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             1



「カウントダウン……9……8……」

 

 肉眼では確認できないが、頭上から何かが迫ってくるのを感じる。

 それに蒼の剣のカウントダウンが始まった。

 最後の瞬間が迫っているのは確実だ。


「6……5……」


 まだ何も起こらない。


「4……3……」


 本当に落ちてくるのだろうか。

 いや。迷っている場合じゃない。集中しないと。

 やり直しはきかない。一発勝負だ。

 

「2……1……」


 魔力を解放。私が支配する魔力領域を広範囲で展開する。

 私の必殺斬撃を飛ばせるのは、この魔力フィールド内だ。

 なるべく広域展開させる。

 

「……ゼロ!」


 蒼の剣の合図と同時に感覚のギアを引き上げる。

 今の私は音に近い速度で動けるはずだ。

 同時に両手持ちした蒼の剣を水平に構える。

 そして……


「!」


 目の前に巨大な岩の塊が現れた。

 今、お世話になっている探偵事務所のビルよりも大きい。

 目の前の一つの岩石に視界を覆われて、他の岩を視認する事はできない。

 他の隕石の欠片を把握出来ているのは、展開中の魔力フィールドのおかげだ。


 ほぼ静止した世界で、確実に地上に向かって落ちていく。

 かなりの速度で落下している証拠だ。

 呑気にしていたら隕石の落下速度に置いていかれる。

 一瞬で全ての岩を砕かないといけない。

 すでに、全ての目標は私の領域内に入っている。

 そして、四十二個の石ころはマーキングが完了している。

 あとは全力の斬撃で粉粉に粉砕するのみ。


「必殺奥義……閃光・嵐‼︎」


 ロックした対象の全てを自動追尾する斬撃『閃光』。

 それを進化させた技が『閃光・嵐』。

 一つの対象に一瞬で数十回の斬撃を浴びせる奥義『嵐』。

 私の剣の師匠の得意技だ。

 それを最終奥義の『閃光』に組み込んだ。

 ちょっと無茶すぎる技だけど、人ではない私なら可能だ。


 目の前にあった巨大な岩の塊は、一瞬で百以上の石ころに切り分けられた。




            2



「次っ!」


 纏った魔法力が一番近い欠片に導いてくれる。

 私は最大速度で突っ込み剣を振り抜けばいい。

 急旋回にかかるGは蒼の剣が重力魔法で軽減してくれている。

 これなら余裕で乗り切れる。

 二個目の欠片を三十連斬で微塵切りにした。

 蒼の剣自身も自らを魔法で強化している。

 南瓜を切るくらいの手応えで、巨大な岩石は小さな岩石へと姿を変えた。

 

「四つ、五つ、六つ!」


 魔力を纏わせた斬撃を飛ばし三つの岩石の塊を、まとめて吹き飛ばす。

 

「はぁはぁ。やっぱり少しだけキツイなぁ。息が切れる」


 この『閃光』という奥義。ロックオンした対象を魔力の帯で次々と一筆書きの様に導いてくれる。

 だけど結局は術者の能力が元となる。

 ただ落ちてくるだけとはいえ、こんな巨大な物体を大量に処理しなくてはいけない。しかも……

  

「くっ!これで十五!速度が……追いつかない」


 隕石の落下速度が想像以上に早い。

 最速の技の『閃光』が遅れはじめている。


「マズイ!」


 一個取りこぼした。

 

「お願い!蒼の剣!」


 右手にある相棒パートナーを解き放つ。

 魔力を蒼の剣に流し込む。

 それと同時に手の中から蒼の剣が消えた。

 おそらく取りこぼした隕石まで転移したのだ。

 次の瞬間、足下の方から落雷のような爆音が響き渡った。

 よかった。ちゃんと仕留めてくれた。


「それよりも……」


 こっちは全然よろしくない。

 蒼の剣を手放してしまった。

 すでに複数の隕石が視界内に入っている。

 あれらを素手で処理するのは絶対に無理だ。


「まいった。お手上げだわ。しかたがない…………諦めしかないか。嫌だなぁ……最悪だ。でも『背に腹はかえられぬ』ってやつだ」


 もう魔力の底も見えてきた。

 覚悟するしかない。

 胸の前で手を組み、トリガーとなる言葉を叫ぶ。


漆黒解放(シュヴァルツ)‼︎」




            3




 雛鳥が生まれる時に殻を破る様に。

 身に纏っていた何かが剥がれ落ちる。

 私が放つ黒い魔力が更に深く。漆黒へと染まっていく。

 抑えていた魔族の力が溢れ出す。

 一度解放してしまった力は、もう堰き止める事は出来なかった。


 神と魔族の相反する力の融合である私は『魔神』と呼ばれる存在だ。

 それは全てのものに災いをもたらす存在。

 目の前にある隕石の大群よりも災厄な悪魔。

 そんなものに私はなりたくない。

 だから、この『変身』は使いたくなかった。

 力の加減がきかなくて誰かを傷付けてしまうかもしれない。

 見た目の変化で、まわりの人たちから嫌われて怖れられるかもしれない。

 背中にある黒い翼は誰が見ても人のものではない。


「あぁ……なるほど。見た目だけじゃなく力も数段上がっているみたいね」


 いつの間にか、あたりの景色が止まっていた。

 あんなに高速で降り注いでいた隕石たちが止まって見える。

 正確には止まっているわけではないだろうけど、私には時が止まっているような錯覚に陥る。


「とりあえずは、この砂利石を何とかしないと。力の残量も少ないし。ギリギリかもしれないわね」


 背中の翼を動かす感覚は過去に一度だけ試したから覚えている。

 肩を広げ背筋を意識する。

 こういう時は、頭の中にあるイメージも大切だ。

 鳥が羽ばたく光景は昔から何度も目にしている。


 バサッバサッ


 二回、大鷲が翼を広げる様に羽ばたく。

 生き残っている隕石の数と同じ数の黒き羽根を私の周囲に展開させる。一つの羽は手のひらくらいの大きさだ。


「いきなさいっ」


 私の発した言葉と同時に、漆黒の羽根が私の元から高速で飛び立つ。

 行き先は残っている隕石の中心部。

 奥義『閃光』の自動追尾は生きている。命中させるのは目を閉じていても容易だ。


「それにしても。凛ちゃんのゲームセンターにあった格ゲーの知識が生かされるなんてね。凛ちゃんに感謝ね」


 ゲーム画面で見た必殺技。

 対象の内部に飛び道具を撃ち込み、内部から破壊する技。

 あれを応用する。

 私の意思を持つ羽根たちは硬い表面に突き刺さり、そのまま隕石の中心部まで侵入する。


起爆(ブレイク)!」


 人差し指に魔力を集め、親指と合わせて勢いよく弾く。

 パチンという音と共に羽根の起爆は完了した。


「時は動き出す」


 時間を止めているわけではないのだけれど、能力解除のトリガーとして敢えて口出した。


私は通常時間の流れへと戻る。

それと同時に、真っさらな宇宙色の空に、爆炎の花が咲き乱れた。








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