作戦開始時刻 その1
「3……2……1……作戦開始です。各自、現状のまま待機。無線は常にオープンでお願いします」
時間はお昼の十二時。
耳に付けた通信機器から作戦開始の合図が聞こえた。
私が待機している場所は『カマクラ』と呼ばれている場所。
どうやら、ここが現在の観測結果から導き出された落下予測地点らしい。
あたりには、沢山の人が溢れかえっている。
今日は、この国の休日であり、ここは有名な観光地らしい。
隣を見ると、緊張した面持ちの凛ちゃんが晴れ渡った青空を見上げていた。
「ねぇ。この国の人たちは世界の危機の事なんて知らないんだね」
この世界にいる数少ない友人の不安を和らげる為に、あたりまえである事実に関する話題を振る。
「そうですね。知ったところで逃げる場所なんてないのですから。それだったら公表しない方が混乱が起きなくて都合がいいんですよ。知っているのは国の上の方の人と女坂探偵事務所の一部の人間だけですよ。それでも千人近くの人が動いているらしいですけど」
緊張からか、彼女の口調もいつもより堅い気がする。
「フレデリカさん。余裕ありますか?よかったら神頼みでもしてみます?ちょうど真後ろが本宮ですから。それとも『おみくじ』でも引いてみましょうか?」
引きつった表情から無理矢理に笑っているのがわかる。
先の言葉は、この場を和ませる為に口にした、彼女なりの精一杯の冗談なのだろう。
ここは神様を祀っている神殿みたいなところらしい。
『おみくじ』とは占いの様なものだという。
一瞬、やってみようかと思ったけど、最悪な結果が出てしまったら洒落にならない。やっぱりヤメておいた方が無難だろう。
「大丈夫だよ凛ちゃん。私も全力で挑むし。何より私には蒼の剣がついているからね。この子は世界の誰よりも賢くて強いんだよ。その彼女が成功するって言うんだから。間違いなく助かるよ私たち」
こんな台詞で不安を取り除くことが出来るとも思えないけど、今の私に出来るのはこれくらいだ。
それから五分を過ぎたころ……
ビィービィー!
耳に付けた通信器から、けたたましい警告音が聞こえてきた。
「落下予測地点絞り込み完了。座標出ます!経度……緯度……」
何かの数字が読み上げられるが、私の知識では理解できない。
よって私は、隣にいる友人に頼るしかない。
「凛ちゃん!」
「はい!確認します……これは……江ノ島?フレデリカさん。えっと……おぼえていますか?タコをプレスしたやつを食べたところです!」
はっきりおぼえている。楽しかったなぁ。
魔界にいる触手モンスターのミニチュアみたいな生き物を、食べ物っで聞いたときには『うぇー』ってなったけど、覚悟を決めて口に入れたらパリパリして香ばしくて美味だった。
それに、久しぶりに海を見た。
太陽はギラギラで、風はビュンビュンと強くて。鼻腔をつく海の匂いが懐かしくもあり新鮮にも感じたり。
そうだ。この任務が終わったら、もう一度みんなで遊びに行こう。今度は水道さんも一緒に。
「そうです!その塔がある場所がちょうど予測落下地点です!」
ふふふ。凛さんと巫女さんの三人で遊んだ事も、全くの無駄じゃなかったってことね。あそこは楽しい思い出でいっぱいだ。
「まかせて凛ちゃん!あそこな余裕で跳べるよ。沢山はしゃいじゃったからね」
「そうでしたね。フレデリカさん楽しそうだった」
「うん!みんなと一緒で楽しかったよ。それじゃあ行ってくるね。まだ行っていない場所とかあるし。絶対に成功させるから」
「はい!フレデリカさん。いってらっしゃい」
この女神の微笑みは幸運の御守りになる。
「さて……フィールド展開。蒼の剣、行けるよね?」
魔力フィールドを展開し、背中にいる相棒に出発の合図を送る。
それにしても……
さすが『超人水道真琴』だ。今いる地点から目標までは比較的近い。事前の予想が的中しているということだ。
おかげで瞬間移動の成功率も一気に高まる。
「はいマスター。問題ありません。こちらでも座標を固定。跳躍先は塔の頂上」
目を閉じイメージを強める。
「……行きます!跳躍!」
体の重さが消失する感覚に陥いる。
でも、そんなものは一瞬だ。
目を開くと、キラキラと輝く海が広がっている。
下に目をやると、親子や恋人、友達どうし。いろいろな人たちが楽しそうに時間を過ごしている。
こちらに気付いた小さな女の子が、こちらを見て手を振っている。
私も手を振り返す。
笑ってくれた。可愛いなぁ。
この世界を救う口実が、また一つ増えた。




