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マッチング成立

 パトリシアが初めてマッチングダンジョンに挑戦──実際はマッチング成立すらしなかった──してから七日後。早起きした彼女は大荷物を背負い、鎧姿で神殿を訪ねていた。


 前回と同じ法衣の女がにこやかに微笑み、中へと誘う。一方、意気込みが空回りするパトリシアはぎこちない。歩き方を忘れたようなあべこべな動きで進み、なんとか椅子に座った。


「随分な大荷物ですね」


「……はい。手元にある装飾品や金貨を全てチェンジストーンに替えてもらおうかと。大丈夫でしょうか?」


 勿論。と法衣の女は快諾し、別室で査定を始めた。


 一体、チェンジストーン幾つぐらいになるのだろう。渡した装飾品のほとんどはエドワードから贈られたもの。安物である筈がない。せいぜい高い査定を受けて、恋路の助けになればいい。


 そんなことを思いながら、パトリシアは落ち着かない時間を過ごす。早くしないとマッチングやダンジョンに費やす時間が減ってしまう。さぁ、早く。


「お待たせしました。素晴らしい品が多くて驚きましたよ」


 法衣の女は重そうな袋を両手で抱えている。


 ──ドンッ! とテーブルに置かれたそれはチェンジストーン。幾つあるのか見当もつかない。


「458個です。これで、真実の愛はあなたのものですよ」


 パトリシアは思わず拳を握った。これだけあれば大丈夫。少なくとも今日中にマッチングは成立するだろう。間違いない。


「時間は有限です」


「はい! 行ってきます!」


 勢いよく立ち上がったパトリシアはそのままマッチングの間に入る。夢にまで見た七色に光る石柱に触れると、やはりほんのり温かい。そして──。


「マッチング!」


 二度目のマッチングダンジョン挑戦が始まった。



#



「うっわー、身長デカっ!」

「チェンジ!」


「なんだ、その目つきは」

「チェンジ!」


「ママに似た女性を探しているので」

「チェンジ!」


「触っていい?」

「チェンジ!」


 パトリシアは何か一つでも引っ掛かることがあれば容赦なくチェンジをした。チェンジストーンは充分ある。相手にチェンジされて今日のダンジョンアタックが終わってしまうのは嫌だ。それに、妥協した相手とダンジョン攻略に臨みたくない。


 次こそ理想の相手を! 毎回そう願いながら石柱に触れて「マッチング!」と唱える。


 そして本日、ちょうど百回目のマッチング。いつもより、視界の暗転が長い気がした。節目だからだろうか。


 ダンジョンの間への転移が完了し、徐々に視界が明るくなる。目の前には既に人影があった。


 パトリシアより頭二つ分は背が低いだろうか。視界がはっきりして、男の顔が露わにある。


「綺麗……」


 思わず口にしてしまった。女の自分からしても綺麗としか形容出来ない顔立ち。緑がかった青色の双眸でパトリシアを見つめている。


 男はスッとパトリシアに近寄り、右手を差し出す。


「僕はヨハン。君の名前は?」


「えっ、あっ、はい! パトリシアです!」


「ふふふ。面白いね。パトリシアは」


 カッと紅潮するのが分かった。変な女と思われたかもしれない……。どうしよう……。


「ねえ、パトリシア。僕はずっと右手を出しているんだけど……」


「あっ、ごめんなさい!」


 慌てて右手を差し出して、ヨハンの手をぎゅっと握る。


「マッチング成立。で、いいよね?」


「は、はい! ヨハンさん、よろしくお願いします!」


「かたいなぁ〜。パトリシアは。ヨハンって呼んでよ」


「よ、ヨハン!」


「ふふふ。じゃあ、早速ダンジョンに行ってみよう。僕、実はこのダンジョンに入るの初めてなんだ。今まで一回もマッチング成立したことなかったから」


「えっ、そうなの?」


 ヨハンが自分と同じ境遇というだけで、パトリシアは嬉しくなってしまう。


「ご覧の通り、僕は背が低くて頼りないからね」


 ヨハンは白く透き通った腕に力を入れ、笑いながら力瘤をつくる。なるほど、確かに力は無さそうだ。しかし、そんなことは全く気にならない。


「大丈夫。私がいるから」


「頼もしい。パトリシアはこの先のダンジョンに行ったことあるの?」


「ないわ。私も初めて。どんなモンスターが出てくるのかしらね?」


「聞いた話によると、挑戦者の実力に合わせたモンスターが出てくるらしいよ」


 パトリシアは考え込む。正直なところ、自分の実力ならばダンジョン自体は問題ないと思っていたのだ。しかし、自分に合わせた強さのモンスターが出てくるのなら、気を引き締めないといけない。


「行こうか?」


「うん」


 ヨハンが扉を開いた。いよいよダンジョンだ。



#



 ダンジョンは岩の洞窟といった趣で、壁自体がほんのりと光っている。横幅は大人五人が並べば塞がるぐらいで、天井は剣を振り回しても問題ない程度に高い。


 ──ジリッ。ジリッ。


 早速モンスターの気配。パトリシアは剣帯から短剣を抜き、ヨハンの前に出る。


「見えた。ハイゴブリンだよ」


 何の魔法だろう? ヨハンはまだ視界には入っていないモンスターを判別してみせる。


「なら問題ないわ。ヨハンは見ていて」


 暗がりの向こうに紅い光が浮かび上がる。人間への敵意が篭ったモンスターの眼だ。


「グギャギャギャッ!」


 ハイゴブリンが棍棒を大上段に構えながら飛び込んでくる。ゴブリンとは違って素早く力強い動きだ。しかし──。


「破ッ!」


 ──パトリシアの一閃。ハイゴブリンの体だけが前に進み、その首はポトリと後へと落ちる。やがて体も地面に倒れ、煙になって何かが残った。


「あれ? チェンジストーン?」


「そうみたいだね」


 通常、ダンジョンのモンスターは魔石や素材をドロップする。しかし、マッチングダンジョンは違うらしい。


 チェンジストーンを拾い上げ、パトリシアは困った顔をする。自分にはもう必要のないものだ。ヨハンを引き当てたのだから。


 振り返ってヨハンを見ると、笑っている。


「ふふふ。どうしたの? 眉間に皺を寄せて」


「私にはもうチェンジストーンはいらないから……」


「奇遇だね。僕にも不要だよ」


 ヨハンの言葉を聞いて、鼓動がはやくなる。ヨハンは自分のことを気に入っている。このままダンジョンを攻略すれば、彼と結ばれる。そんな想像がパトリシアの胸を熱くした。


「今度は顔が赤いよ?」


「なっ、なんでもないの! さっ、先へ急ぎましょう!」



#



 まずい! もう一体来た!


 パトリシアが二体のハイオークを相手しているところにもう一体、槍を持ったハイオークが現れた。槍のハイオークは隙間を縫って突きを放とうする。駄目だ。やられる──。


 ガチンッ! と槍の穂先は何かとぶつかってパトリシアの身体には届かない。


「えっ? 何?」


 オークの攻撃を躱しながらパトリシアはヨハンに視線を送る。


「パトリシアには指一本触れさせないから、安心して戦って」


 ヨハンの魔法だろうか? 彼女の周りに透明な板が幾つも浮かんでいた。


 ガチンッ! とまた板がオークの攻撃を防ぐ。ヨハンに守られているという事実がパトリシアを強くした。


「破ッ! 牙ッ! 突ッ!」


 守りを気にしないパトリシアは闘気を身体に漲らせ、あっという間にハイオーク三体を屠った。見事な剣捌きにヨハンが感嘆の声を漏らす。


「凄いよ、パトリシア! 一人でハイオーク三体なんて」


「ヨハンのおかげよ。あんな魔法、見たことないわ」


 パトリシアの言葉にヨハンは得意げな表情を見せた。


「僕はね、攻撃魔法が使えない代わりにそれ以外の魔法はほとんど使えるんだ。あまり、世の中に知られていない魔法も」


「凄い……。そんな魔法使い、聞いたことないわ」


「凄くないよ〜。だって僕一人ではモンスターの一体も倒せないんだから」


 そう言って頭を掻くヨハンの姿が愛おしい。まだ出会ったばかりなのに、パトリシアは完全に恋に落ちていた。



#



「グルァァァァァァ!!」


 双頭の巨大な犬──オルトロス──の吐いた焔がパトリシアに迫る。このままでは直撃をさけられない。


「させない」


 パトリシアの前にワッと霧が広がり、凶悪な焔をこともなさげに霧散させた。ヨハンの魔法だ。


 オルトロスは合計四つの紅い目をぱちくりとさせて驚いている。チャンス──。


「破ッ! 滅ッ!!」


 一足で自分の間合いにしたパトリシアは一拍の間に二度、闘気を纏わせた短剣を振るった。ヨハンに見えたのは青白く輝く、二筋の線のみ。


 パトリシアが短剣をしならせて、汚れを払う。


 ──ズルリ。ズルリ。一つ、また一つ。オルトロスの頭は胴体からずり落ち、煙となる。そして最後に体が朽ちて煙になると、ボス部屋が大きく揺れた。


「何が起きるの?」


「ボスを倒したから、道が開けるんだよ」


「次のフロアに行けるってこと?」


「たぶんそうだよ」


 ボス部屋の壁の一部が崩れ落ち、通路が現れる。パトリシアは慎重に中の様子を窺う。このまま進んで大丈夫だろうか? 罠でもあるのではないか? ここまで順調だったことがかえって彼女を不安にさせた。


 振り返るとすぐ後ろにヨハンがいた。「どうしたの?」と眉を動かす。ヨハンがいるから大丈夫。何かあっても守ってくれる。そう思い直し、パトリシアは通路へと踏み出した。



 通路の奥は岩で出来たドーム状の部屋だった。真ん中には数字の「二」と書かれた石柱がある。そして入ってきた通路の逆側には扉があった。


「パトリシア。疲れたでしょ? 今日はここまでにしよう」


 パトリシアはヨハンの言葉に不満を覚えた。マッチングダンジョンの外に出ればヨハンと離れてしまう。もっと一緒にいたい。そんな思いで胸がいっぱいになる。


「ふふふ。大丈夫だよ。そこの石柱に二人で触れれば、出会いの神様に覚えてもらえるらしいから。なんて言ったかな? えーとそう、"セーブポイント"だ。また七日後、一緒にダンジョンを攻略しよう」


 そういえば、法衣の女にそんな説明を聞いた気がする。「マッチング!」や「チェンジ!」にばかり気を取られていたけど……。


「ほら、パトリシア。手を」


 ヨハンがスッとパトリシアの手を取る。そして二人で石柱に触れると、部屋に鐘の音が響いた。祝福されたような気分になる。


「じゃぁ、パトリシア。七日後にまた会おう」


「うん。私は朝から待ってるから」


「僕も朝から来るよ」


 次のダンジョン攻略の約束をし、二人は同時に「リタイア」をしてダンジョンの外に出た。



 外はもう暗い。しかし、パトリシアの表情は明るく晴れやかだ。


 どうやって察したのか? 神殿の中から法衣の女が出てきてパトリシアに話し掛ける。


「どうやら、上手くいったようですね」


「はい! 素敵な方とマッチングして、ダンジョン攻略に進めました。"二"と書かれた石柱のところまで行きました」


「それは素晴らしい。では、次回からは"続きの間"に案内しますね。そこから転移すると、今日の続きからダンジョン攻略を再開出来ますから」


 では、七日後。そう言って法衣の女は神殿の中に戻っていった。


 次のダンジョン攻略が待ち遠しい。ヨハンは時を進める魔法を使えないのかしら? そうすればすぐにでも会えるのに。


 驚くほど軽い足取りで、パトリシアは屋敷へと帰るのだった。 

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[良い点] すわオネショタか!?
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