政府軍の影
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【登場人物】
▼何でも屋
[サンダー・パーマー=ウラズマリー]
金髪の活発な青年。電撃系の能力を持つ。
サンダー・P・ウラズマリーから「プラズマ」というあだ名で呼ばれる。
遺伝子能力養成学校高等部を卒業し、輸送船に忍び込んで宇宙へと旅立った。
[バリス・スピア]
元軍医で、毒の能力を持つ医者。
薄紫で、天を衝くようなツンツン頭。目つきが死ぬほど悪い。
どんな病でも直す幻の植物を探すため、医星を出てプラズマと旅をすることになる。
[水王 涙流華]
元名家・水王家の侍で、水の遺伝子能力者。
プラズマ達に妹を救われた一件で、自分に足りないものを探すため、水王家当主から世界を回ることを命じられる。
▼政府軍
[ラルト・ローズ]
白色の長髪で、いつもタバコをふかしている政府軍中佐。
口が悪く、目つきももれなく悪い。
炎の遺伝子能力者。
[ブラスト・オール]
政府軍トップの大元帥。
[ラバブル・ラバーズ]
政府軍ナンバー2の元帥。
▼その他
[セリナ]
プラズマの幼馴染の女の子。
勤勉で真面目な性格。氷の能力を操る。
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取調べ室へと歩いていくボルボン大将とデーモン上級大将。その背中をプラズマは見つめていた。
「なんか、あっちの白髪の人、感じ悪かったな」
プラズマのつぶやきにマイヤードが応える。
「ボルボン大将? そりゃぁ【死神】って二つ名があるくらいだからねぇ」
「物騒な二つ名だな」
バリスが鼻を鳴らした。
「大元帥指揮事件の捜査や戦争で多くの功績を上げてるから、悪人や敵からしたら【死神】ってのも頷けるよ」
そうこう話していると、ボルボン達に取調べを追い出されたのかラルトが歩み寄ってきた。
「俺がしてたのによ…ボルボンさんめ」
ラルトは懐から着火式煙草を取り出し、口に咥える。しかしマイヤードに“施設内禁煙ですよ”と指摘され、舌打ちしながら煙草を片付けた。
「どうですか?」
マイヤードは続けてラルトに取調べの進捗を尋ねる。
「ヴァンガルド・キルは投獄中だから、No,2が仕切ってるんだと。名前は割らないがな」
ラルトがそう言うと、沈黙が流れた。
プラズマ、バリス、マイヤード。3人とも涙流華とラルトに確執があることを知っていたからだ。同じ空間に二人がいるのでは空気が悪い。また言い合いを始めるのではないかと、3人とも関係のない話題を探すが、そういう時に限って頭は働かない。
すると涙流華が口を開いた。
「ふん、こんなことに巻き込みおって。ローズ家はやはり面倒事の元凶だな」
3人は“始まった”と気まずそうにラルトの出方を見ている。
「んだと? 大体は水王家がローズ家のところに来てトラブルになってんだから、お前が元凶だろ。帰れ」
音量こそ大きくないが、明らかにケンカ腰の口調だった。
「言われんでも帰るわ!」
涙流華は荒々しく立ち上がると、刀を左腰に差す。しかしマイヤードが涙流華を制止させる素振りをしながら、ラルトに訴えかける。
「ちょっと待ってください! この後、デーモン上級大将がこの方達から聴取したい、と言ってたんです!」
「なら大人しく待っとけ。待てるだろ?」
明らかに皮肉たっぷりの言い方で涙流華の燃え上がる怒りに灯油を撒いている。
その時、プラズマがふと取調べ室の方を向くと、遠くでデーモンが扉の前に立ってこっちを見ていた。
元々室外に立っていたのだろうが、揉めている声を聞いてこっちを向いたのだろう。そして“お願い、もう少し待って”と言わんばかりに両手の平を合わせてプラズマに拝む素振りを見せた。
その姿に応えるように、プラズマは涙流華の肩に手を置いた。
「ルルカ。もう少しだけ待とうぜ。後で政府軍に付きまとわれても厄介だしな」
取調べ室からボルボンが顔を出すとラルトを大声で呼んだ。
「ラルト、変わってくれ。後はお前に任せる」
その言葉にラルトは涙流華を睨みながら、取調べ室へと向かっていった。
そして交代するようにデーモンとボルボンが戻って来た。
「じゃぁ、これからは君たちの話を聞かせてもらうよ」
デーモンの言葉で察したマイヤードは席をデーモンに譲った。そしてデーモンとボルボンがプラズマ達の対面に座った。
「今日はあそこでなにを?」
「昼飯っす」
プラズマは軽く答える。そうして一通り今日のことを答えたところで殷生師団の質問へと移行する。
「これまで殷生師団の情報を聞いたことは?」
3人とも首を横に振った。
実際はプラズマは遺伝子養成学校卒業間近にウィンドという師団の男本人に襲撃されていたのだが、全くもって記憶に残っていなかった。
「水王さんも、聞いたことはないかな?」
デーモンは涙流華に名指しで質問した。
「ない。なぜ私だけ直接聞くのだ」
「いや、元名家だからね。水王行不地元大元帥から聞いて何か知っているかと思って」
「爺様とは子供のころに死別している。そんなことは聞いたこともない」
死別という言葉に静寂が流れる。
デーモンは“申し訳ない”と言いながらホログラム用のペンをクルリと回すと、涙流華の殺気に当てられたからかペンを落とす。
ペンは、涙流華の右側、机の上に置いてある刀の方へと転がっていく。鞘の先に当たる直前でデーモンはペンを回収した。
「侍の鞘に触れる意味を分かっているのか?」
涙流華は更なる殺気を乗せた視線をデーモンの手に向ける。慌ててプラズマが涙流華を制止させるように後ろから両肩に手を置いた。
デーモンは再度“すまない”と頭を下げる。涙流華は“ふん”と鼻を鳴らすとプラズマの手を払いのけた。
「それにしてもいい刀だ。中々こんな刀はお目にかかれない」
「当たり前だ。水王家代々継がれてきた宝刀。機嫌取りのつもりか?」
尚も涙流華の機嫌は悪い。
その時だった。
「おい!! マイヤード!! 来い!!!」
ラルトの怒号が取調べ室から響いた。デーモン達の横に立っていたマイヤードは一瞬跳ねると、すぐさまラルトの方へと向かった。
ただ事ではない。そんな声だった。
マイヤードに続いてデーモン達やプラズマ達も取調べ室に向かうと、室内で取調べを受けていたチンピラ2人が血を吐いて倒れていた。
補助で入っていたラルトの部下が脈を取りながら、呼びかけている。
「何があったラルト!?」
デーモンの問いにラルトは焦ったように答えた。
「こいつら、No.2のこと聞いたら示し合わせたように舌噛みやがった…!」
「こいつ……! やってくれたな!」
ボルボンは舌打ちしながら叫んでいる。
程なくして救急隊が到着し、救急搬送されていった。
取調べ室の録画機器のデータにより、ラルトの取調べは問題なしと判断されたが、大元帥から詳しい経緯を聞かれることとなった。
~大元帥執務室~
執務机に着く大元帥のブラスト・オール。その前にラルトが立っていた。
「大丈夫だ。君が問題ないことは分かっている。私が聞きたいのは今回の経緯だ」
「レストランでチンピラと会って、そいつらがヴァンガルド一派だと言ってて、こっちに連れて来てからは2人同時に俺が取調べをして…」
うんうん、と大元帥はラルトを真っ直ぐに見つめながら聞いている。
「それで途中ボルボン大将が取調べを代わるように言ってきて、一時取調べ室から出て、少ししてボルボン大将とまた交代して取調べを続けて、ヴァンガルドの話になった途端2人同時に舌を噛んで…」
「なるほど。やはりか」
大元帥は深く息を吐くと、椅子の背に脱力するようにもたれかかった。
「ヴァンガルド・キルの調査で分かったことがある」
ラルトは大元帥の言葉に聞き入った。祖父が殉職した日、その場にいた可能性があるヴァンガルド・キル。調査で判明したことは当時の全容解明につながるはずだ。
しかし、大元帥の言う“分かったこと”にラルトは肩透かしをくらうこととなる。
「断片情報は上がるものの、何もつかめていない」
「え?」
「何もつかめないことが分かったんだ」
何かのとんちなのだろうか、それとも自軍の捜査力や諜報力を卑下しているのだろうか。ラルトは大元帥の言ったことを何度も考えるが、何を言っているのか、その真意は分からなかった。
「“何を言ってるんだ大元帥は”。そう言いたそうな表情だな」
大元帥はラルトの心内を見透かしたように笑みをこぼした。
「いえっ……」
「断片情報が上がる。全てが本物に繋がらないとしても、これだけ多くの情報があって一つも当たらないのはおかしい、と私は考えていた」
「ヴァンガルド・キルや殷生師団はガセ情報を流している。我々の捜査を攪乱するために」
オール大元帥は椅子から立ち上がると、机の周りを歩き始めた。
「そう思っていた」
大元帥の声色はどんどん暗くなっていく。
「けどな、おそらく違うんだ。上級大将と大将、軍のトップ3、4が調査をして何も当たらないなんてことがあるのか?」
ラルトの頭の中に一つの可能性が浮かび上がるが、頭の中の自分がそれを必死に掻き消そうとしている。
「な……どういうことですか…?デーモンさん達の部下に裏切り者がいるってことですか?」
「この調査はあの2人がほぼ単独で動いている。相手に動きを悟られないようにな。ローズ中佐、君ももう何となく察しはついているだろう」
その言葉にラルトの心臓は跳ね上がる。
ラルトにとってデーモンとボルボンは自身の面倒をよく見てもらっていた数少ない気の許せる先輩、上司だった。
軍に初めて入ったときに教官をしていたデーモン。よく叱られたが、愛のある指導で軍人が何たるかを教えてもらった。
少尉のときの星間の紛争調停。そこでボルボンとペアを組み、叱られながらも様々な任務をこなした。現場での心持ちや戦闘、諜報に至るまで、現場での力を全てを叩きこんでくれた。
そして少佐のとき、3人で森星王選挙候補者の護衛につき、そこでも絆を深めた。元々同期だったデーモンとボルボン。彼らはラルトを弟分のように厳しくも優しく面倒を見てきた。
彼にとって、デーモンとボルボンは軍人としての兄に等しかった。
「あの2人が……そんなはずは……」
ラルトは腰が抜け、椅子に倒れるように座る。
ラルトは頭の中である考えを巡らせた。それは自身の祖父と涙流華の祖父が戦ったとされる事件だった。
「てことは……あの事件のことも2人は何か知ってる……?」
ラルトは大元帥執務室を飛び出ると、少将以上が勤務する将校塔へと向かった。
「ローズ君!!待ちなさい!」
大元帥の呼び止めにも応じず、全速力で駆けていく。
~上級大将執務室~
ラルトは上級大将の執務室のドアをノックもなしに荒々しく開けた。
「どうした?ラルト、そんなに慌てて。」
上級大将のデーモンはロッカーを整理しているところだった。
ラルトはもの凄い勢いと剣幕でデーモンの机に近づいて行く。
「あんたとボルボンさんがヴァンガルド・キルと繋がってるってほんとなのかよ!!」
「はぁ? お前何を言っている、あのな……」
デーモンに喋る暇を与えないよう、さらにラルトは続ける。
「アンタたちの力を持ってして、情報一つもつかめないはずがねぇ!」
彼らしくなかった。普段ならそんな可能性を繋ぎ合わせただけの話を信じるようなことはしない。
しかし、ラルトの中で大きな存在である二人が裏切っている可能性が高い。それだけで突っ走ってしまうほど、彼は混乱していた。
「なんだ、騒がしいぞ」
後ろから響く声にラルトが振り返ると、ドアのところにはボルボンが立っていた。
「私が、なんだって?」
ボルボンがラルトに尋ねるが、ラルトはやはり言いづらそうに口をつぐんだ。
そして無言のラルトに変わってデーモンが答える。
「我々がヴァンガルドと組んでいる、だそうだ」
ボルボンが一呼吸起き、低い声でラルトに話し始める。
「そろそろだと思っていた。誤魔化せるのもな。大元帥が流石にこちらに疑いの目を向けて来ていたからな。ここまで早くことが動くとは思わなかったが。」
デーモンはボルボンのその発言に一瞬目を丸くするが、すぐに“言うんだな”と呟いた。
ボルボンはさらに続ける。
「そう。我々は反政府分子と組んでいる。だが政府側だからといって正しいというわけではない。そう教えただろう?ラルト」
「ならあんた達は水王大元帥の反乱事件にも関わってるのかよ!」
ラルトは力の限りを尽くして声を出し、2人に問う。
「なんの話だ?」
デーモンはボルボンと目を合わせると、知らないといった様子で、椅子から立ち上がる。
「くそ……しらばっくれやがって……!」
敵意を向けるラルトに対してデーモンは手を差し伸べた。
「ラルト、共に来い。一緒に戦おう」
To be continued.....
【EXTRA STORY】
『次のニュースです』
『一昨日未明、牢星の1級監獄が一時解放された件について、四帝が政府管轄の監獄管理体制の調査に入りました』
『一時解放されたことにより、危険度を表す等級が最も高い1級囚人数名が脱走したと発表されました』
『政府は脱走した囚人の顔写真、氏名を公開しており、情報提供を求めています』
To be continued to next EXTRA STORY.....?




