作戦開始時刻 その2
おっと。
女の子に手を振ったはいいけど、ここは塔の先端だ。
一般の人が立ち入っていい場所じゃない。騒ぎになる前に空に上がってしまおう。
再び、空間を跳躍する。
休日を楽しむ人々の姿が消え、かわりに先程までいた島が眼下に見えた。
「さてと……行こう蒼の剣。ガイドお願いね」
「了解しました。ここからは気圧の問題があります。通常の飛行で高度を上げていきましょう。大丈夫です。まだ時間はあります」
「そう。あなたが言うのだから安心ね。ありがと」
凛ちゃんの真似をして蒼の剣を優しく撫でる。
ふーん……なるほど。何故かわからないが、この子が喜んでいる気がする。
空を見上げる。
この方向に目標があるはずだけど、まだ影さえも見えない。
真っ青な空に白い雲の山脈が連なっている。
すごく綺麗だ。
世界が滅びるかもしれない直前なのに。
この世の終わりなんて、こんな感じで呆気ないのものなのかもしれない。
流れる雲を見ながら、ゆっくりと加速していく。
さっきまでいた塔は、すでに小さくなって見えない。
ここまで上がると陸の形がよくわかる。
「フレデリカさん?聞こえる?」
耳に付けている通信機器から声が聞こえてきた。
「真琴さん。さっきはありがとうございました。真琴さんのおかげで心が落ち着きました。これなら上手く出来そうです」
「そう?よかったわ。本当に申し訳ないけど、ここから先はフレデリカさんに丸投げになっちゃうから」
「いいんですよ。私がやりたくてやるんですから」
これは本心からの言葉だ。
「そうなのね。そう言ってもらえると嬉しいわ。あなたには感謝の言葉しかないわね。それと……どうしようかしら。終わってから話そうと思ったけど今話しちゃおうかな」
「えっ?何のことですかー?もう気になっちゃいましたよ。話してくださいよー」
「あぁ。そりゃそうよね……ねぇフレデリカさん。『青い剣をあやつる銀髪の冒険者』って聞いたことあるかしら?」
「マスター。飛行コースがずれています。集中してください」
「ご、ごめん。ちゃんとやるから待って……で真琴さん⁉︎何で……その通り名みたいなのがでてきたんですか⁉︎」
「あっ……嘘でしょ……そのリアクション……」
話を振ってきた当人が戸惑っている。
「真琴さん?そ、それってテレビゲームか何かのキャラクターの話ですよね……?今は緊急時だし……その、そういう話は終わってからでも……」
「それもそうね。それじゃあ、この話は仕事が終わった後にしましょう……」
「わあぁぁ!嘘です!このままじゃ気になってミスっちゃいそうです!状況が状況なので手短に教えてください!途中経過とかの話はいいので結論だけでいいので。ズバッと言っちゃってください!」
ダメだ。手が震えてきた。
『銀髪の冒険者』という二つ名は、私が人だった頃の通り名。
でも、それだけだったら。私に似ているそっくりさんの冒険者がいても……って、この世界には冒険者システムなんてないか。
あとは……そう!
この世界に存在する創造された物語には、そういう人物がいてもおかしくない。
アキハバラにはいろいろな髪の色のキャラクターが存在していたのを見たし。銀髪なんて珍しくもない。
ただ、『青い剣をあやつる』というワードが引っかかって取れない。
『青い剣』=『蒼の剣』
という式が成立してしまった場合、
『蒼の剣』+『銀髪の冒険者』=『私』
という事実が成立してしまう。
異世界である世界でそんな事が起こりうるはずがない。
という事は平行世界?そんな世界があると蒼の剣が言っていた。
「…………フレデリカさん!ちょっと聞こえているの?聞こえているなら返事をしなさい!」
耳元の怒鳴り声で我に返る。
いけないいけない。
突然の出来事に、なんて妄想をしているんだ私。
この世界が異世界ではなく、私のいた世界だなんて。
「ごめんなさい真琴さん。ちょっと考え事してしまって。結局のところ『銀髪の冒険者』とは……なんなんですか?」
蒼の剣が進路の修正を促す声が聞こえるが、この問題を先に解決しないと集中ができない。時間に余裕がないのはわかっているから、とりあえず結論だけでも出してしまいたい。




