力の寝覚め
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【登場人物】
▼遺伝子能力養成学校高等部3年生
[サンダー・パーマー=ウラズマリー]
金髪の活発な青年。電撃系の能力を持つ。
サンダー・P・ウラズマリーから「プラズマ」というあだ名で呼ばれる。
結構なバカ。
[セリナ]
プラズマの幼馴染の女の子。
勤勉で真面目な性格。氷の能力を操る。
[ルーノ・スクラブ]
プラズマのクラスメイト。
プラズマが幼馴染、美人師匠に囲まれていることを妬んでいる。
セリナ曰く“プラズマの周りを飛びたがる衛星というか虫みたいなもの”らしい。
▼プラズマ周辺者
[アリス・ジア]
電撃の能力を持つ女性で、プラズマの師匠。
男勝りな性格。
[レオン・アイシー]
氷の能力を持つ男性で、セリナの師匠。
▼プラズマを狙う影
[ウィンド]
プラズマを狙う緑髪の青年。
ギリア、バリーと行動を共にする。
[ギリア]
アリスと対峙した男。空間を作用させ物を吸い込むような能力を持つ。
[バリー]
アリスと対峙した男。岩の能力者。
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「……なせ……」
「はなせ……」
「セリナを離せ!!!」
言葉と共にプラズマの体は閃光を放ちながら光の速さでウィンドに体当たりした。
まるで小さな雷のように、小高い轟音が遅れて響き渡る。
体当たりの衝撃でセリナはウィンドから解放され床に落ち、ウィンドは勢いよく壁に打ち付けられた。
「クソっ……体を電撃化……!」
予想外の攻撃にウィンドはやや冷静さを失っている。
「お前にそんな芸当はまだできなかったはずだ!!」
それもそのはず。
ウィンド達がプラズマの修行を観察していたときは、体を電撃化することはおろか、自身から電撃を発することさえ満足にできていなかったからだ。
「彼らは成長します。それもすごいスピードでね」
学校長のイヴ・パラムは、気品を漂わせ、肩まである赤髪を揺らしながら前へ出た。
「学校長直々にお出ましとはおれも有名になったな。ボスの命令か?パラムさん。おれの部下たちはどうした?」
イヴはウィンドの問いに、冷たい口調で答えた。
「消えていただきました。そして今からあなたもね」
指先から青色の球体を発生させると、手を前へ振ってその球体を宙に放つ。
その球体はどんどんと拡張し、楕円形の空間のようなものを形作った。
するとそこに向かって風が吹き込み、ウィンドを吸い込もうとする。
「本当にこいつの能力は厄介……だな……」
吸い込みに何とか耐えようとするウィンドだったが、次第に耐えれなくなり、宙に浮く空間の中へと吸い込まれていった。
「ウラズマリーーー!!!」
最後にそう言い残してウィンドは異空間へ消えていく。
さっきまでの轟音が嘘だったかのように音をも吸い込みむと、楕円形の空間は次第に収束し、静けさだけがその場に残った。
「なんかあっけなかったな」
アリスが少し安心したように言う。
「2人とも大丈夫ですか?学校の医務室へ急ぎましょう」
パラムが黒色の空間を開き、プラズマにそこへ入るよう促した。
プラズマは躊躇しながらもその空間へ入ると、そこには見慣れた風景、学校の医務室だった。
続いてパラムが空間から現れ、その後ろからセリナも現れた。
「あら、セリナさんも来ましたか」
「では、治療を始めましょうか」
パラムはそう言って、レールカーテンで仕切られた個室にプラズマを招き入れ、治癒の煉術で治療を始める。
「彼らの目的ははっきりとはわかりませんが、パーマー君を狙っていました。私も最近の風には気づいていたのですが、後手になりましたね」
パラムは険しい顔でさらに続ける。
「セリナさんはどう思いますか?彼らのこと」
セリナは少し考えてみたが、首を振った。
「まぁ、何はともあれ無事で何よりでした。あなた方の師匠にも言っておきますので、卒業までくれぐれも気をつけてくださいね」
一瞬で治療を施したパラムはそう言って医務室を後にする。
「……帰ろっか」
セリナもパラムの後に続くが、プラズマは逆方向に歩き出した。
「先帰っててくれ。ルーノと話して帰る」
「なら私も。一応お見舞いしてやらなくちゃね」
セリナの言葉に応えるように、すぐ近くで声が発せられた。
「聞こえてるぞ」
プラズマは声の元である個室のレールカーテンを静かに開ける。
中には未だ痛々しい姿をしたルーノがベッドから上半身のみを起こしていた。
「ルーノ、お前でかい病院に移送されたんじゃないのか?」
「バカ言うなよ。大病院なら医星行きだろ?」
プラズマ達のいる礎星の隣、医療の星として知られる医星には十分な医療設備、医師が揃っていた。
そのため医星の周囲にある星のみならず、銀河中からしっかりとした治療を受けるために医星に押し寄せていた。
「俺が医星に行くってなったら、お前も“お見舞いに行く!”とか言って無理にでも来るだろ?」
「あぁ、行くな」
ルーノは“やっぱりか”と言わんばかりに呆れたようにため息をついた。
「まだ星間パスポート持ってないだろ?不法入星だぞ?」
そんな二人のやりとりにセリナが割って入った。
「本当にそれだけの理由でここに残ったっていうの?」
「あぁ、それだけだ。学校長にも話は通した。」
「学校長に……なるほどね……」
ルーノは神妙な面持ちでプラズマの方に視線を向けた。
「プラズマ、俺はもう卒業試験は受けられない。留年だ。すぐには銀河に出られない」
「プラズマ。俺な、銀河に出たかった」
「恥ずかしいから言わなかったけど……」
「俺はいつかMy Geneを見つけるのが夢なんだ」
唐突に打ち明けたルーノ自身の夢。
それは御伽噺と笑われ、存在を信じようものなら精神異常を疑われるような伝説。
そのMy Geneをルーノは求めていた。
「きっとMy Geneがこの世の悲しみや憎しみを……」
ルーノは最後まで言い切らなかったが、その想いには真剣そのものだった。
「ルーノ、お前……」
「プラズマ、お前はこれからどうするんだ?」
「俺は……宇宙に出る。それでいつかMy Geneを見つけてこの世から争いをなくしたい」
「今お前に言われたからじゃない。なんでかわからないけど心の底からそう思うんだ」
「そうか……」
ルーノはまっすぐにプラズマを見つめている。
「ならお前に託していいか?My Geneの夢……」
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▽▽
▽
~アリス自宅~
「敵にさらわれるなど修行が足らん。明日から覚悟しとけ」
アリスはプラズマに背を向けた状態で腕を組み、厳しく言い聞かせる。
「安心した顔でそう言われてもなぁ?プラズマ」
背を向けたアリスの顔を覗き込んだレオンがプラズマをフォローする。
「レオン!お前言うんじゃねぇよ!」
アリスはレオンの腹を殴る。
「まぁあいつらのことは私らに任せてあんたは卒業試験のことだけ考えてな」
「卒業試験……もう一週間しか無い……」
思い出したくないことを思い出してしまったプラズマは絶望に打ちひしがれている。
「大丈夫!煉術は簡単だからきっとできるよ!」
優等生セリナのガッツポーズ。
“お前の簡単はあてにならん”とプラズマの不機嫌そうな顔に書かれている。
そしてその横でアリスの悪魔のような笑み。
「心配ない、出来ない方が難しいくらい追い詰めてやる」
~卒業試験当日・遺伝子能力養成学校試験場~
学校の隅にある卒業試験場に大勢の高等部3年生が集まっていた。
一人一人煉術の試験を受けていくが、今のところ落ちた者はいない。
すでにセリナも合格し、プラズマの出番が刻々と迫ってきていた。
そしてついに……
「次!サンダー・パーマー=ウラズマリー!」
「火水風木土の順に出し、的に当てて行くように。各基唱5回の猶予がある。それ以上外した時点で不合格だ。いいな!始め!」
「(あのおっさんが出してたように……)」
ホログラムの映像を頭で描きながら、手から炎を出し、うずらの卵程の火球を放つ。
しかし勢いよく放った火球は、的3つ分くらい左を通り過ぎた。
「(落ち着け!おれ!)」
プラズマは自分で自分を鼓舞しながら、呼吸を整える。
集中して放った火球は辛うじて的の端に当たり、なんとか火唱をクリアする。
「次!水唱!」
「(水に浸かったあと水が滴るイメージ……)」
手の先からビー玉程の水の球を出し、一発で命中させた。
「よしっ!」
その後風唱はそよ風をかろうじて固めたような風圧を、木唱は今にも地面に落ちるのではないかというレベルの蔦を伸ばし、順調(?)に一発で命中させる。
「最後!土唱!」
そして最後。
一番苦手だった土唱。
「(風で砂を集めて固める様に……)」
プラズマは砂を掌の上に集め飛ばすが、的には当たらない。
「くそっ……!」
二発、三発、四発と飛ばすが的には命中しない。
「次がラストだぞ」
「プラズマーーーーー!慌てないで!今朝までは百発百中だったんだから!!」
セリナが大声で声をかける。
「そうだ。最後の一発じゃない。いつもの一発だ。いつも通り……」
そう心を落ち着かせて放った土唱は、見事的のど真ん中に命中した。
隣の的に。
「う、うそ……だろ……?」
プラズマはその場に崩れ落ちた。
そして試験官である教員から残酷な言葉が発せられる。
「パーマー……残念だが不合格、落第だ……」
To be continued.....
【EXTRA STORY】
~アリス自宅~
「プ、プラズマ……試験……受かるかな……」
「大丈夫だ!な、泣くなって……!」
To be continued to next EXTRA STORY.....?