過ぎか。

 

「女子会というものが何かわかりませんが、フレデリカ様と二人と懇親の場が頂けるのは嬉しく思います」


 慌てて取り繕ったけど、意外にも信じてくれた。

 しかも、なんか喜んでくれてる。

 そうだよね。同い年の女の子とかいないだろうし、こんな殺伐とした世界で『きゃっきゃ』することなんて出来るはずもない。


「あ、あははは。私から連絡入れるから待ってて。楽しみだなぁ」


 何これ。私も楽しみになってきた。

 私とは性格正反対な子だけど、話せば案外仲良く出来るかもしれないなぁ。


 それにしても私ってば。

 そもそも記憶を読み取ったのってだいぶ昔の話だ。

 夜になるとデスサイズとメルセリウムが、同じ寝室に向かい一緒にいるのは気にはなっていた。けどそれは彼らが恋人だからだ。

 普通に、ただ単に男女のお付き合いをしているだけなのだ。

 それなのに私ってば、二人を変な目で見てしまっていた。

 汚れているのは私の心だ。

 

 でも、念のため……一応……

 デスサイズには、悪いけど確かめさせてもらおう。渇ききった女子心が恋とか愛とかに飢えているの。

 

「あっ!デスサイズ。髪に糸くず付いてるよ。取ってあげるね」


 頭部に触れてしまえば、魔力で脳ごと支配できる。記憶を読み出しても気付かれることはない。ごめんねデスサイズ。私が持っている疑心暗鬼を取り除く為なの。少しだけ覗かせてね…………


「きゃあああああああああああ‼︎」


 目の前で初めて見た光景。いや。想像すら出来ない出来事が脳内で繰り広げられていた。

 何⁉︎何なのこれは⁉︎様々な形で手や足が絡み合っている。

 私が……私が無知なだけなの⁉︎


「どうされましたか⁉︎こんなにフレデリカ様がうろたえている事なんて今までありませんでした!何が!何が起こっているというのですか⁉︎」


 動悸が……動悸が止まらない。

 落ち着かなくては。

 不老の私が……こんな事で死んでしまったらシャレにならない。

 愛の形は人それぞれなんだ。別におかしな事ではない。

 そうなのだ。これは純粋に二人の愛の形なのだ。

 部外者の私がとやかく言う事ではない……はずだ。


「な、なんでもないわよ。あまりにも嬉しくて。あなたとお酒を飲めることが嬉しくて絶叫してしまったの。わぁ楽しみだなぁ。『きゃあああああああ』……みたいな感じ?」


 まずい……彼女の私を見る目が。おかしな物を見る目になっている。

 この世界で一番強い大魔王。かつ上司というマウントをとれているはずなのに。そんな目で見られるなんて。


「そ、それじゃあ先に上がるね。お客様は客室に待たせてあるから、一時間以内にお願いね。でも慌てなくていいから」


 今の私ってば絶対に間違いなく目がジャブジャブ泳いじゃってるよ。これ以上怪しまれる前に逃げなくては。


「じ、じゃあねデスサイズ。また後で」


 ひきつった半笑いを浮かべながら数歩後ずさる。

 そして、丁寧に畳んでおいた服をわし掴むと、全力ダッシュでこの場を離脱した。



  




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