妹の想い
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【登場人物】
▼水王家
[水王家十代目当主の長女]
現当主の長女で正統後継者。次期当主。
武芸の才に溢れ高い知性を持つが、水王家の為ならば冷徹な考えをも厭わないサムライ。
[水王家十代目当主の次女]
水王家の次女で、異端後継者。
姉の才能や知力には遠く及ばないが、優しく温かい心を持つ。
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私は月夜に照らされる荒野をただひたすら駆けていた。
姉に平手打ちされ熱を持った右頬に冷たい夜風が当たる。
~13年前~
「お姉ちゃん!待ってよ!」
「遅いぞ!千里華!」
私は姉の背中を追いかけ荒野を駆けていた。
姉は今年から侍となる資格を得る。
「お姉ちゃん、侍になるの?」
「当たり前だ!私は侍になって千里華を守る!」
「私だってお姉ちゃんを守るの!」
お姉ちゃんは遺伝子能力の才能も、剣術の才能も、知略の才能もあった。
そして何より心優しい人だった。
私は……何一つお姉ちゃんより優っているところはなかった。
侍になると水王家の侍隊舎で寝食をすることになるから、お姉ちゃんとはほとんど会えなくなる。
お姉ちゃんが侍になってから会えなくなっても、お姉ちゃんへの尊敬の念は募るばかりだった。
自慢の姉だった。
それから5年の年月が経ち、私も侍になる権利を得ることとなった。
もちろん私はお姉ちゃんの後を追い、侍になることに決めた。
お姉ちゃんはたった5年で水王家の軍団長にまで上り詰めた。
私は本当にお姉ちゃんが誇らしかった。
けど同時に苦しかった。
水王家に私の居場所はなかったから。
水王家は代々、正当後継者と異端後継者に分かれる。
基本的に先に生まれた方が正当後継者。後に生まれた方が異端後継者。
私には居場所どころか立場もなかった。けどそれも仕方のないことだ。私は水王家の重鎮が話をしていたのを偶然聞いてしまった。
私は父上の実の娘ではない、と。
父上の妹が私の本当の親だった。
つまり姉上は本当の姉ではなかった。
それを知って少し心が軽くなったのを覚えている。
姉とは遺伝子が違う。
その事実が私を少しだけ救ってくれたし、納得できた。
お姉ちゃんと私は才能が違って当たり前だ、って。
お姉ちゃんが軍団長になってから、周りだけでなくお姉ちゃんからも私への当たりが強くなった。
それはそう。
出来の悪い妹……
いや、出来の悪い侍なんて水王家の足手まといになる。
水王家の軍団長として、家を強くするのは役割であり責任でもある。
そのころから自然とお姉ちゃんのことを“姉上”と呼ぶようになった。
“お姉ちゃん”なんて呼べる姉妹の雰囲気ではなくなっていた。
私も何か水王家の役に立てることはないだろうか……
いや、お姉ちゃんの役に……
お姉ちゃんはただでさえ重大な役割を担っているのだから、妹の私がもっと支えなければ……
~水王家・道場~
「はぁ!!!」
私の持つ木刀が弾き飛ばされると、姉上の振るう木刀が鋭く私の右脇腹付近にめり込んだ。
「肋骨がいったな。相手は実の妹なのに全く容赦がない……」
「ありゃ少しばかり千里華が可哀想だ」
「剣の才能もそこそこ、遺伝子能力の使い様もそこそこ身体能力も並」
「確かに。でもまぁ何より侍として一番欠けている点は、非情さがないところだな」
痛みで余裕がないのに、そんな言葉は嫌になるほど私の耳に入ってきた。
「かっ…はっ…はっ……」
「千里華お前は弱い。」
姉上の冷たい顔が脳裏に焼き付く。
姉上のことをよく思っていない家臣は、姉上が私に厳しく当たっていることを“次期当主の座を奪われないようにするためだ”と批判する。
けど、そんな批判は姉上を攻撃するためだけの言葉だということは分かっていた。
仮に私が当主の座を狙っていたとしても、そんな力私にはない。そんなこと、皆分かっていたし、当の自分だってわかっていた。
私は、明らかに水王家のお荷物だった。
▽▽▽▽▽▽
「父上……私を水王家の戦闘部隊から外してください。このままでは水王家に泥を塗るどころか、この弱さでは命さえすぐに失ってしまいます……」
私がそう決心するのに時間はかからなかった。
「給仕でもなんでもやります……どうか非戦闘の役を……」
父上の顔は曇っている。それもそう。異端後継者とは言え、当主の娘が給仕など他の家臣に面目が付かない。
「それでは水王家次女のお前はこの家での立場がなくなるぞ」
「侍ではなく、忍びはどうだ?姉を支えるという意味でもお前の面子は保たれる。それも嫌であれば、お前の望み通り給仕に回そう」
「お姉ちゃんを支える……」
侍としての生き方を捨てた私に…いや、その生き方から逃げた私に一つの光としてその言葉が沁み込んだ。
そして私は……
「父上、私……忍びになります」
侍としてはダメだったけど、忍びとしてなら。
「私に侍の才能は無いけど、きっといつか忍び長になってお姉ちゃんを……」
「あと…お前はすぐには死なないよ。私が“ある術”をかけたからな」
「“ある術”……?」
「そう。お前が生まれたときに懸けたすごい術だ。お前はあと何十年も生きる」
父上の表情は、とても優しく……そしてどこか悲しそうだった。
「大丈夫。私や涙流華、水王家の皆がお前を守る。死なせはしない。だから千里華、お前も皆を守ってくれ」
▽▽▽▽▽▽
私は月夜に照らされる荒野をただひたすら駆けていた。
姉に平手打ちされ熱を持った右頬に冷たい夜風が当たる。
「皆を守るためなら……この命……」
「待て。」
その言葉と共に一つの影が千里華の目に入る。
「……!」
「情報通りの予測経路で来るとは、忍びとしての能力値は低いようだな」
彼女の前に立ちはだかったのは、深い緑色の長髪の男――腰に帯刀した侍だった。
「あなたは……!」
その男は千里華でも知っている如月家の幹部。
実力は千里華では到底敵わないものだった。
千里華は黒装束の腹部分をまくり上げると、腹に巻かれた多数の爆薬が露わとなる。
「わ、私は……水王家の……お姉ちゃんのために……!」
「あぁぁぁぁぁ!」
千里華は腹に巻かれた爆薬の導火線に火を点けた。
そしてそのまま如月の侍へと突っ込んでいく。
「自爆か……お前は忍の戦を全く理解していないな」
その侍は目にも止まらぬ速さで抜刀すると、千里華の腹を横に一閃した。
「(私もここまで……か……)
腹を斬られた千里華は死を覚悟した。
体勢を崩して侍の前に倒れ込んだ千里華。
襲ってくるはずの痛みがない。
そう気づいて腹部に手をあて確認する。
――斬られていない
あの間合いから、正確に導火線のみが斬られている。
そう気づいたのも束の間、千里華の四肢に何かが巻き付き引っ張られた。
「これは如月家の……!」
千里華に巻き付いたのは、如月家の遺伝子能力で生成された蔓だった。
「お前は良い人質になる。水王千里華」
侍はゆっくりと納刀している。
「水王家には消滅てもらう」
「今、この戦星は狙われている。争っている場合ではないんだ」
“争っている場合ではない”。
元はと言えば、如月家が離反して始まった紛争。
侍の言葉を聞き、千里華は侍を睨みつける。
「なら……離反なんてやめて戻ればいいでしょう……?」
「今の水王家では無理だ。考えの古い老中達が足を引っ張る」
「行不地様の代ならばよかったが、当主に力のない今の水王家に期待はできない。だから如月家が水王家を一度滅ぼし、水王家の癌を取り除いた上で取り込む」
その侍の言う通り、現当主の木勝は才のある侍だが、水王家内での立場は弱く家来を……特に先代からの古参の者達をまとめきれていなかった。
先代の水王行不地のときのように盤石の体制とは程遠かったのだ。
「木勝殿とお前の姉には悪いが、けじめとしてその首は差し出してもらおう。お前の命と交換でな」
その企みに千里華は目を伏せ、表情を曇らせた。
「来ない……私のためには……」
「あちらがそれを断れば、お前も死ぬだけだ」
侍は身動きのとれなくなった千里華をさらに蔓で縛り上げる。
そして彼女を肩に担ぎ上げ、歩き始めた。
「どちらにせよ、水王家は滅びる」
「それが、戦星の民のためだ」
To be continued.....
~EXTRA STORY~
「兄上……この子をよろしくお願いします……」
「咲……すまない……」
「いいんですよ……私は異端後継者ですから……医星で治療が受けられるとは思っていませんよ……」
「ただ……どうか娘をお願いしますね……」
「咲、この子の名は……?」
「名は……兄上がつけてあげてください……これからは兄上の娘なんですから……」
「また…だな……」
「いいんですよ……私だって異端ですけど……」
「誇り高き水王家の後継者……なんですから……」
▽▽▽▽▽▽
「おぎゃぁ!おぎゃぁ!」
「さっ、咲様!!咲様!生まれましたよ!!元気な女の子です!!」
「咲様………こんなこと……」
「咲……お前と義弟の娘達、必ずや立派に育てて見せる。」
「決めたよ。この子の名は………」
To be continued to Next EXTRA STORY.....?




