空の上にて
1
なんか綺麗だなぁ。
燃え尽きて塵になっていく岩の破片を眺めながら、ぼんやりと思う。
まぁ私自身も破片と一緒に地上に落ちている最中なんだけど。
ほぼ力を使い果たし、滞空している事もできない私は重力に引っ張られて落下する事しかできない。
魔力切れの疲労感と任務の達成感が相重なって、何とも言えない心地よさが私を支配している。
「ふぁあ。魔力を使い切ると、こんな感じになっちゃうんだ。なんかフワフワして気持ちいい。人だった頃に魔力切れした時には、只々しんどかった記憶しかないけどなぁ。このままノーガードで地面に着地したら、さすがの私もお陀仏だよね。こんな死に方するなんて想像すらしていなかった。蒼の剣あのこも魔力切れで自由落下している最中だろうな」
たしか、私が死んだら蒼の剣は神の国に還っていくって言っていた気がする。
そうしたら新たな英雄が誕生して蒼の剣も本来の在り方に戻れるはずだ。私なんかに就たせいで、あの子には大変な事に巻き込んでしまった。
そういえば魔界の居城はどうなっているだろう。
私の命を狙う種族が来るだろうし。
まっ、あの三人がいれば大丈夫か。
あの人たちは魔界の中でも相当強い。
次の王位争奪戦では三人の中の誰かが王になるに違いない。
それにしても……
まさか人間側の世界で最期が迎えられるなんて。
よかった。私の故郷は本来こっち側だ。
みんながいた世界で終われるなら本望だ。
私の命もやっと終焉を迎えられる。
過去に沢山の人たちに救われて今日まで生きてこられた命。これまで自ら進んで命を投げ出すことは出来なかった。
でも今は多くの人を救っての死だ。
きっと皆が褒めてくれる。
いつの間にか視界内にあった隕石の破片はなくなっていた。無事に燃え尽きて塵になったのだろう。
突然視界が悪くなる。
この状況は知っている。分厚い雲の中に入ったのだ。
地表は近い。
考え事をしていると時間が経つのが早い。
そう考えている内に雲を抜けた。
真っ青な空に白い雲。
美しい空だ。
「綺麗……さて地面に落ちるの怖いし。残った少しの魔力使って睡眠魔法を自分にかけておこうかな……」
ぐわしっ!
えっ⁉︎そんな馬鹿な……
誰かに抱き抱えられている。
背中ごしだから顔は見えないけど……これは女性の体格。
間違いなく人の感触だ。
でも、ここは数千メートル上空。
こんなところに誰が来られるのだろうか。
徐々に落下速度が緩やかになっていく。
「ちょっと。自分が帰るくらいの力は残しておきなさいよね」
2
私の知っている声だ。
首を少しだけ傾けて見ると巫女装束が見えた。
やっぱりだ。この声の主は巫女さんだ。
すごいなぁ。
この子は、こんな事まで出来るなんて。魔法とかの概念がない世界とか言っていたのに。こんな力を隠していたなんて。
「……ははは。すごいわね。こんな高いところまで来れるなんて。さすが巫女さんだね。ふぅ……でも助かったわ。死ぬかと思った。また命拾いしちゃった。ありがと」
背中越しに感謝の言葉を伝える。
「あのねぇ。あいも変わらず目的の為なら命を捨てようとするんだから。フレデリカの悪い癖ね。昔から直ってないね。まぁ今回はギリギリみたいな感じだから仕方ないのかもしれないけれど。でも最初から本気でやれば余裕だったんじゃないの?」
「????」
頭の中で『?』が高速でクルクルと回り始める。
巫女さんと感じたのは間違いなのだろうか?
声は確かに巫女さんの声だ。
「あ、あの……私……勘違いしているのかもしれないけれど、あなたの事……私は巫女さんだと認識しているのだけれど。人違いだったら……ごめんなさい」
魔力を使い果たしてしまって精神的に弱っているせいかもしれない。思考が上手く機能しない。
「ふふふっ。半分は正解だよ。さて私は誰でしょう?」
口ぶりから私のことを知っている人物であることは確かだ。
半分?半分って何なのよ。人物当てに半分も何もないじゃない。
こんな時に蒼の剣あのこがいてくれたら……
「そうそう。これ大切なものでしょ?はい……って持てないわよね。私が預かっておくね」
私の思考を読んだかの様に、青いクリスタルの剣が目の前に差し出された。
「あ……蒼の剣……回収してくれたの?ありがと……」
「いいのよ。あとは任せて。今は眠りなさい。ちゃんと地上まで送るから。安心して。おやすみなさい」
「あ……ありがと。おやすみな……さい」
何者かわからない人物の『おやすみなさい」の言葉に何故か安心感を感じた私は、一瞬で深い眠りへと落ちた。




