1.レオ先生の団体レッスン
「ムーーティカティカターー」
レオ先生が独特な擬音語を口ずさみながら、3人の女子と順々に踊っていく。皆、難しいステップを上手に追随していて、見惚れてしまう。
「ハーイ、ゴリ」
レオ先生がこちらに右手を差し出す。
ああ、次は自分の番だとはわかっていたけれど…
これまでいくつかの社交ダンスの団体レッスンを受けてきたけど、どこも男女で組んで踊る前にステップの説明があった。今日の団体レッスンは、ホームページで見つけたフィンランド人の先生が魅力的だったから、軽い気持ちで参加した。英語も社交ダンスも少しできるつもりだったけど、いざ始まってみると、ナイストゥミートゥー、アイムゴリ!から10分も経っていないのに、すっかり自信をなくしてしまう。
レオ先生がこちらを見つめてくる
私は左手を差し出し、レオ先生の右手を取る。
最初のステップは、慣れ親しんだオープンヒップツイストで、その後のステップが回るように伸びてよく分からない。
「フィールフリー、タノシンデ」
「ハ、はいっ」
最初はオープンヒップツイスト、あとは…
逡巡して足が止まると、レオ先生は俺の手を少し強く握りしめ、女性の足型をゆっくりと踊り続けた。
「グーッド!」
何がグッドだったのか、よく分からないけど…
今日の参加者は女子3人で俺1人だ。
レオ先生は俺とのダンスが終わると、皆の方に向き直る。
「レッツダンス、ユカーリチャン ウィズミー、ミユーキチャン ウィズゴリー」
「ゴリさん、お願いします」
ミユーキチャンが近づいてきて会釈する。
「あ、おぼ覚え切れてないんですが、よろしくお願いします。」
思わず言葉が詰まる。覚え切れていないどころか、全然覚えていないのに。恥ずかしいな。
「私もレオ先生について行ってるだけだから覚えられてないですよー。あははっ」
オープンヒップツイストまで踊って固まる。
「むつかしいですねー。あははっ」
そこから残りの2時間のレッスンは長かった。今まで受けてきたレッスンでは説明の時間があったが、レオ先生はひたすら踊り続け、私たちを踊らせた。3人のフォロワーさんとレオ先生とのローテーションを繰り返しながら、私はただただ混乱していた。フォロワーさんたちは徐々に慣れて上手くなっていく中、私は地蔵のようになっていた。
少し理解できたかなと思うと、レオ先生は新しいステップを追加し、ますます混乱する。
私はミユーキチャンとぶつかってしまった。
「ごめんね。間違えてぶつかっちゃった。あははっ」
いや、ぶつかったのは私が動けないからなんです。申し訳ありません。早く逃げ帰りたいです。
しかし、ミユーキチャンは笑顔を絶やさず、本当に可愛らしいなと思った。
レオ先生が英語で何かを話す。
私はボーッと眺めているとどうやらレッスンが終わったらしい。
「シーユーネクストタイム」
長かった。
ミユーキチャンが話しかけてくる。
「ゴリさん来週も来るよね?」
「はいっ」
思わず、はいと答えてしまう私であった。