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神々の国の物語

 レイフィールは、王宮の裏庭目指して全力で走った。

 すれ違う者たちは、そんな彼を何事かと驚いた表情で眺めている。


(ネネフィーが生きていた……生きていた! 生きていた!!)


 レイフィールはゆるむ口元にぎゅっと力を入れたまま全力で走った。

 そうしてたどり着いた裏庭で、勢いを殺すことなく待機させていた翼竜の背にひらりと飛び乗った。



「いますぐ領地に戻る!!」

 レイフィールが高らかに宣言すると、翼竜の手綱を勢いよく引いて一気に空へと舞い上がった。

 周囲で待機していた彼の部下たちも、驚きはしたがすぐに彼の後に続いた。



「レイフィール様、緊急の案件でしょうか?」


 見渡す限りの広い空。

 近くを飛んでいた1人の部下が不思議そうに尋ねた。


「ああそうだ。父上に緊急の報告事項ができた」

「緊急の報告事項、ですか?」

「ネネフィーが生きていた!」

 レイフィールは大声で叫ぶ。


「っ!?」

 その声を聞き、編隊飛行していた部下たちが息を飲んだ。


「ネネフィーが生きていたんだぁぁ!!」


 レイフィールは高揚のあまり、翼竜の手綱を操ってスピードをあげる。

 彼の背後では、引き離された部下たちが歓声をあげている。


「……ほらな、やっぱりあいつは大丈夫だった、大丈夫だっただろ……」

(父と母、領民たちはきっと涙を流して喜ぶだろう)


「ったく、いつまでも世話の焼ける妹だ」


 レイフィールは滲んだ涙を拭うと、清々しい気持ちで領地への道のりを楽しんだ。






 一方その頃。

 ネネフィーは、暗い瞳のアズベルトにベッドに押し倒されて身動きがとれずにいた。

 ひしひしと感じる不穏な空気。

 アズベルトは満面の笑みを浮かべているが、その目は何故か昏い光が宿っていた。



「え~っと、あの。もしかしてアズ様、かなり怒ってますか?」

「どうしてそう思うの?」

「いえ~なんとなく」

「そう? ネネは私を怒らせるようなことしちゃった自覚、あるのかな?」

「え~、それは……」


 ネネフィーは考えた。

 しかし冥府でケイオスに会ったのも、結晶石を腹に抱えるようになったのも、強制転移して死んでしまったのも全て行き当たりばったりで、ネネフィーがそうなるように動いた訳ではなかった。

 ネネフィーの行動原理は、全てリース神の側にいたいという想いだけだった。



「自覚は……ないですわ!」

 ネネフィーはドヤ顔で言った。


「そっか~」

「はい!! でも、アズ様が憤りを感じるというのでしたら、これからはもっとお伝えすることにしますわ! そうですわ! これからは眠る前、1日にあった出来事を1から順にお伝えすることにしますわね」

「ああ、ああ……ネネ。憎らしいほど可愛いね」


 アズベルトはネネフィーの上に、ぽすんと覆いかぶさるように倒れた。


「ぐえっ」

「……はぁ。自分ばかり必死でみっともない」

「アズ様?」


 アズベルトがネネフィーの肩口に顔を埋めた状態なので、彼がどのような表情をしているのかネネフィーからは全く見えなかった。


「アズ様、どうかされましたか?」

「……」

「アズ様?」


 ネネフィーは不安になって、アズベルトの背中を優しく擦った。

 するとアズベルトはゆっくりと顔を上げる。

 彼の顔を見たネネフィーは、その美しい瞳が涙で濡れていることに気が付いた。



「アズ様、泣いてるいらっしゃるの?」

「言いたいことが山ほどあったけれど……君が無事で本当に良かった……」


 アズベルトはネネフィーの身体をぎゅっと抱き締めた。


「言いたいこと、ですか?」

「ああ。全部とは言わない。何かあったのなら教えてほしい、相談してほしい、考えていることを共有してほしい、危ないことはしないでほしい……私だけをその瞳に映してほしい」

「え……」

「本当はどこかに閉じ込めてしまいたいけれど、それは君の為にはならないし、きっとそんなことをすれば、君は私に幻滅するだろう」

「いえ、それはぜんぜん」

「…………うん?」

 アズベルトの動きがピタリと止まった。


「監禁? どんと来い! ですわ」

「……えっと?」

「だって私、アズ様とず~っと一緒にいたくて頑張りましたのよ!」

「……あ、ああ」

「自慢じゃないですが、私の方がアズ様のこと何倍も好きですわ! これだけは絶対に負けませんわよ!」

「……え、うん」

「今度領地に来ていただいた際、私のお宝コレクションをお見せいたしますわ! きっと私の愛の重さに恐れおののきますわよ!」

「あ~うん。楽しみにしている」

「ええ!」


 アズベルトは手を伸ばして、ドヤ顔をきめるネネフィーの頬を優しく撫でた。



「ふふふ……これからはずっと一緒なんだね」

「はい! どんなに嫌がってもずっと一緒ですわよ」

「嫌がるわけないよ」

「嬉しいです」

「……………………ああ」


 アズベルトは、何かを堪えるように唇を震わせた。


「これでもう……、君を看取ることはないんだね」

 そう告げた彼の声は震えていた。


「っ、はい!」

 鼻の奥がつーんと痛くなり、ネネフィーの瞳にもじんわりと涙が滲む。


「……っ、はい、はいアズ様。ずっと一緒です。二度とあなたにあんな顔、させませんわ!」


 自分が息を引き取る間際、最後に見るのはいつも悲しみを堪えて微笑む彼の顔だった。

 あんな顔、もう二度とさせたくない。



「ありがとう、ありがとう。ネネ……愛してる、愛してる」

 アズベルトの瞳から、とめどなく涙が流れ落ちる。


「私も愛しています」

 ネネフィーはアズベルトの頬に手を添える。


「アズ様、いいえ、リース様。私を諦めずにいてくれて、ありがとうございます」


 二人は見つめ合い、泣き笑い合いながら何度も口付けを繰り返した。


 次第に深くなる口付け。

 互いの存在を確認するために強く抱きしめ合い、幾度もその体温を確かめ合った。




 こうしてルビリオン帝国は、再び神々の楽園として栄えることになる。


 そして遥か昔からずっと続く二人の恋の物語は、永遠に続いていく。



大変お待たせ致しました。

これで完結とさせていただきます。

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