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おや、アズベルトの様子が

「え? あれ? あれ?」


 微動だにしないアズベルトに、ネネフィーはきょとんとする。

 水鏡の向こう側にいる教皇も、口を開けたまま呆けている。


(えっ!? ま、まさかの人違い?!)


 初めて会う教皇の名を間違った挙句、会話を遮り、あまつさえ指を差して笑うという最強に無礼をかましてしまった自分の行為に、ネネフィーの体温が一気に下がっていく。


(な、なんとか誤魔化さなければ!)


「ミ、ミミミみ~みちゃ、み~ちゃった、見ちゃった、見ちゃったな~何て、あはははぁ~」

「……」

「……」

 何とも言えない空気が流れる。


「こほん、こほん。初めまして、教皇様。ネネフィー・ロッシーニでございます。このような格好で大変失礼致します。いつも父と母がお世話になっております」

 ネネフィーは、バスローブのまま美しい所作でカーテシーを行う。


「……」

「……」

「あらまあ! 私ったら、大切な用を思い出しましたわ! 申し訳ないですが、私はこれで失礼致します。それでは!」

 ネネフィーは満面の笑みを張り付けたまま、腰を下げつつ水鏡の死角へとすすすすっと後退する。


(ふぅ、ひとまずはごまかせましたわ!)

 ネネフィーは取り急ぎ何事もなかったかのように部屋を出て行こうとするが、アズベルトにぐいっと首根っこを摘まれた。


「うぐっ」

「待ちなさいネネ。ミッツァ、明日大神殿に赴く」

『承知しました』


 ネネフィーの首元を掴んだまま教皇にそう告げると、水鏡の映像がぷつりと切れた。

 静まり返る室内。

 ネネフィーは頑張ってドアノブに手を伸ばそうとするが、アズベルトに掴まれてギリギリのところで届かない。


「あ、あの~アズ様?」

「……」

 アズベルトは、片手で顔を覆うと大きく息を吐いた。


「ああネネフィー、愛し過ぎて一層憎らしいよ……」

 そう呟いたかと思うと、力任せにネネフィーの腕を掴んで引き寄せた。


「っ?!」


 今までにない強引な行為にネネフィーは驚く。

 見上げた彼の眼光は鋭く、掴まれた両肩には僅かに痛みが伴った。

 その時になって、ようやくアズベルトが怒っている事にネネフィーは気が付いた。


「どういう事でしょうか。もしかして記憶があるのですか? 何故私に黙っていたのですか?! 答えなさい!」

 強く肩を揺すられる。

 初めて見る剣幕に、ネネフィーは驚いて目を見開いた。


「あ、えっと、……その、私……」

 アズベルトははっと我に返ると、掴んでいた手を離した。


「あ、ああ。乱暴にしてすみません。取り乱しました、許して下さい」

 アズベルトはふらふらとソファーに近付くと、力なくドサリと座った。


(び、びっくりした……でも、怒った顔もすてき……)

 全く反省していないネネフィーだった。





 室内に沈黙が落ちる中、ネネフィーは運ばれてきた紅茶に口を付ける。

 ちらりとアズベルトを盗み見ると、明後日の方を向きながら長い脚を気だるげに投げ出し、肘をついてソファーに深く座っていた。

 その表情はどこか虚ろで気だるげで、それでいて不満げに見える。


(あれは完全に怒ってますわ……)

 流石のネネフィーも反省し始める。


 しかしネネフィーは、今自分に起こっているであろう現象が自分自身でも理解できない為、言葉で説明することが果たして出来るのか甚だ疑問だった。


 ネネフィーはう~んと考え込む。

 が、

(ま、いっか。何とかなりますわ~)

 面倒臭くてすぐに思考を放棄した。


「え~、こほん。あの、アズ様! 私のお話、聞いて下さいますか?」

 思い切って話し出したネネフィーに、アズベルトは無言で視線を向けた。


「あの、記憶はその、多分あります。でも記憶だと気付いたのは、たった今です」

「……たった今?」

 アズベルトの纏う空気が先程よりも柔らかくなったのを感じ、ネネフィーの身体から力が抜ける。


「その、私、昔から妄想がとても得意でして……」

 ネネフィーは両人差し指をくっつけてもじもじと動かす。


「妄想……?」

「3歳の時にリース様の肖像画を見てから、ずっとリース様の事を考えて過ごしてきました。出会って恋に落ちて婚姻して、それから子供を産んで……。色んな時代、背景などを変えて妄想していたのですが……」

「?」

「でも気付いたのです。それがどうやら過去の記憶であったと!」

「は?!」

 アズベルトは驚いて立ち上がる。


「どおりでやたら鮮明だと思いましたわ~おほほほほ」

 ネネフィーは笑ってごまかす。

 アズベルトは絶句した。


「何となく違和感を感じ始めたのが、バカンスが終わってアズ様と離れ離れになった頃からです。ですのでわざと隠していた訳ではないのです……」

「成程」

 アズベルトは考え込む。

 その時、室内にノックの音が響いた。


「お開けなさい、アズベルト」

 アズベルトの母ステファニーの声だった。

 先程紅茶を運んで来たメイドが報告したのだろう。


「ネネフィーちゃんを出しなさい。来ているのは分かっているのですよ」

 ネネフィーは気まずそうにアズベルトの顔を見る。

 するとアズベルトは息を吐いて立ち上がった。


「邪魔が入りましたね。続きは明日、大神殿で話しましょう」

 そう言うとアズベルトは扉の前まで歩く。


「ああ。そうそう」

 ドアノブに手を掛けながら、思い出したようにネネフィーに振り返る。


「記憶が戻ったと言うのでしたら、そのお腹の中にある結晶石についてもその時に説明して下さいね」

「?!」

 ネネフィーは驚いて下腹部を両手で隠す。


「いいですか、ネネフィー。今後私への隠し事は一切許しません。些細な事でも全て私と共有なさい。話せないと言うのなら聞き出すまでです。分かりましたか?」

 にっこりと笑うアズベルトの瞳は、全く笑っていなかった。


(め、めちゃくちゃ怒っておりますわ~~)

 ネネフィーはお腹を押さえながらコクコクと頷いた。


「よろしい」

 アズベルトは満足気に頷くと、ステファニーを招くべく自室の扉を開けた。


2022.11.30修正

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