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アキハバラ


              1


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「ちょっとフレデリカさん!息使いが荒いですよ。もう出ましょうよ。こんなところ不健全です。あと私まで同類に思われたくないですから」


 早坂凛が、声を押し殺しながらも強めの口調で私の耳元で囁きかける。


「で、でも。こんなの私……初めてで。この本ってなんなんですか?男の子同士が絡み絡みってますけど。女の子同士なら経験ありますけど。でも、こんなの見た事ないのです」


 巫女さんに手を引かれて入ったお店。

 並んでいる商品から本を扱っているお店なのは分かった。

 ただ、表紙に描かれたイラストが何やらおかしな事になっている。

 頬を赤らめた男の子二人が、恍惚とした表情で顔を近づけ寄せあっている。

 

「だからフレデリカさんは、こんなのに毒されたら駄目ですよ!一刻も早く去ります……えっ⁉︎女の子同士の経験って⁉︎」


 目の前いっぱいに広がる異様な絵柄を持つ本の陳列に目が回り、目の前がチカチカしてきた。


「はい……私も長時間の滞在は精神的によろしくないと感じます。申し訳ないのですが手を貸してください。すでに私一人の力じゃ。お願いします凛さん……ぐはっ」


 初めて接触した文化に耐性ができていない私の身体が何かを訴え始める。


「フレデリカさん。脱出しますから私の手を離さないでくださいね。階段あがりますよ……はい。右足から前に出してください。さぁ、イチ、ニイ」


「凛さん……巫女さんは……巫女さんを置いていくのは……巫女さんも一緒に……はぁ、はぁ」


「あの子は腐食の進行が早くて手遅れです。置いていきましょう。大丈夫です。彼女は完全に腐ってます」


 足の親指に力を込めて一段一段階段を登っていく。

 狭くて細い階段の両脇の壁には、先ほど見た本の表紙と同じ属性のイラストが貼られている。


「フレデリカさん。あと少しですよ。真っ直ぐに前だけを見て下さい。イチ、ニイ、イチ、ニイ」


 頭上に光が見えてきた。

 急勾配な階段を、スローペースながら確実に地上へと進む。

 最後の一段を蹴り、太陽の下へと生還を果たす。


「フレデリカさん。もう大丈夫ですよ。さぁ。ゆっくりと深呼吸をしてください。さっき見た怖いものは忘れましょうね」



 

              2


「ひどいじゃないのよ。妾を置き去りにするなんて。あなた達二人には神の罰が下ることになるのよ」


 冷たいミルクコーヒーをストローでチュウチュウ吸っている。

 地下にあった謎の書店に置き去りした事でお怒りみたいだ。

 口を尖らせたままストローを使っている。なかなか器用だ。

 

「巫女さん。最初から私は嫌だと言ってました。それなのに巫女さんが無理矢理フレデリカさんを如何わしいお店に連れ込むからですよ。私だって、フレデリカさんのこと放っておけるわけないじゃないですか、もう」


 やっぱりだ。この子は聖女に違いない。

 出会ったばかりの私のことを、こんなに心配してくれるなんて。

 私が男なら即お嫁さんに頂く。


「まぁ凛はいいのよ。あなたとは属性そのものが相反する存在である事が判明しているから。それで?フレデリカの弁明を聞くとするのよ」


 いきなり矛先が変わった。

   

「えっ?私?私は……えっと、記憶がおぼろけで」


 あまりのカルチャーショックで一部の記憶が欠落している。


「そんなベタベタな言い訳が妾に通ずると思っているのかしら。見くびられたものなのよ。それが言い訳として通じると考えているのは、日本の政治家全般とと水道真琴だけなのよ」


 い、いや。本当に記憶が……


「あっ……えっ……?あの……あっ」


「ちょっと巫女さん!フレデリカさん困ってるじゃないですか。私だって、あ・あ・い・う・お店は苦手ですよ」


 私の天使が助け船を出してくれる。


「ははは……慣れれば大丈夫になると思いますけど。それにしても、ここって巫女さんか凛さんの別荘か何かなんですか?」


「えっ?違いますよ。何故ですか?」


 早坂凛が不思議そうな表情で私の顔を覗き込む。

 あれ?何かおかしな事言った?


「えっ?だってお手伝いさんがいるから。メイドさんの服着ている人いるし……って違うの?」


 んっ?巫女さんが笑いを堪えているように見える。

 

「いえ、違うんですよ。ここはカフェ……というかメイドカフェっていうもので。そのメイドカフェの中でも比較的普通のお店で。つまりは、一つのコンセプトをテーマとした喫茶店みたいなものなんですよ。まぁ、秋葉原という街が持つ独特の文化ですね」


 早坂凛が、すごい丁寧に説明してくれた事はわかるのだけど。

 しかし、その内容がサッパリ入ってこない。

 とりあえずわかった事は、この『アキハバラ』という街が独自の文化を持ち発展してきたという事だ。

 更には、この街にいる人々の皆がアキハバラの文化を心の底から楽しんでいる。

 

「なんか難しいけど、全てが新しくて断然興味が湧いてきました。よかったら他の場所も教えてください!私、アキハバラの事もっと知りたいです」


「ほんとですか⁉︎そうしたら次は、私の得意な場所を案内しますよ!さぁ。巫女さんも早く飲んじゃってください。次に行きますよ!」




              3



「ちょっと凛ちゃん。いい加減にして事務所戻るのよ。遅くなると水道真琴が怒髪天になるのよ」


「大丈夫ですよ。今日はフレデリカさんの接待後は直帰でもいいって言われてますから。そもそも、遅くなった要因として、巫女さんが怪しげで如何わしい本屋さんに長居した事もありますから……っと甘いです!」


 かれこれ二時間ほど。

 早坂凛がモニターが付いた大型の機械を操作している。

 その機械の画面では何かのキャラクター同士が戦っていた。

 そして、私が観戦している二時間の間。連勝し続けている『巨大な鎌を持つ少女』が早坂凛の操るキャラクターである。

 この大型の筐体は『ビデオゲーム』という、ディスプレイに映像を映し出し楽しむ娯楽の一種らしい。

 早坂凛がやっているのはビデオゲームの中の『格闘ゲーム』と呼ばれるジャンルみたいだ。

 二時間ほど観察した結果、早坂凛は見知らぬ人間と対戦をしているみたいだ。


「凛ちゃんは格闘ゲームの有名プレイヤーらしいみたいなのよ。よく知らんけどね。だから次から次へと挑戦者が現れる。あの子、一回分のクレジットで閉店まで遊べるわよ。なんてコスパのいいゲームかしらなのよ」


 なるほど。つまりは格闘ゲームの天才ということなのだろう。

 あの子って本当に何でも出来るのね。ルックスも可愛いし。

 やっぱり神様は不公平だ。ますます神が嫌いになっていく。


「ねぇ。見ているだけじゃフレデリカも退屈じゃないの?お金はあるから好きなので遊んでくればいいのではなくて?」


 巫女さんが小さな巾着袋をくれた。

 ジャラジャラと音がした。この国の銀色のお金が入っている。

 お店にある機械にはコインを入れる穴があって、そこにお金を入れれば、そのゲームを遊ぶ事が出来る。


「はい。ありがとうございます。でも、この格闘ゲームは見ているだけでも勉強になりますよ」


「勉強?ただのゲームなのに?」


「はい。意外と実用出来そうな技とかあるんですよ。これ考えた人って天才ですよね。魔法とか存在しない世界なのに、こんなアイデアが出せるなんて。あの釘を相手の体に撃ち込んで、内部から爆破するとか実用性十分ですよ!」


「フレデリカ……怖いことを笑顔で普通に言うわね。あっ、そうだった。フレデリカは戦闘力五十三万の最強さんだったわね。見た目が普通の女の子だったから忘れていたのよ」


「普通に見てくれた方が嬉しいですよ。ふふっ。それよりも五十三万って何の事ですか?」


 戦闘力とか言っていた。この世界では力の強さを数値化出来るのだろうか。


「いえ。こっちの話なのよ。まぁ褒め言葉だと思ってくれていいのよね……って言うか、もう閉店時間なのよ。凛ちゃーん!もう終了の時間なのよ。終わりにするのよ」


「えっ?もう時間ですか?じゃあ、これ最後にしますね……うりゃ!ボディがお留守よ!」


 コントローラーを操り、相手キャラの腹にボディブローが入る。

 次の瞬間、画面に『K.O』の文字と共に勝利が告げられた。

 凛ちゃんが拳を握り私に向けて手を振っている。

 ガッツポーズの凛ちゃんも可愛い。

 

「これってアレね。今日覚えた言葉で言う『萌』ってやつだわね』





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