1.死神のパペット
私は日本の死神まとめる大死神である。
私にはある悩みがあるのだ。
一概には言えないが生き物はいずれ死んでしまう。
人という生き物はそれを理解しながら生きている。ただその理解のせいで未練が残り、霊と成り世に留まってしまう。
それを晴らすのが死神の仕事…なのだが。
最近はどうも人間の感情が混ざった複雑で私たち死神の理解に及ばないものが多い。どうしたものか………。
………そうか!
死神にわからないのであれば人間の気持ちがわかる人間に解かせればいい!
いやはや私は天才だな。
その名も………。
―――――――――――――――――――――――――――
Y県 とある市 とある病院。
窓の外では桜の花が綺麗に咲き誇っている。
(春といえばやっぱり桜だな〜)
そんなどうでもいいことを考えながら僕は病院の白い廊下を歩いていた。僕の名前は柚木 優也
高校一年になったばかり。
運動神経も平凡よりちょっと低い、モテるわけでもない、
良いのは成績くらいかな。
と言っても上位ってくらいだけど。
そんな僕が何故病院にいるのかというと、
森 和樹という隣の高校に通う中学校の頃の友達(先輩)のお見舞いできているのである。入学式が終わってすぐのテストに向けて勉強しようとしていると森先輩が怪我をして入院したと連絡が来た。
僕は自分の持っている花に視線を落とす。
まぁ骨折とからしいしすぐ退院するだろう。
そう思いながら病室の前まで行く。
ふと前を見ると、同い年ぐらいだろうか?
高校生くらいの女の子と目が合った。
とても綺麗な子だった。二重で大きな目、
綺麗な肩にかからないくらいの黒髪、普通に学校なら
人気がありそうな子だった。
その子はとある病室の中に入っていった。その病室のプレートには森 和樹と書かれていた。
その病室は僕が入ろうとしていた病室だった。
「……えぇ⁉︎」
もしかしてあの人は……彼女とかなの
だろうか?この場合入っていいのだろうか?
そんなことを思ってしばらくの間待つことにした。しばらく桜を眺めていると。
「ふざけるな‼︎」
という先輩の怒号が聞こえてきた。
何事だろうと急いで中に入ると怒った先輩と凛とした表情でたたずむ女の子がいた。
「いっ一体どうしたんですか?」
と僕は尋ねた。
すると怒った声のまま先輩が
「こいつがふざけたことを言ってきたんだ‼︎」
と言った。
…何がなんだかさっぱりわからないんだが?
女の子は何も言わず黙っているため先輩から詳しく話を聞くともう先輩の寿命は少なくもうすぐ亡くなってしまうとかなんとか。
そしてあなたにはとても難しい未練があるということなので話してくれということらしい。
………ん?ちょっと待ってよく分からん。
これはなに?新しいジョークですか?
てか「こいつ」って言ってるし先輩の彼女ではないんですね。…ヤバイ情報が多すぎて頭が回らない。
話の内容がいまいちよく理解できないでいると、突然女の子が口を開いた。
「私は死神の操り人形と言います。我々は死神のパペットと呼んでいます。」
……死神?パペット?どういうこと?もっと訳がわからない。
「それ、名前じゃないよね?」
素直に疑問におもったことを尋ねると、
「はい、わたしは神崎 鳴といいます。」
そう彼女は答えた。ですよねー、自分で質問しておいて流石に名前じゃないだろうって思ったもん。
続けて死神のことを説明し始めた。
「まず死神について話します。死神はこの世に実際に存在しているものなのです。」
彼女曰く死神は亡くなった人をあの世へと送り届けるのが仕事なのだと。
また死神は亡くなる人の運命が見えるらしい。
「あなたは夏休みくらいに旅行で大阪に行く予定でしょう?」
彼女…神崎さんは先輩にそう問うた。
「ああそうだ、でもなんでそれを?友達も知らない筈だ。それに親にもまだ提案してない。
死神がそれを知っているなら行く途中で事故に遭うとか?」
そう先輩が心配そう言うと、
「いいえ。死ぬ理由などは言ってはならない規則ですが事故が死ぬ理由ではありません。ですがこれで信じてもらえましたか?私が死神の使いであることを。」
彼女がそう言うとまるで時間が止まったように静かになった。しばらくして、
「信じたわけじゃない、だが念のため聞いておく……あと、どれくらいだ?寿命は。」
先輩は呟いた。…先輩?
「それも言ってはいけない規則です。」
「私の役目はクライアントの未練を晴らすことです。」
「話してください。あなたの未練を。」
そう彼女は諭すように言った。
僕はこのなんとも言えない暗い空気の中に飲み込まれていた。
先輩は一日待ってくれと言って彼女を帰らせた。
僕は「どうするんですか?」と聞いた。
すると、
「信じる、難しい未練があるってこともあってるからな。」と言って俯いていた。
「詐欺かなにかじゃないですよね?」
心配して聞くと、
「あんな怪しいようなものはないだろう。それにあいつが嘘を言っているように聞こえない。なんか洗脳されてるみたいだ。」
先輩はそう言って窓の外を眺めている。
「僕も明日来ていいですか?」
僕がそう言うと、
「心配してくれてありがとな。頼むわ。」
と言って笑った。僕はその笑顔に暗い悲しい曇った感情のようなものを感じた。
――――――――――――――――――
次の日、僕は普段どおり学校へと自転車を漕ぐ。教室に入ると皆が「おはよう」とあいさつする。高校に入学して間もないが、中学校の同級生も何人かいるし、入学式の日にも何人か友達ができた。
特に仲良くなったのは前の席の松原 高貴
僕と違って陽気で元気に満ち溢れているような奴だ。
バカの様に感じるが実際成績は中間くらいらしい。
今、こいつが僕の読書の時間を邪魔している。
……こういうところが無けりゃbest friendなんだけど。
「なぁ優也、今日はお前の"隣の席"の子が来るらしいよ。」と高貴は嬉しそうに言う。
"隣の席"とは入学して一週間は誰も座っていなかった席のことだ。
「あぁ、登校してなかっただけなのか。」そう僕が言うと。
「そうだ。そして噂によるとその子はとても美人らしい。」高貴はもっと嬉しそうに言ってくる。
………なんか嫌な予感がするのだが?
キンコンカンコンと朝のチャイムが鳴る。そこで先生が教室に入って教卓の後ろに立つ。
「はい、ではいきなりですがみなさんにお知らせがあります。」
クラスの全員が先生の方へと視線が集まる。
「とある用事でここ一週間来れていなかったクラスメイトを紹介します。」
先生が入ってきて〜とドアに手招きをする。
数秒の間があったのだが、ドアが開き女の子が入ってきた。
……やっぱり。
そう思い僕は頭に手を当てる。
昨日会った死神のパペットとかいう子だ。
名前は確か………。
「神崎 鳴といいます。」
彼女は昨日とは別人のような満面の笑みを浮かべる。
僕は二度目の自己紹介を聞いたときふと疑問が浮かんだ。
(自己紹介でまたあんなことを言い出すんじゃ?)
そう思っていたが死神が〜とか言うことなく自己紹介を済ませ席へとついた。
……僕の隣の席に。
「よろしく。」そう声を掛けると、
「うん、よろしく。」と言われた。
いたって普通の人のようだ、
…昨日のことがなければの話なのだが。
本当に昨日とは別人みたいだ。
そう思えるほど神崎さんは明るい性格だった。授業ではよく発言するし、いきなり多くのクラスメイトから質問攻めになっても仲よく話していた。
……だめだ、昨日のことが頭から離れない。
学校が何事もなく終わり、さて帰ろうとした時、
「君、少し話があるんだけど。」
そう神崎さんに声を掛けられた。
何の用があるといいのだろう?
やっぱり昨日のことだよなー
そう思いながら廊下を歩く。
誰もいない教室に入るといきなり
「昨日のこと誰かに話した?」
と聞かれた。
「いや、話してないよ。」と咄嗟に答える。誰も信じないだろこんな話。
てか、昨日の子と別人ってわけではないようだな。
「よかった〜。死神の存在はクライアント以外喋っちゃいけない規則だから。」
神崎さんは心底安心したように言う。
…ん?
「じゃあ僕にも話しちゃダメなんじゃ?
なんであの時話したの?」
僕は疑問を口にする。
「あの時は君が来ることは予想してなかったから。テンパって…言っちゃった。
まぁ、ゆうて一人だし君が広めなきゃ
大丈夫だと思う。」
いや「言っちゃった」って、こんなポンコツな死神がいていいのだろうか?
「んで?昨日のはなんだったわけ?
死神のパペットとか言うやつ。」
そう聞くと、
「どうせこの件に絡んでくるだろうし
誰にも言わないなら教えてあげるけど」
絡んでくるって言い方、お前が巻き込んだんだろ。
僕が「絶対に言わない」と言うと、
彼女は話し始めた、
「死神のパペット」のことを、
死神の操り人形は普通の人間で地球上の何人かが選ばれて仕事をする。その時、人間ではなくなってしまう。
死神のパペットの来世は死神。
死神のパペットとして死んだ時、来世は死神としてこの世に生まれたつ。そして死神はそのまま他の神になるか、人間などの生物になって転生する。
それが死神のパペット。
その仕事はもうすぐ亡くなる人の中で死神自身が解けない未練を抱える人の前に現れ未練を解くこと。
死神のパペットは探偵のような仕事らしい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
神崎 響子の仕事履歴
・いなくなってしまった飼い猫を探し
新たな飼い主を見つてほしい。
・生き別れてしまった家族に手紙を送りたい。(家族の居場所をみつける)等
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「そして今回は森さんがクライアントということなの。」
「それはほんとうなのか?」
「うん、信じられないと思うけど。」
彼女は悲しそうに呟く。
こんな嘘をついても彼女になんのメリットもない金銭的要求も無いわけだし。だからこれは……。
「わかった。」
「えっ?」
「信じる。先輩が死んじゃうのは信じられないけどね。そのかわり、手伝わせてよ、未練解決するの。」
(これで嘘をついていたとしたら好き勝手はできないはず。)
神崎さんは僕の提案に驚き、しばらく考えて、「………分かった。」と言った。
「協力者なら死神さんも認めてくれるだろうし。」
(この感じからして嘘をついているようには感じないんだが?)
こんなやりとりをした後病院へ向かった。こう協力者になったものの、勢いだけで言ったため何をするのかよく分からない。そこで昨日の違和感のことを聞くことにした。
「昨日先輩は自分の死を素直に受け止めていたように感じたんだけど?あれはどういうこと?」
「あぁ、そのこと?あれは死神さんがアポを取っているからなの。」
「……」
「……」
「はぁ?」
…アポって事前にとるあれのこと?
「えっとちなみにどうやって?」
「死神のマリオネットが来る前の日の夜、夢の中に現れて説明するの。ほとんど忘れてしまうけど……
だから無意識のうちに自分がもうすぐ死んでしまうことが分かるの。」
…なんかまた信じられなくなってきた。てか無理やりな設定感半端ないな。
というか先輩が感じた洗脳はこれか。
「それにね、あの人は自分の死に何か心当たりがあるように思えたよ。」
それは僕も感じていた。何か察しているような、納得していたような、そんな気がしていたのだ。
なんだかんだ話していると、先輩の病室の前まで来た。
「失礼します。」と言って入ると、
「よっ‼︎」とあいさつされた。
病室にはいるや否や
「では早速、未練についてお聞かせください。」と言った。
「早くない?いやーもう少し話をしてから言うつもりだったんだがな。…まぁいっか。」と先輩は言う。
「話すよ。気になっていること、未練ってやつを。」
「待ってください信じるんですか?自分が死んでしまうこと?彼女のこと全部。」と僕が言うと、神崎さんがするどい視線を飛ばしてくる。…ごめんって。
「あぁ、信じるさ。自分のことは自分が一番分かってる。
自分が死ぬ事なんて自分でわかるもんさ。」と先輩が言う。
「いや、死とか一番分かってるのは死神さんなんだけどな。」と神崎さんが呟くもんだから僕は足で突っついた。
「俺が気になるのは、ある女子。その子の名前は笹森 茜という。」と先輩は言う。
「笹森 茜ってもしかして?」
と僕は聞き覚えのある名前に驚く。
「あぁ、二カ月前に亡くなってしまった子だ。自殺でね。」先輩はそう言う。
神崎さんは僕に、「どうして知ってたの?」と不思議そうに聞く。
まあ疑問に思っても仕方がないか。ニュースには自殺した少女の名前は明かされてなかったからな。
「笹森さんが亡くなったのは隣町の高校だし、うちの叔父が警察の刑事でね。
笹森さんの件に関わっていて少し話していたからね。
若いのに命を粗末にするなだのいってたよ。」
と僕は答える。
「刑事って事件じゃないから関わることがあるの?」とまた不思議そうに聞く。
「他殺じゃないか調べるのと、何か不可解なことがあったらしい。」
詳しいことは知らないが、偶然が重なり合ったものとして、警察は自殺と判断したらしい。
「だから俺の未練はその事件の謎を解き明かしてほしいと言うことだ。俺は笹森の中学の頃からを知っているが大人しいがいつも元気でとても自殺するような子じゃなかったからな。なんであんなことをしたのか知りたい。」
その言葉に神崎さんは、
「わっ分かりました。その未練解決しましょう。」とは言うものの自信がなさそうで、大丈夫か?という感じだった。
それもそのはず、だって仕事履歴を聞く限り彼女は事件のような未練は解決してきていない。今回が初なのだ。
……いや、本当に大丈夫か?と思い不安に感じていると。
「てっ手伝ってくれるよね?」と僕に
助けて欲しそうに見てくる。
「いやーちょっと思っていたのと違うかなーって、
スケールが大きいなーって。」と言うと。
「私だってこういう仕事は初めてだよ。だからこそ手伝ってよ。てか自分が手伝うって言ってたじゃん。」と反論する。
…まぁたしかに自分で言い出したしな。
ということで、「わかった、手伝う。」と同意した。
先輩は「どうしたんだ?」と言った顔でこちらを見る。
僕が話を変えようと「まずは、自殺してしまった理由に何か心当たりがありませんか。」と聞く。
先輩は数秒考えながらも「うーん。無いと思うんだけどなー。」と答える。
とそこで神崎さんが
「そういえば森さんと笹森さんは付き合っていたのですか?」と聞く。
「えっ」とあからさまに先輩は動揺する。
「だってこういう未練の場合強い思いがその人にあるんですよね。今までの私の仕事で言うと飼い猫だったり家族だったり。」と神崎さんが言うと、
先輩が悲しそうに俯き気味に答えた。
「いや、そういった関係でわなかったよ。まぁたしかに
好きという感情はあったけどね。
それに彼女には付き合っている人がいるって噂だったしね。」
「そうでしたか。」と神崎さんは申し訳なさそうに言った。
「では、また伺います。」と神崎さんは言い、
部屋を出て行った。
……前を見てないが故に、入ってきた看護師さんにぶつかりそうになりながら。
神崎さんが出たのを見た先輩は「なんか微妙に心配なんだが?」と本音を零す。
そんな先輩に僕は「同意します。」と言って小さく笑う。
「まぁ全力でサポートしてやれよ。じゃなきゃ解決出来なさそうだしな。お前推理小説とか好きだろ?」と先輩が言う。
それとはちょっと違うと思うんだけど。
―その言葉に僕は「ハイ!!」と大きな声で返事した。先輩に心配されないように。