“電撃”の遺伝子能力
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【登場人物】
▼遺伝子能力養成学校高等部3年生
[サンダー・パーマー=ウラズマリー]
金髪の活発な青年。電撃系の能力を持つ。
サンダー・P・ウラズマリーから「プラズマ」というあだ名で呼ばれる。
結構なバカ。
[セリナ]
プラズマの幼馴染の女の子。
勤勉で真面目な性格。氷の能力を操る。
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【お知らせ】
ブクマ、評価されると控えめに躍ります。
会話最後の「。」←これ直していきます。
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~学校からの帰り道~
「2番は水王家でしょ、あれだけ説明したのにさぁ……まず1人目は水王世離亞で、煉術を………」
幼馴染のセリナと下校途中にテストの話になったのだが……
赤点は確実なようだった。
優等生のセリナは一生懸命に解説をしているが、プラズマの耳はシャッターを下ろして本日の営業を終了していた。
「(今日“アリス”のとこ行こうかな………)」
プラズマはセリナの解説を他所に、心の中で『今日は師匠のところに修行しに行くかどうか』を思い悩んでいたのだ。
彼らの年頃、つまり18歳以下は遺伝子能力を高めるため、学校での訓練、勉強の他に、師匠に稽古をつけてもらう者も少なくなかった。
「で、反乱を起こしたのが水王行不地で……ってあんた聞いてないでしょ!」
セリナがしかめっ面でプラズマをとがめた。
「意味分かんねぇことばっかり!もうテストの話はいいんだよ!」
良かれと思って解説していたセリナは肩を落とす。
「もう……で、今日あんたアリスさんのとこ行くの?」
彼女の言う『アリス』とは、プラズマが遺伝子能力修得の師として仰いでいる女性であり、プラズマよりも6つ上の言わば姉貴分のような存在でもあった。
「ああ、テストのこと聞かれるから行きたくないけど、後でどやされるとひどいからなぁ。お前はレオンさんのとこ行くのか?」
「えぇ。煉術は一通り終わってるんだけど、まだまだ訓練しなきゃいけないから」
そして、セリナが師としてついていたのが、レオンと呼ばれる人物だった。
「嘘だろ!?俺まだ一つも習得してないのに!」
煉術。
個別の遺伝子能力とは別に、誰もが遺伝子情報に秘めている共通の能力。
彼ら学生はその煉術の中でも基本となる5つの煉術、“基唱”習得を目標に鍛錬する。
「プラズマは本気出せてないだけよ!卒業試験の煉術くらい余裕でできる!多分!」
「セリナー、コツ教えてくれよ……」
プラズマは優秀な幼馴染に泣きついた。
「もう一人の自分と会うの……そして心の中で語り合……」
「お前に聞いたのが間違いだった」
「何よー、人が親切に教えてあげてるってのに!」
と言いつつもセリナは口角を上げて意味深な笑みを浮かべている。
「まぁそういうことだからしっかり鍛錬しなさいよ、じゃあね!」
どや顔をプラズマに見せつけると、セリナは小道に入って消えて行った。
上機嫌で歩いて行ったセリナとは真逆に、これから師匠のアリスにどやされると思うと、足取りが重いプラズマであった。
~アリスの家前・修行場~
修行場に着くと、何やら禍々しいオーラを発している女性が門の前で待ち構えていた。
「ようプラズマ……お前今日テストだったよな」
「まさか赤点取るような出来じゃないだろうね?」
猫のようにつり上がった目。
はれぼったい唇に黒く鮮やかで艶のある髪。
そして束ねたポニーテールを揺らしながら、プラズマの師匠である〈アリス・ジア〉が不気味な笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。
プラズマは声を震わせながら、そんなことはないと一言絞り出すのが精一杯だった。
しかし……
アリスはバカ弟子の嘘を見抜き、怒りの静電気をパチパチと発生させている。
アリスは〈電撃〉の遺伝子の持ち主で、プラズマは同系統の能力であったため、彼はアリスに弟子入りしたのだ。
同系統の能力者の下で修行するのが一般的で、セリナも自身の得意とする〈氷〉の能力を持つレオンという男に弟子入りしている。
師匠の下で自身の持つ固有の遺伝子能力を鍛え……
そして全ての人が鍛錬次第で使うことのできる煉術を学ぶ。
「おい、プラズマ!お前しっかり煉術練習してきたんだろうなあ?」
アリスの圧にプラズマは無意識に後ずさった。
「なんだその後退りは?」
「今のお前は何一つできないんだからやばいぞ。前も言った通り卒業試験では基唱全ての習得が条件だ。過去これを落として卒業した奴は誰1人といない。これからみっちり教えるからな」
煉術には基唱と呼ばれる基本の技がある。
火唱
水唱
風唱
木唱
土唱
この5種類が基本となり、これらを組み合わせることによって、様々な複合煉術を扱うことができる。
そのため、基唱の修得は遺伝子能力養成学校高等部卒業の必須条件の一つなのだ。
高等部卒業試験の一次が筆記試験であり、二次が基唱実技試験となっている。
筆記試験がボロボロだった卒業崖っぷちのプラズマはいじけ気味にぼやいた。
「でも筆記もあるんだからどっちにしても無理だろ。それにアリスは才能があるから簡単にそんなことが言えるんだ」
アリスは『はぁ~』と呆れたようにため息をつき、そして今までになく真剣な眼差しで語りかけた。
「プラズマ、あんたにぴったりの言葉を教えてやろう」
アリスは本棚から古びた一冊の本を手に取る。
それは“Report of Gene Ability”と題する本だった。
そして彼女は四つ付箋が付いている内の、前から三番目のページを開くと、そこに記された一節を読み上げた。
――Record In Gene Never Influences Trait & Self――
「ぴったりって……俺ってそんなに頭良さそうに見えてた?」
「自惚れるなバカ電気。一度もそんな風に見えたこともなければ、見ようとしたこともない」
「意味は言葉通り。遺伝子に記録されてる情報は自分自身やその特性に影響を与えない」
「親父がよく言ってた言葉」
アリスの父親は軍人でありながら、遺伝子能力の研究者でもあった。
そしてその本は、今は亡きアリスの父が残したものだった。
「要は遺伝子よりも環境がその成長の方向を決めるってことらしい。今のお前にぴったりだろ?」
アリスは本を閉じると、本棚に戻した。
「たしかに筆記もあるが、あんなのはあってないようなものだ。重要なのは基唱。これさえできれば卒業できる」
「基唱さえできれば卒業できる。基唱さえできれば卒業できる。基唱さえ……」
アリスの言葉を呪文のように繰り返した後、プラズマは表情を晴らし、コロッと態度を変えて修行場へと走って行った。
「あれくらいの素直さが煉術にも活きればねぇ………」
~帰り道~
「あ゛ぁ゛~~、疲゛れ゛た゛~~」
煉術の修得に全く進展がなかったプラズマは、アリスにボッコボコのギッタンギッタンにされ、顔面が蜂に刺されたように腫れあがっていた。
帰宅途中プラズマはふと昼の夢を思い出す。
『……ラ…リ…………』
「あの夢、何だったんだろ」
その時、突風がプラズマの体を通り抜ける。
あまりの突風にプラズマは驚き、一度辺りを見回した。
「寒っ、風なんて珍しいな」
そう言い残して、彼は走って帰路についた。
その様子を近くの木の上から眺める3人の影があるとも知らずに。
「あいつがサンダー・パーマーか」
To be continued......
【EXTRA STORY】
~アリスの自宅~
「アリス、プラズマはもう帰ったのか……って、その本読めないんじゃなかったのか?」
「章の名前だけかっこつけて不慣れな公用語で書いてるが、肝心の内容は母語だからな」
「タ……何とか語……だったか?」
「あぁ、こんな複雑な文字を使ってたなんて気が狂ってやがる」
「自分の先祖を悪く言うもんじゃないぞ」
「親父はこの言葉を必死こいて解読したみたいだけど、あたしにゃそんな暇もないしね」
「根気もないだろうがな」
「うるさいよ。けどカッコつけてくれたおかげで、章の名前だけは読める」
「“能力はなんかの進化に導く”だっけか? かっこつけるところは、親父さんに遺伝したみたいだな。あとお前にも」
「うるせぇレオン、ぶっ飛ばすぞ」
To be continued to next EXTRA STORY.....?