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Cross Road  作者: はざま そら
プロローグ
7/30

第七話 不吉の象徴だな

 次の日の朝。


 俺は目覚まし時計の甲高い音で意識が覚醒した。それは、いい。普通のことだろう。しかし、今日も俺の瞳からは涙が出ていて、枕はしっとりと湿り、濡れている。

 ……なぜ?わからない。昨日は悲しいことなんて起きていないはずだ。むしろ楽しいとさえ思っていたはずだ。

 寝起きの回らない頭で自問自答していたその時――


――ピンポーン。


 インターホンが鳴った。


 この状況は昨日と同じだ。

 誰が来たか大体わかる。

 昨日と同じでアカネだろう。

 俺は玄関に行き、鍵とチェーンロックを外し扉を開ける。


「おう、アカネか?」


 俺はそう言いながら相手の顔を覗き見た。


「おはよう、リーダー。」


 そこに居たのはアカネではなく、岡本さんだった。


「岡本さん!!どうしたんだ?!」


 予想外の人物に少しばかり声が上擦った。


「リーダー……もう忘れたのかしら?私の事はオカ子って呼んでって、言ったでしょう?」


 しまった!!つい、忘れてしまっていた!!それに岡本さんのなんだか不機嫌そうな声色にも驚く。


「あ、ごめん。それでオカ子はどうしたんだ?」


 オカ子と言うと機嫌を直したのか、いつもの声色に戻った。


「一緒に学校に行こうと思って……ダメ?」


 前髪の隙間から見える綺麗な瞳が小動物みたいに瞳をウルウルさせながら聞いてきた。……と、思う。実際はあまり見えてないが、多分そんな感じだ。


 ……うっ!!


 ダメだ今日も岡本さんにドキッと来てしまった。


「ダメじゃ無いけど、今から支度をするから時間がかかるぞ?」


「ええ、待っているから平気よ。」


「そうか、すぐ着替えてくるから待ってて。」


「うん。」


 俺は慌てて制服に着替え始めた。


 それにしても、岡本さんはどうして来たんだ?

 そんなに俺の事が心配なのか?

 それとも俺のことが好きなのか?と考えたが後者は無いだろうと深く考える事をやめた。期待し過ぎると後が辛くなるからな。

 俺は制服に着替え終わり、玄関に待たせたままのオカ子の元に行く。


「待たせて、ごめん。」


「ううん、大丈夫。それじゃ、行きましょ。」


 俺たちは学校へ向かう。

 その途中でオカ子が尋ねてきた。


「……それで、何か思い出した?」


「いや、特には。」


「そう……仕方ないわね。」


 そう答えた岡本さんは、少しだけ寂しそうに見えた。


「……ごめん。」


「別に謝らなくてもいいのよ。これからゆっくり思い出していけば大丈夫だから。」


 岡本さんの優しい言葉に俺は嬉しさと、早く記憶を取り戻さなければという強い焦燥感を感じた。

 朝早くから迎えに来てくれるくらい俺は心配されている。出来るだけこれ以上は……心配を掛けたくない。


「……ん?」


 俺は会話の途中で前方に黒い何かがいるのに気が付いた。それは……黒猫だった。その猫は全体的に黒毛だが、鼻辺りから胸にかけてと尻尾の先端だけ白色で、特徴のある猫である。

 黒猫は俺たちの前をゆっくりと通り過ぎると何処かへと行ってしまった。


「さっき通り過ぎた黒猫、とても可愛らしかったわね。」


 岡本さんも黒猫に気づいていたらしい。

 しかし、俺は、これから不吉なことが起きる前触れのように感じた。


「不吉の象徴だな。黒猫が前を通り過ぎると不幸な事が起きるって前に聞いた事がある。」


「確かにそうね。でも、イギリスの一部の地域では幸運の象徴と言われているのよ。」


 岡本さんは本当に博識だなと感心してしまう。

 確かに、黒猫を見ただけで不幸になってしまうのならば、今頃どれだけの人が不幸になっていることか。


「そうなのか、俺あんまり黒猫が好きじゃなかったけど、その話を聞いて好きになれそうだよ。」


「それは良かったわ、考え方は人それぞれだからね。なら、不吉を信じるんじゃなくて幸運を信じた方がお得だと思わない?」


「確かにそうだな、岡本さんのおかげで世界が広がった気がするよ。」


「それは大袈裟よ、それと……。」


「……ん?」


「オカ子よ。」


「あ……ごめん、俺また。なんかしっくりこなくて……。」


「そう?時期に慣れると思う。だって、前は私の事そう呼んでくれていたんだから……。」


「やっぱりそうだったのか。でも、他の人はオカ子って呼んでなかったけど。」


「そうね。リーダーだけだったわ。私の事をオカ子って呼んでいたのは……。」


 岡本さんの表情はきっと昔の俺の事を思い返している、そんな表情をしていた。


「最初は、物凄く嫌だったのよ。あだ名の理由も適当で……でも、慣れというのは怖いものね。そう呼んでくれなきゃ嫌だと感じてしまうの。そう感じる事ができたのはきっとリーダーが記憶をなくしたからね。」


「…………。」


 俺は何も声をかける事ができなかった。だから、思う。岡本さんの事はオカ子と呼んであげようと。記憶の戻らない今の俺がオカ子にできる事はそれしかないから……。


―――


 学校の授業はやっぱり退屈だ。何故なら、理解できないからだ。しかし、みんなは真剣に話を聞いている。退屈そうにしている奴なんて一人もいない。さすが進学校、レベルが違う。2年ものブランクは相当なもののようだ。

 そう言えば理解できない話というと、こんな話を聞いた事がある。自分とは違う趣味を持つ相手の話は退屈と感じてしまう時がある。それはその話を理解できないからだ。でも、自分が退屈と感じた話でもそいつと同じ趣味のやつが同じ話を聞いたらすごい面白い話と感じる事があるという話だ。

 今の俺の置かれている状況は正しく同じ原理だろう。

 しかし、思った。俺はオカルトには全然興味を持っていない。

 でも、昨日の部活は楽しかった。退屈なんて少しも思わなかった。さっきの原理で考えると、昨日の部活の時間は退屈と思うはずなんだ。なのにそう思わなかったという事は、部のみんなのおかげというのもあると思う。でも、朝オカ子が話してくれた黒猫の話と同じで、考え方は人それぞれ違う。だからさっきの原理通りの人がいるのは不思議ではない。でも、そんな原理に当てはめて考えてしまっていては、この世界は退屈に溢れてしまうだろう。なら、逆の発想で、理解できない話でも真剣に聞いて考えていればきっと理解できる。そう考えるのも悪くない。

 そう考えると世界は広がると思う。

 だから、今日の俺は授業中に寝ない。退屈と感じても周りの奴らと一緒に真剣に授業を聞こう、そう思った。

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