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【完結】My² Gene〜万能遺伝子と宵闇の光〜  作者: droegg
第6章 伝説のエンターテイナー [娯星]
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火と水の夜明曲

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【登場人物】


 [ラルト・ローズ]

 没落名家ローズ家の出身。元政府軍中佐。

 炎の遺伝子能力者。


 [水王 涙流華]

 没落名家水王家の出身。水王家次期当主の侍。

 水の遺伝子能力者。


≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


挿絵(By みてみん)






「ほらラルト。挨拶しなさい」


 その子に初めて出逢ったのは、俺が5歳のときだった。


「ラルト・ローズだ。よろしく」

 そう言って俺は手を差し出したのを覚えている。


 当時名家の一つだったローズ家は、5つある名家の中でも水王家に並んで歴史が長かった。


 うちが名家で、且つ政府軍軍人をよく輩出していたこともあって、俺は幼少期から訓練を強いられた。


 親父は厳しい人だった。友達付き合いなどに(うつつ)を抜かす暇があれば訓練をしろ、とよく怒鳴られたものだ。

 そのおかげで俺に友達なんて呼べるものはなく、喋る相手と言えば訓練相手の大人だけだった。


 そんな厳しい親父だったが、5歳になったとき初めてうちに“客”を呼んだ。その客にも俺達と同じくらいの子供がいると聞いて、俺は表情にこそ出さなかったが心底嬉んだのを覚えている。


 その客こそが、当時の名家の一つ、水王家だった。


 後で聞いた話では、親父は反対していたが祖父(じいさん)が水王家との交流の話を進めていったみたいだ。


 元々ローズ家と水王家の交流はあったが、爺さんの代から特に盛んになっていったらしい。

 うちの爺さんと水王家九代目当主の水王行不地(いかずち)さんは公私ともに仲が良かった。

 行不地さんは当時の政府軍大元帥。うちの爺さんは政府軍元帥。ナンバー1とナンバー2だ。それでいて名家という昔からの繋がりもあった。爺さんたちも小さいころから交流があったらしい。


 当時5歳だった俺の目の前に現れた子は、青色の髪を後ろで結んだ女の子だった。ジパン族の……サムライと呼ばれる剣士特有の“ハカマ”という服を着ていた。

 父親の足元に隠れ、顔を覗かせるその子に俺が名乗って手を差し出したが、その女の子は父親のハカマに隠れてしまった。


「涙流華。お前も挨拶をしなさい。涙流華よりもお兄さんが手を差し出してくれたんだぞ?」

 その父親、木勝(きしょう)さんは笑いながらその女の子の背を押して、俺の前に押し出した。


「すおう……るるか……です」

 そのルルカという女の子はモジモジとしながら名乗った。


「ほら、まだあるだろう?」

 父親に催促され、ルルカは俯いたり、俺の方を見たり、を繰り返しながら言葉を紡ぎだす。


「おはつにおめめに…かかります。なにと…ぞおねがいもうしあげます」

 そう言い終えると勢いよく頭を下げ、その勢いでポニーテールが前に流れた。


 その姿を見て、俺の爺さんが俺の背中を叩いた。

「ラルト、これから長い付き合いになる。お前がルルカちゃんをしっかりと守ってやるんだぞ! お兄さんなんだからな!」


 それがあいつとの初対面だった。


 それからは月に数回互いの星を行き来して、一緒に稽古をしてみたり、水王家に泊まったり、キャンプをしてみたり…あいつは野営訓練と言っていたけど。


 俺が10歳、あいつが9歳の時の野営訓練。夏の夜、一緒に星を眺めたのを覚えている。

 俺の従妹のレミ、あいつの妹の千里華に挟まれて草原に座ってた。従妹たちは疲れたのか寝てしまったが、静かになったおかげで風の音が心地よかった。


「これからもローズ家と水王家、仲良くやっていこうぜ」


「うん」


「ルルカは来年の年始めからサムライになるんだろ?」


「うん」


「もう会うのも難しくなるのか?」

 

「今よりはむずかしくなるとおもうよ。侍のたいしゃに入ってくんれんしないといけないから」


「そうか」


「まぁ、また会いにいくさ。爺さんとレミと一緒に。訓練しなきゃいけないからな!」


「うん。まってるね」



 涙流華は侍になってメキメキと頭角を現した。あいつが侍になってからもローズ家と水王家の交流は続き、よく戦星に行っては本格的な実践訓練をしていた。


 涙流華が段々と反抗的になっていったのは気になったが、色んな話をした。これからの両家の話。涙流華が十一代目当主になる話。あと少しで軍団長になれるかもしれない話。俺が政府軍附属学校から政府軍軍人に内定している話。

 いつか、爺さん達を超える両家にしようという話。

 たまにぶつかったりはしたが、仲良くはやっていたと思う。

 かれこれ10年近く親交があった。俺にとってあいつは…境遇や文化こそ違えど、信頼できる存在だった。 


 これからもそんな日々が続くんだと思ってた。




 そうして、時は過ぎ……


 水王大元帥反乱事件が起きた。



 それからローズ家と水王家は仲違い。共に当主を失った両家は名家の地位を追われ、失墜した。

 俺が15歳の時だ。


 両当主が死に、両家の交流が途絶えてから2年が経ったときだった。

 当時はまだ生きていたうちの親父が、水王家に責任を追及するため戦星に行ったことがあった。

 水王行不地さんがうちの爺さんを殺した責任追及だ。


 もちろん俺もついて行った。


 何度も行った水王家だったが、今までとは雰囲気が真逆だった。


 ガキの俺でもわかるほどの殺気。

 水王家から見たローズ家は明らかな“敵”だった。


 それもそうだろう。水王家からすれば行不地さんにあらぬ汚名を着せた張本人がローズ家だと思っているのだから。結局は両家とも何者かに踊らされていたわけだが。


 そしてうち…ローズ家も水王家に対して鋭い殺気を放っていた。ローズ家にとっても水王家は“敵”だったんだ。


 敵地に踏み込んだ親父率いるローズ家は、十代目当主の水王木勝さんの待つ広間に入った。


 唯一の救いだったのが、木勝さんから殺気はなく、旧友に会うかの如き穏やかな雰囲気だったことだ。


 けど、俺の親父は違った。

 元々“強く威厳のある”ローズ家を狂信していた俺の親父は木勝さんともウマが合っていなかった。俺の親父は水王家のことを、よく言えば“ライバル”として見ていた。だから何かにつけて木勝さんに敵対心を露わにしていた。訓練でも何でもだ。


 対して木勝さんは一貫して大人の対応だった。水王家とローズ家は共に手を取り合って、というような出来た考え方だ。そういう対応が余計に親父のしょうもないプライドを刺激したのは言うまでもないが。


 “敵”として水王家と相対したとき、アイツとも会った。アイツはすでに軍団長となって、大勢の侍を率いていた。


 千里華(チリカ)は俺と目が合うと申し訳なさそうに目を泳がせていたが、アイツは一度も俺と目を合わせなかった。それどころか、一度も俺達ローズ家の方を向かなかった。


 一度ローズ家と水王家の者が揉めた時、ある侍の一閃で場が凍り付いた。

 ローズ家の者のスーツの袖が斬られた。“次は腕ごと斬り落とす”と言わんばかりの鋭い視線と共に。


 その侍は涙流華だった。

 

 俺は瞬時に理解した。

 ローズ家と水王家の……いや、俺と涙流華の関係は既に崩れ落ちていたんだと。

 

 その場は木勝さんが収めてくれたおかげで何とかなった。その後も木勝さん主導で“お互いに真実を究明する”というその場凌ぎに近い形で一応の解決となった。


 

 ……が、それだけでは終わらなかった。

 木勝さんの意向に納得しない者がいた。木勝さんのことを“ローズ家に譲歩する弱腰”として、水王家の家臣の一人、軍団長の如月(きさらぎ)(てつ)が立ち上がった。


 如月は木勝さんに不満をぶちまけながらも、ローズ家の者に遺伝子能力を伴い、斬りかかった。

 それを合図に一斉に如月家の者が武装蜂起した。さらには広間の外からも黒いローブを被った“敵”が何十人も乱入してきた。


 あれはおそらく如月家の者でもなければ水王家の者でもない。今となっては分からないが、当時の水王家の者達の狼狽(ろうばい)具合から、乱入してきた如月側の敵は他星の者達だろう。


 名家は没落すれば他星や奴隷商たちに狙われる。おおよそ如月家と組んで水王家を狙ったというところだ。



 敵はローズ家、水王家の見境なく攻撃をしてきた。

 すると、大量の蜂が広間に入って来るや、何者かに操られるように一体の龍のようにうねりながら水王家やローズ家を攻撃した。


 蜂の大群に邪魔されながらもそれぞれが乱戦となる中、俺にも攻撃の手が襲ってきた。


 飛び込みながら打撃を繰り出す黒ローブの人物。咄嗟に避けると、木張りの床は粉々に砕けた。相手は小柄で鉄製の手甲を装備していた。俺が遺伝子能力で炎を出そうとしたが、その時はなぜか炎を出すことができなかった。おそらく相手の誰かが能力を無効化しているのだと考えていたのだが、その一瞬の隙を突かれ、相手は俺の顔面に打撃を繰り出した。


 正直あの時は死を覚悟した。床を粉々にするほどの力に鉄製の手甲。頭など容易に砕ける。



 しかし……俺は間一髪のところで青色の髪をした女の侍に助けられた。

 その侍は刀で打撃をいなしたのだ。


「涙流華……!」

 

 涙流華は近くで体勢を崩す黒いローブの人物に左の回し蹴りを繰り出した。

 しかし黒ローブは涙流華の蹴りを掴むと、時計回りに捻り体勢を崩させた。涙流華の体は回転し、右脚だけでバランスを取っていたため、不安定になり地面に向かって前のめりに倒れそうになる。なおも涙流華の左足は敵に掴まれたままだった。



 涙流華と目が合った。一瞬の出来事だったのにスローモーションのように時が流れ、周りの喧騒にフィルターがかかったかのように、全ての意識が涙流華へと集まった。


 涙流華と見つめ合った時間は実際は1秒どころか0.5秒もなかったが、とても長く感じた。


 すると涙流華は突然右手に持っていた刀を投げ捨てた。


 その瞬間、気づくと俺は手のひらを上に向けて左手を彼女に差し出し、右肩を彼女に近づけていた。

 そして涙流華も同じように俺の手を取るように左手を伸ばした。互いの左手は重なり、俺は彼女の手を下から支えるように力を入れた。


 そして涙流華は俺の右肩に右手を置き、軸足となっている右脚で地面を蹴ると、俺を軸にして左回転しながら右脚で強烈な蹴りを繰り出した。


 その様子はさながらアイススケートの演技のようだった。

 あいつはアイススケートなんて知らないだろうけど。


 涙流華の蹴りは敵の左顔面に鋭く入り、体を大きく吹き飛ばした。


 敵は大きな衝撃に気絶したのか、仰向けに倒れたまま動かなくなった。

 

 そこから遺伝子能力が使えるようになり、周りも徐々に優勢となっていった。

 勝機が薄いと感じたのか、黒ローブの一人が合図を出すと、敵と如月家の者達は一斉に退散していった。


 この件については水王家自身も襲われていたこともあり、ローズ家は責任の追及はしなかった。


 戦闘が終わってから少しの間、俺と涙流華は無意識に身を寄せ合っていたが、程なくして互いに目も合わせることなく離れていった。


 元から何の関係もなかった赤の他人かのように。



―お前がルルカちゃんをしっかりと守ってやるんだぞ



 昔に聞いた爺さんのその言葉が俺の中で反芻(はんすう)していた。




 何なんだ。俺は。





 それ以降両家の交流はなくなり、水王家との……涙流華との縁は完全に切れた。



 と思っていたがあの馬鹿(プラズマ)のせいで、またアイツと会うことになり、またこうして共にいる。

 

 二度と水王家と関係を持つことなく、元名家という肩書を持った軍人として政府軍の一歯車として一生を終えるんだと思っていた。

 涙流華とももう会うこともなく、昔は交流があったというだけのただの他人のように薄れていくのだろう。

 いずれこの気持ちにも整理がつく。“小さいころは大事にしていたもの”が大人になるにつれて、年月が経つにつれて段々と自分の中から消えていくと信じて。


 けど…

 



 消えない。消えるわけがない。消したくなかった。

 心のどこかで、“またいつか”と。


 行動を起こすわけでもないのに。



 そしてそんな情けない俺に、偶然にも機会(IMIC)が巡ってきた。


 だから俺が今度こそアイツを……





AGIS(エイジス)…」


着視引火炎イグニション・オブ・ビジリティ





 涙流華となら、必ず倒せる。





To be continued.....

【EXTRA STORY】


~水王家・如月家離反直後~



涙流華(ルルカ)様……? もう夕餉(ゆうげ)の時間が終わってしまいます…」


「涙流華様……」



「八千代!」


千里華(チリカ)様…!」


「姉上。出て来てください」



『…………』



「ローズ家と二度と会えないわけではありません。きっといつかまた会えます」



「食べないと力がつきませんよ」


「まだ八千代と私、それに茉雛(まひな)も食べていません……一緒に食べませんか?」




『もう……放っておいてくれ…』



「お姉ちゃん……」



 To be continued to next EXTRA STORY.....?

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