第一話 突然インターフォンが鳴った。
――ピッ!ピピピピッ!ピピピピッ!
……何の音だろうか、機械的な音が鳴り続いている。
俺の視線は自然と音の鳴る方へ向かい、音の正体を確かめる。
音の正体は何の変哲もない目覚まし時計。時計の針は午前八時を指している。
――ズキっ!!
突然、頭を鈍器で殴られたかのような痛みが走る。
酷く、頭が痛む。
それに、なぜか分からないが瞳から涙が出ている。そのせいで白い枕が少し湿っていた。
……なぜ涙が出ているのだろうか?……何か、悲しいことでもあったのだろうか?
――ッ!!
今、何か思い出しそうになったが、再びズキッと頭が痛み上手く頭が働かない。
……ここはどこだ?混乱した頭で辺りを見渡し観察する。
俺が今いる場所は普通の学生が住んでいそうな何の変哲もない部屋。
部屋の隅には勉強机に椅子、本棚が設置されていて、部屋の真ん中には小さな白いテーブルがある。クローゼットは特に変わったところはない。そして、俺は今勉強机のある反対側の隅に設置されているベッドの上にいる。
……ここは……どこだ?
……分からない。
……何も……思い出せない。
取り敢えずさっきから五月蠅くなっている目覚まし時計のボタンを押し、音を止めた。静寂が部屋に訪れる。
部屋が静かになり多少、頭が働くようになってきた。
……まず、俺は誰だ?
俺は自分が何者なのか分からなかった。それに何故この場所にいるのかも……何も分からない。
……取り敢えず何でもいい。何か情報が欲しい。
俺はベッドから移動して部屋から出る。
部屋から出るとここが1LDKの造りの部屋であることが分かった。
俺はリビングにあるベランダの場所に移動する。ここが一体どこなのか外の情報が欲しかったためだ。
カーテンを開けると朝の日差しが容赦なく顔に降り注いだ。どうやら今日は晴天のようだ。俺は瞳を細め窓を開ける。
――ガラッ!!
窓を開けると朝の気持ちの良い風が優しく部屋に入ってくる。そして、外の景色を見る。そこにあったのは見たことの無い場所だった。
近くには駅があるが駅の名前はこの角度からでは見えない。その隣にコンビニがある。そして出勤時間だからだろう、スーツ姿のサラリーマン風の人や学生服を着た人達が何人か道路を横断したり、車が通っていたりと普通の日常風景がそこにはあった。そして、ここはどうやら三階建てのアパートのようで、ここは二階に位置しているようだ。それ以上は情報が手に入りそうになかった。
ベランダから部屋に戻り、改めてリビングを見回しテレビがあることに気付いた。
「……テレビを見れば何か分かるかもしれない。」
俺はテレビのリモコンを探すことにした。
リモコンはテレビ前に設置してある小さな木製のテーブルに置いてありすぐに見つけられた。
この位置にリモコンがあるってことは、ここで誰かが生活しやすいようにこの場所に意図的に置いたってことだよな。となると、この部屋には俺以外の人がいるってことか?もしかして俺は誰かに監禁されているのか?
嫌な想像が頭の中をよぎったがその考えはすぐに消えた。もし、監禁されているとしたらこんなに自由に動けるようにしているはずがない。最低でも拘束されているはずだし、そもそも部屋にテレビなんて置いておかないだろう。俺は監禁の心配は要らないという考えに至り、少しホッとした。そして、早速テレビの電源を入れ、そして、俺は驚いた。なぜなら今現在の日付がオカシイことに気づいたからだ。
2026年6月29日
それは、俺の中にある記憶より二年以上も未来の日付だった。
何が起こっているのかさっぱり分からない。
つまり俺は2年先にタイムスリップしたってことなのか?そんな馬鹿なことあるわけがない。
そんなことは分かっているが頭痛のせいで思考は纏まらず、頭の中はクエスチョンだらけだ。
……取り敢えず、深呼吸をして落ち着こう。
すぅーーー、はぁーーー。
すぅーーー、はぁーーー。
……よし、少しは落ち着いた。
もう少しこの部屋を観察しよう。
俺は台所に移動することにした。
その途中の壁にカレンダーが貼ってあった。日付は2026年6月のページが開かれていた。やはりテレビの日付は間違いではないようだ。
台所も特に変わったところはなく、コンロ、換気扇、洗い場とごく普通のキッチンという印象だ。ここには手掛かりは無いと思ったその時、俺は違和感に気付いた。その違和感は洗い場に置かれている食器の数だ。コップが一人分、食器も一人分しかない事に気付いた。
俺はさっき他に誰がが生活していると考えたが、その考えは間違っているということになる。
結構情報が集まってきた。改めて今自分に起きている状況を整理してみよう。
俺は朝起きたら知らない部屋にいた。部屋は1LDKで、綺麗に整理されているが生活感があり、誰かがずっと生活している雰囲気がある。アパートの外には駅とコンビニが見える。そして、テレビに表示された二年先の日付。台所には一人分の食器。そして、自分の名前は分からないが、二年前の記憶は持っている。
「……なるほど、謎は解けたッ!!」
ビシッ!!と、右腕をまっすぐ伸ばし、親指と人差し指を開きL字型を作り某推理アニメの決めポーズをする。
……フッ、決まったッ!!
そして、誰に話すでもなく推理を披露する。
「……以上の情報から導き出される答えは、この部屋は正真正銘、俺自身の部屋である。部屋には生活感があり誰かが生活している、しかし、台所には一人分の食器とコップしかない、それがこの推理の決め手だ。しかし、それだともう一つの謎が生まれる。それは、何故この部屋は俺の部屋なのに俺にその覚えがないのか、だッ!!それは、テレビに映し出された二年先の日付。エイプリルフールでも無い今日に嘘の日付が出るのは考えにくい。だからこの日付は正しいということになる。そして、俺の中にある二年前の記憶。以上のことから導き出される答え、それは……俺が記憶喪失ということだッ!!」
謎は解明されたが、記憶喪失か……厄介だな。
二年もの空白の情報を埋めるのは大変だ。それにこの部屋には俺しか住んでいないし、ここがどこなのかも分からない。頼れる人物も思い当たらない。もはや万事休すかと、諦めかけた時だった。
――ピンポーン
突然インターフォンが鳴った。