異世界転移? その4
1
嫌悪感と虫唾が走る。
腐った肉を喉奥に詰め込まれた様な不快感と嘔吐感が止まらない。
「うっ……これは犠牲者……しかも女性と子供ばかりの……」
現場の写真だろうか。惨たらしい犠牲者の姿。
衣服を剥がされ傷だらけの体。苦悶の表情のまま息耐えた女性。
もはや人の姿をとどめていなものもある。
「わかったのかしら?コイツらは、他者に命を奪われても文句は言えない奴ら……いいえ。言わせはしないの。あなたも悪魔でしょ?人の命なんて平気で奪ってきたのでしょうに。あなたもコイツらと同類よ」
「ち、違う!私は……」
私の背負っている十字架の重みが増した気がした。
この巫女の言うとおりだ。
私は大勢の人の命を奪った。
更生のチャンスどころか、命乞いした者も問答無用で斬り捨てた。
二百年以上経っているのに十字架の重みは増すばかり……
当然だ。この罪は、私が死ぬまで祓われることはないのだから。
「何なのよ?その顔は。それは涙なのかしら。訳がわからないのよ。まぁ、どうでもいいのよ。お前には契約の内容だけ果たしてもらえばいいのだから」
巫女の一言一言が胸に突き刺さる。
重い……全てが重く感じる。
手の中にある紙の資料までもが重い。
胃から逆流するものを必死に抑える。
「あらヤダ。私まで不安になってきた。不味いのよ。妾としたことが、ほんとうに失敗したのかしら。時間がないっていうのに。他に手があるかどうか……」
「いいわよ……何でもやってやるわよ。早く要件を言いなさい……」
今の私がすべき事は……
この契約を完了させる事だ。
そうしないと、契約破棄の代償として、私の命を捧げないといけなくなる。魔界の居城に残してきた天使たちの事も心配だ。
まぁ彼らは私の事なんて、なんとも思っていないかもしれないけど。
「やっと話が通じたなのよ。最初から妾の命に従っていれば無駄な時間をかけなくてもよかったのに。それじゃあ私についてくるのね。さぁ。こっちよ」
2
見た事のない家具が置かれている。
無機質な机や椅子。
椅子の脚には車輪が付いている。椅子を走らせて何をするのだろうか。理解に苦しむ。
「さぁ。どうぞ。座って」
車輪の付いた椅子に着席を促される。こんなものに座って大丈夫なのだろうか。
警戒しつつ、ゆっくりと謎の椅子に腰掛ける。
特に異常は感じられない。
少しだけ体重を後方にかける。
なるほど。そういう事か。
この椅子は腰掛けたままでも移動ができるのだ。
それに座っている部分がクルクルと回るようにできている。これなら腰掛けたまま向きを変える事ができる。
「事務椅子見て何を目を輝かせているのか。変わった悪魔ね……」
巫女の視線が突き刺さっているのを感じる。
「そんな事より早く要件を言いなさい。さっさと済ませて帰らせてもらうから」
「あら。頼もしいのね。でもちょっと待つのよ。さっき出て行った責任者を呼び戻しているところだから。これはビジネスなんだから名刺交換が必要なのよ。仕事相手の名前くらいは知っておきたいでしょ?」
「名刺?自己紹介の事かしら。そんなもの私は必要ないわよ」
ガチャ
扉が開く音がした。
その方向を見る。
長い黒髪の女が入ってきた。
顔の造形は整っているが、表情から機嫌が悪いのがわかる。
「ねぇ?呼び出されたという事は、何か良策が出てきたのかしら?あら。さっきの銀髪の女の子じゃない。もう帰って大丈夫よ。あなたじゃ、どうにもならなそうだし」
なんなんだ。この偉そうな態度。鼻につく。
帰っていいだなんて。出来る事ならそうしている。
「真琴さん。どうやら見た目で判断しては駄目なパターンらしいですよ。この子の持っている青い剣らしきもの。とてつもない力を感じるのだよ」
「巫女さん。あなたの事は信用しているわよ。でもねぇ。こんな女の子がねぇ。何一つ出来そうもなさそうじゃない。髪の色も変だし」
私の事を蔑んでいるのがわかる。そういう視線だ。
「ねぇ?あなた。どうせ何も出来ない世間知らずの小娘なんでしょ?そんな髪色に染めるなんて普通じゃないわよね」
苛つくなぁ。この女の望む様には絶対動いてやらない。
「そうね。私はただの女よ。特別な力なんて持っていない。あなたの言う通り、何の取り柄もない普通の人間だわ」
こちらを見る目を睨み返す。
私からは絶対に目をそらさない。
でも何だろう。この女の目を見ていると……この感じ。
私の全てが支配されてしまいそうな感覚に陥いる。
「巫女さん。わかったわよ。この子……本物よ」
「えっ?」
いま何て言った?
何がわかったというの?
「それじゃあビジネスの話でもしましょうか。銀髪の悪魔さん」




