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第九話

「どういうこと、それって……」

「…………」


 ドラゴンから聞いた話が、にわかに信じられないと言った様子の二人。

 ドラゴンが語ったのは、二種類あると言った魔物の真相だった。


「どういうことも何も、そのままの意味だ。まず我は、魔王よりも前からこの世界に存在していた。この時点であり得ない話だと思ったのだろう?」

「…………」

「子が親を生むことなど出来ない。つまりだ。魔物は魔王が生み出したものだけではなく、元々生息していた者もいる、ということだ。この我の様にな」


 このドラゴンの言うことが本当なのだとしたら。

 人間と先住民である魔物と、魔王の生み出した魔物の三つ巴の構図が出来上がるのではないだろうか。

 二人はそう考え、敵が魔王だけではないのかもしれない、と緊張した面持ちになった。


「もっとも先住民である魔物の半分ほどは、魔王の生み出した魔物に倒されてしまっているがな。あやつは天才と言ってもいいだろう」

「天才って……」

「ごくごく最低限にとどめた魔力であれだけ高性能な魔物を大量に生み出し、自発的に数を増やす知性まで与えたのだ、天才と言わずして何とする? まぁお前たちの懸念している事も理解はできる。魔物の勢力が二つに増えた、と考えているのだろう?」

「そりゃ、まぁな……」


 アーシェルに世界を救わせるんだ、などと息巻いていた真宙だったが、敵が増えるということなら話は若干難しいものへと変わってしまう。

 そしてアーシェルとしても、二人だけでどこまで戦えるのか、不安を覚えずにはいられなかった。


「正解でもあるが、間違いでもあるな」

「どういう意味?」

「お前たち次第、ということだ。元々魔王の生み出した魔物への反発心は、先住民の誰もが持っている。もっとも残された先住民に当たる魔物は、ちょっとやそっとじゃ倒れない程度には力を持っているがな。魔王軍と我ら先住民は、敵同士と言っても差し支えない」

「それが、俺たち次第っていうのはどういう?」

「察しが悪いな、小僧。我らは、あの魔王軍の拵えた魔物の軍勢が気に入らぬと言っておるのだ。お前らにこの鉱石を譲ってやることで、あの気に入らん集団を滅ぼす助力となるのであれば、存分に役立ててもらいたい、そう考えているということだ」


 言うなりドラゴンが首をもたげ、鉱石に向かって眼力を込める。

 すると見る見る巨大な鉱石は大きさを変えていき、アーシェルの手に収まるほどの小ささにまでその身を縮めた。


「えっ……?」

「この大きさなら持っていけるだろう。だが、小さくなっても密度はそのままだ。強力な武器を打つことが出来るはず。……まぁ、それ相応の道具と鍛冶師は必要になるだろうがな」

「いいのかよ? 俺たちがこれで鍛えた剣を持って、お前らを討伐しにくるかも、とか考えねぇのか?」

「お前たちを見ていれば、そういう類の人間ではないことくらいわかる。我らとお前たちは、争う理由もないしな」


 あまりにも戦意を感じないドラゴンを見ていて、二人ともが毒気を抜かれた気分になり、顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。

 

「そっちに争う意志がないってことなら、俺たちもそれは同じだ。それどころか鉱石までもらっちまって……本当にいいのか?」

「いつか、誰かに託さねばならなかったものだからな。それに、守るものがなくなった今、我は自由の身よ。お前たちを見ていたら、久しぶりに暴れてやりたい気分になってきたわ」

「ちょ、ちょっと……?」

「慌てるな、お前たちを相手に暴れようというわけではない」


 そう言ってドラゴンは体を起こし、勢いに任せて天井をその巨体で貫く。

 尋常でない振動が辺りを支配し、二人は立っているのがやっとの有様だ。


「な、何よいきなり、何してんのよあんた!!」

「お、おいお前!! やっぱ俺たちを殺そうとか……」

「まぁ見ておれ」

 

 天井を突き抜けて体を完全に起こしたドラゴンが、更に天に向かって咆哮する。

 そして、口から収束したエネルギーを打ち出して山頂を破壊し尽くした。


「よし、これで出られるな」

「な……!」

「おいおい……半端ねぇな……」

「歩いて帰るのも面倒だろう。じっとしておれよ」


 土煙にまみれてドラゴンが、二人をそれぞれ片手に掴み羽を広げる。


「は!? ちょ、ちょっと!!」

「うわ!! 何すんだ!!」

「それ!!」


 巨大な二枚の翼をはためかせ、ドラゴンが空へと飛翔する。

 ドラゴンにしっかりと体を掴まれているから落下の心配はないが、初めて体験する生身での飛行。

 上空1000メートルを超える高さから眺める景色は壮観の一言に尽きる。


「す、すっげぇ……」

「か、風すごいわね……あとちょっと寒いかも……」

「アーシェル、風圧で顔すげぇ事になってんぞ。美人が台無しだな」

「あ、あんたこそ! 後で思い出して存分に笑ってやるからね!!」

「まだ知り合って二日程度の割に、お前たちは仲がいいな。いいコンビになりそうだ」


 悠然と空を飛びながら、ドラゴンが二人のやり取りを見て目を細める。

 アーシェルは寒いと言いながらも顔を赤らめ、真宙はそうだろ? などと言っている。


「魔王を討伐して、お前たちが仲良く暮らせる世界を作ってほしいものだな。いずれお前たちの子どもの顔なんかも……」

「はぁ!? や、やめてよ何をいきなり……」

「子ども? アーシェルのか? 可愛いだろうなぁ」

「な、何言ってるの!? 気が早すぎない!?」

「はっはっは! 娘、苦労しそうだな。お前にとって色々な意味での敵は、どうやら魔王だけではなさそうだ」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ありがとう、大分時間短縮になったわ」

「ドラゴンに掴まれて空飛ぶなんて経験、そうそう出来るもんじゃねぇしな」

「まぁ、今後どうなるかはわからないとは言え、現段階では我らは共闘している様なものだ。それに、必要とあらばお前たちを呼び立てることもあるやもしれん。その時は使いを寄越すから、よろしく頼む」


 ドラゴンはそれだけ言い、二人を村から少しだけ離れたところでおろす。

 徒歩で戻れば早くて数時間かかる道のりを、わずか数分で戻ることが叶った二人は、ドラゴンに礼を言って歩き出す。

 ドラゴンが二人にお幸せにな、などと言っていたが、真宙には聞こえておらず、アーシェルにのみ聞こえていたらしく顔を赤らめていた。


「何だお前、さっきので風邪でも引いたのか? 顔赤いけど」

「か、かもね。ちょっと冷えたし早く宿に戻りましょ」


 自身で否定していても、第三者から言われて自覚してしまう、という年頃の人間によくある恋愛模様。

 今のアーシェルがまさにそれで、彼女はすっかりと真宙を意識してしまっている。

 だからと言って旅の目的を忘れたわけではないが、無事に真宙が過ごせそうなところを探す、という一時的な目的に関しては、彼女の中で違うものへと変化を遂げていた。


(能力的には申し分ないわけだし……旅は道連れって言うものね。力になってもらうっていう大義名分があるなら、きっとずっと一緒にいられる)


 そんなことを考えながら更に顔を赤くし、アーシェルはスキップでもしてしまいそうな足取りを必死で押さえつけて村への道を歩んだ。


「……なぁ、何か臭わないか?」

「え? ……何か、焦げ臭い様な……」


 すっかりと浮かれてしまっているアーシェルに対して後ろを歩いていた真宙が、違和感を訴え彼女の肩を掴んだ。

 アーシェルの言う通り何かが燃えている様な、焦げ臭い臭いが辺りに充満している。


「あそこ……煙上がってねぇか?」

「焚火……にしてはちょっと数が……って、あそこってもしかして」

「ああ、急ごう!」


 二人が昨夜一泊した村。

 いくつもの煙が立ち上っているのは、村の方角だった。

 すぐに二人の中を嫌な予感が走り抜け、二人は全速力で村へと向かうことにした。


「……何だよ、これ」


 二人が到着して見たもの。

 それは先ほど出立したときとは打って変わって、無数の死体が転がり、火と血の海へと化した場所。

 村、と言われてもきっとこれが村であると答える人間の方が少ない。


 そう思わされるほどに、現場の状況は凄惨を極めていた。


「……ひどい」

「おい、アーシェル! この人まだ息がある!」


 真宙がかろうじて息のある男性を発見、すぐに駆け寄って少しでも情報を得るべく意識を呼び起こそうと試みる。

 そしてアーシェルは、そんな真宙の近くの地面を見てはっとする。


「ねぇ……これ、馬の蹄の跡じゃないかしら」

「え? ちょっと待て、この人、何か言ってるんだけど、虫の息でほとんど聞き取れねぇんだよ」


 そう言って真宙が懸命にその男性の声に耳を傾けようとした時、ゴウ! と唸る様な音が聞こえる。

 次の瞬間にアーシェルが動き、真宙の首根っこを掴んで数メートル下がっていた。


「な、何すんだ……って……」

「徹底してるわね……。噂には聞いてたけど」


 真宙がいた場所……つまり、男性が虫の息で倒れていた箇所に燃えた木が倒れてきていて、男性が事切れたであろうことは明白だった。

 もしアーシェルが引っ張ってくれなかったら。

 そう考えると血の気が引く様な感覚を覚えるが、アーシェルの顔を見て真宙の思考はすぐに違うものへと切り替わった。


「噂って、お前何か知ってるのか?」

「まぁ……せいぜい噂程度だろうなんて思ってたけど、まさかこんな身近で行き会うことになるとは思ってなかったわ」


 歯噛みして、アーシェルが俯き地面を拳で叩く。

 そんな様子を真宙は、息を飲んで見守っていた。

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