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出会い

「それにしてもアズベルト様、素敵になっていらっしゃったわね~」


 自室で黙々とアズベルト宛ての手紙を書いていたネネフィーは、アマリリスの声に顔を上げた。


 彼女はアズベルトとの顔合わせの日から、二人の距離を埋めるべくせっせと文を書いていた。


 今日の天気から始まり、その日の献立、体調や育てている植物の成長に至るまで、ありとあらゆる事を手紙に書いていく。

 それはもはや手紙というより日記に近かった。


 大量の便箋で封筒がみちみちになり、閉じるのも一苦労だ。

 しかしネネフィーは全く気にしていない。むしろまだ書き足りていない程だった。


 勿論、アズベルトからの返事も定期的に届けられる。

 ネネフィーの手紙の内容への質問や疑問、彼の日々の出来事が綴られたその手紙はネネフィーの宝物のとなり、きっちりと保存魔法がかけられて秘密の小部屋に飾られていた。



「お母様は、アズ様とお会いしたことがあるのですか?」

「ええ。そうだけど、ネネちゃんもあるでしょう~?」

「…………え? 私がですか?」

「そうよ」

 ネネフィーは、驚いて持っていた羽ペンを落とす。



「ネネちゃん、最近魔法の訓練にも身が入っているでしょう? やっぱり久しぶりに会えて嬉しかったのかな~って思って」

「いやいやいやいや、私がアズ様に会ったことがある……?」

「あら? まさかネネちゃん、覚えていないの~? 確かにアズベルト様、外見ちょっぴり変わっていたものね〜」

「いつの話ですの?! 私全く記憶にないのですが……」

「え~、確か5年くらい前かしら~? ほら、二人で一緒に帝都にあるミラー邸に行った時~」

「5年前……ミラー邸……?」


 ネネフィーは首を捻る。

 領地から滅多に出ないネネフィー。

 確かに思い起こせば幼い頃、ひどく長い馬車の旅をしたことがあった。


(う~ん、あの時もしかして帝都に行ったのかしら? 馬車の旅がきつかったことしか覚えていないわ……)


 ロッシーニ領から帝都まで、どんなに早くても馬車で10日はかかる。

 子供の身体には長距離移動がきつ過ぎて、ネネフィーはその時どこに行って誰と会ったかなどいまいち覚えていなかった。


 しかしたとえ幼いからといって、リース神命のネネフィーが、彼と瓜二つのアズベルトとの出会いを忘れるなどあり得ないことだ。

 そう! あり得ない! 言語道断だ!

 

(リース様への愛が足りないですわ! ネネフィー・ロッシーニ!!)


 ネネフィーは、過去の自分に自己嫌悪をしたが、すぐに気を取り直してキッと目を見開いた。


「お母様。私がアズ様にお会いした時、しっかりとご挨拶出来ておりましたか? 粗相などはしておりませんでしたか?」

「ネネちゃん。何言ってるの? ご挨拶どころか『えいっ』ってしていたじゃない~」


 そう言うと、アマリリスは右手で拳を作って前に突き出した。

 正拳突きのポーズである。


「?……まさかグーで……殴った……?」

「あら? 違ったわ。こうだったかしら~?」


 アマリリスはそう言いながら、手の平で空を切る。

 今度は手刀突きだ。


「え? え? 暴力? 暴力ですの!?」

 ネネフィーは混乱する頭で何とか記憶を辿る。

 しかし今から5年前。

 およそ10歳の頃の記憶など、やはり思い出せる気がしなかった。


 ネネフィーはうんうんと唸っていたが、次のアマリリスの一言で一気に記憶がよみがえった。


「アズベルト様、真っ黒だったものね~。ネネちゃん、それを助けてあげたのよ~」

「真っ黒、真っ黒? ……はっ……ま、さか……」

(何てこと!?)


 ネネフィーは、はっきりと思い出した。

 それから間髪入れずにおんおんと泣き崩れた。


「無理~~うわ~ん!!私、絶対に嫌われてますわぁ……うわ~んっ」

「まあまあネネちゃん、大丈夫よ~。婚約の打診があったのは、そのすぐ後だから! 先方は全く気にしていなかったわ! 良かったわね~」


(良くないですわ~~!!)


 ネネフィーは頭を抱えながら、取り敢えずアズベルトに謝罪すべく改めて手紙を書こうと心に誓った。



2022.11.06修正

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