第二話 俺はロリコン趣味がある変態だったのか?
――ピンポーン
突然インターフォンが鳴った。
……誰かが来たようだ。
俺は出ていいものかと少し迷った。
何の用で俺の部屋に来たかは知らないが、その用事に記憶の無い俺が対応できるとは思えないからだ。しかし、何か大事な約束をしていてここに来てくれたとしたら、居留守を使ってやり過ごすというのは心苦しい。……少し考えてから、出てみることにした。
俺は玄関まで行き、チェーンは付けたまま鍵を開け、少しだけ扉を開ける。
――ガチャっ!
「はい、どちら様ですか?」
俺は扉の隙間に慎重に顔を近づけ相手の顔を見る。そいつは、車椅子に乗った少女?だった。
容姿の特徴は赤髪ツインテールで赤い瞳、背丈は車椅子に乗っているせいでよく分からないが仮に彼女が中学生だったとしたら平均よりも低い方だと思う。そして、ブレザータイプの青い制服を着ており胸元には赤いリボンが付いているが、それが更に幼さを強調している。まぁ、一言で言えばロリ系アニメのキャラクターのような女の子だ。実際にこんな感じの女の子が主人公のアニメがあったなと、ふと思い出した。その主人公は車椅子には乗っていなかったが。実は以前はその主人公のことが好きだったりした事がある。
「おはよう、トオル。今起きたとこなの?」
少女は笑顔で普通に挨拶をしてきた。その笑顔に少しドキッとしてしまった。幼い子特有の無邪気な笑顔。心が洗われるようだ……って、落ち着け……俺っ!!どうやら、相手は俺のことを知っているようだ。だが、俺は知らない。だから、少し強張った口調で少女に言った。
「……お前は誰だ?」
「……何を言っているの?それに、何で扉のチェーンを付けたまま話してるのよ。」
少女は困窮した表情を見せる。
「……どうやら俺は、朝から記憶がないらしくて君が誰か分からないんだ。……済まないが教えてくれないか?」
俺の言葉に少女は、こいつは一体何を言っているんだと言わんばかりの表情をして呆気に取られていた。まぁ、無理もないよな。いきなり記憶が無いだなんて信じられないのは当たり前だ。だから俺は力強く言った。
「本当なんだッ!!信じてくれッ!!」
真剣な俺の言葉を受けた少女はクスッと笑う。
「……トオルったら、朝から冗談キツイわよ。それか何?これは新しい遊びか何かかしら?」
どうやら、冗談だと思われているらしい。
「それに……わたしは貴方の彼女じゃない!」
少女の言葉にまるで鈍器で殴られたかのような衝撃を受けた。
――ナ・ン・ダ・トッ!!!!
俺にこんなロリの彼女がいたのか?俺はロリコン趣味がある変態だったのか?そんなはずは無いッ!!確かにこの少女は可愛い。それは、認めるッ!!だがッ、まだ幼すぎるように見える。でも、実際は俺と同い年ぐらいなのだろうか?……分からない。……分からない、分からない!!
俺の頭は完全にショートした。
だから俺は確認するために聞き返した。
「……君が俺の彼女だって話は……本当なのか?」
「えぇーそうよ!!あんなに愛し合ったのに、忘れちゃったの?誰がなんと言おうとわたしは貴方の彼女よ!!」
少女は当たり前のようにサラッと返事をする。
……軽く目眩がした。
俺は一体どんな奴だったんだ?
混乱し過ぎて頭がおかしくなりそうだ。俺は頭を左手で覆い聞いた。
「……何しに来たんだ?」
取り敢えず、何をしに来たのか目的を知らないと俺も今の状況を把握できない。
「何って……学校に行くんでしょ?せっかく起こしに来てあげたんじゃない!お礼ぐらい言いなさいよ!!」
なぜ、お礼をしなければいけないのか記憶のない俺には分からないが、取り敢えず言っとく。
「……アリガトウ。」
心のこもっていない返事に不機嫌そうに少女は悪態を付く。
「……何?その心のこもっていない返事はッ!!それに、いつものトオルと感じが違うから、調子が狂うわ!!」
そんなこと……記憶のない俺に言われても仕方ないじゃないか!!と内心思いつつも口には出さずに、今の状況を考える。
この少女が本当に、俺の彼女なのかはもう少し考えた方がいいだろう。記憶のない状態で早急に答えを出すのは良くない。
少女は学校に行くために俺を起こしに来たみたいだが、今の自分の体調を考えると学校を休んだ方がいいと思う。まずは、病院に行って、この身体の怠さと頭痛を診てもらった方がいい。そうわかっているのに、俺は今どんな学校に行っているのか見てみたいという欲求がわずかに勝る。二年前の記憶しかない俺にとっては、今の状況は未来にタイムトラベルしたみたいで、とても刺激的で知的好奇心を抑えることが出来なかった。
……せっかく起こしに来てくれたんだ……学校に行こう!!何か思い出すかもしれない。
そうと決まれば、まずは制服に着替えないとな……。
「……着替えてくるから待ってろ。」
「はーい、出来るだけ早くしてよね!!」
俺は玄関から自分の部屋に移動した。制服を探すためにクローゼットを開ける。その中は綺麗に整頓されており、すぐに制服を見つけることができた。制服はブレザータイプで青を基調とした上着にズボンは灰色がかったチェック柄だ。なかなかオシャレな制服だ。
俺は早速、着替え始める。
そう言えば部屋の中が綺麗なことに今更気付いた。男が一人で住んでいるところはだいたいものが散らかってたりするものだ。それなのにこの部屋はきちんと整理整頓がされている。俺は自分の真面目さに感心する。
……俺ってこんなに、綺麗好きだったか?
制服に着替え終わり、何気なくズボンのポケットに手を入れる。何か硬いものが手に当たった。取り出してみるとそれはスマホだった。
これは俺のスマホだろうか?見覚えの無いデザインをしていた。2年前に使っていた俺の記憶の中にあるスマホとは形が違っていたため一瞬迷ったが俺のズボンに入っていたんだから俺の物だろうと、スマホの電源を入れる。
――パスワードを入力してください。
という、画面が出てきた。
……マジか!!
確かにパスワードを設定しておく方がセキュリティー面で安心だが、自分のスマホなのにもどかしさを感じる。何個か思い当る数字を入力していくが結果は
――パスワードが違います。
と表示されるだけでパスワードを解除することはできなかった。
スマホは情報の塊だ。中の履歴を見ることで色々な事を知るチャンスだったが、これ以上、少女を待たせるのも悪いと思い、俺は一旦パスワードを解くのを諦め、再び玄関に行く。
チェーンを外し扉を開ける。
少女は退屈そうにスマホを弄っていた。
「……お待たせ。さぁ、行こうか!」
俺の声を聞き、少女はスマホから俺へと視線を移す。
改めて見るとなかなか整った顔立ちをしている、美人というより、可愛い部類に入る顔だ。
「おそーい!!だいぶ待ったんですけど!!……てか何よ、そんなにわたしの顔を見て、わたしの顔に何か付いてるの?」
あまりにもまじまじと顔を見ていたせいで不審がられたか。
「いや、何でも無い。……ただ、可愛いなと思っただけだよ。」
「か、か、かわ、可愛いって、何よッ!!そんなこと言われても全然嬉しく無いんだからねッ!!」
少女は顔を真っ赤にして照れている。何だこれ、これがツンデレって言うやつか。
――か、か、かわ、可愛いすぎだろぉぉぉぉおおおお!!!!
俺のテンションは今、間違いなくスーパーハイテンションになっていた。
今の俺の攻撃は何倍にも強化されていること間違いなしッ!!
「なんか、トオルからすさまじい熱気を感じるんだけど……。」
「ほら、時間が無いんだろ?早く学校に連れて行ってくれ。」
俺は少女より数歩前に歩き出す。すると後ろから少女が叫んだ。
「ちょっと待ちなさいよー!!車椅子押していってよッ!!」
その小さな身体のどこからこんな大きな声が出るのか不思議なくらい大声で驚いたため、身体がビクッと反応し、後ろを振り返った。
「……それぐらい自分でしろよ。」
俺は冷たく言う。だが、断っておく。俺が冷たい人間だから手を貸さないのでは無い!!
実は俺はまだ本調子では無い。だから、あまり面倒なことはしたくないだけなのだ。
「……いつも……押してくれてるのに……。」
ロリ少女は泣きそうな顔をする。表情をコロコロ変えて、忙しい奴だな。まぁ、俺も少し冷たくしすぎたかな。体調が悪いのは本当だが、今日起こしに来てくれた分ぐらいの仕事はしないとな。
「はいはい、押してやるから、そんな泣きそうな顔するなよな!」
「別に泣いてないもんッ!!トオルの意地悪ッ!!」
俺は車椅子のところまで戻り、ゆっくりと車椅子を押す。
車椅子を押すのは初めてのはずなのに、何度もしたことのある感覚に既視感を覚える。記憶はなくとも身体は覚えているということなのだろうか。
そういえば、この少女の名前をまだ聞いていないことを思い出した。
「ところで、さっき名前を聞きそびれたな。君の名前はなんて言うんだ?」
「……わたし?わたしは……アカネよ。って、まだその記憶喪失ごっこは続いているの?」
「……アカネか。悪いが記憶喪失は本当なんだ。いい加減分かってくれ。」
少女の名前を知ってもイマイチ、ピンとこない。特に記憶が蘇りはしなかった。
「ふーん、そう。トオルはわたしのことを、あーちゃんって呼んでたからそう呼んでね!!」
そんな恥ずかしいあだ名は絶対に言わない。だから、アカネの台詞を無視して俺は続けて質問する。
「俺は……何て名前なんだ?」
アカネは俺を訝しみながらも名前を教えてくれた。
「……。トオルは……相馬トオルって名前よ。」
「……そうま、とおる。」
自分の名前を聞いても何も思い出せなかった。だからだろう。俺は記憶が無いことの不安から表情が暗く陰る。
「そう……本当に何も覚えていないんだね。」
アカネは俺の顔を覗き見ながら本当に心配そうに言った。
どうやら、俺が本当に記憶喪失になった事を信じてくれたようだ。
「ああ、本当にすまない。」
「いや、いいんだよ。無理に思い出さなくても……トオルの記憶がちゃんと戻るように、私なんでも協力するから!!」
見た目はロリで頼りないが、なんとも心強い言葉だった。
「……ありがとうな、アカネ。」
「だって、わたしはトオルの彼女なんだから、これくらい当たり前よ!!」
アカネは見た目以上にしっかりしていて結構頼りになりそうだ。